58
馬車は大樹の側面で止まり、止まった場所には扉が用意されていた。
中に入っていくのかなと思っていたけれど、考えてみれば馬車で中には入らない。
スァロク含む5人の騎士に囲まれて、王様のところに向かうらしい。
聞くところによるとこの階は謁見用の階で、この上に他国で言うところの王城の機能がある。
王族が住まうのはさらにその上。この下が貴族街。
生活大変そうだなと思うのだけれど、慣れればそんなことないのだろうか。
魔法で補っているところもあるのか。
大樹の中は樹の温かさを生かした、それでも厳かな雰囲気で魔法で明かりが付けられているので暗くはない。
何と言うか、この樹生きていると思うんだけれど、大丈夫なのだろうか。
「この樹ってこんな風に中をくりぬいて、大丈夫なんですか?」
「開国以来、一度も問題は起こっていない」
「そうなんですね」
近くにいた騎士に訊いたら、お堅い返事が返ってきた。
ここが王階――王城にあたる階――で、彼らが騎士だから軽い返事はできないだろうけれど。
あと僕たちが来てから、かなりの数の監視に晒されている。
当然の措置か。相手がどう見ているかはわからないけれど、こちらはA級の依頼を達成できるだけの冒険者。
ステータス情報まで知っていたとしてD級程度にしか思われていないかもしれないけれど「何か奥の手があるのでは?」くらいの警戒はしていてもらわないと張り合いがない。
そもそも予想が正しければ、僕に求められるのは圧倒的な強さだろう。
むしろエンシェントエルフとしての影響力は、邪魔に思っているかもしれない。
民の感情はいくら王政だからと言っても、無視し続けるわけにはいかないだろうし。
僕が上位エルフであることが民に知れ渡れば、扇動することは簡単にできる。
有名人がコマーシャルに出るようなもの。
上手く使えれば有効だけれど、好き勝手されると面倒くさい。
津江みたいなものだ。津江はスキルでやっていたけれど。
しばらく歩くと重厚な扉が現れる。
いかにも奥に偉い人がいますよ、と言わんばかりだ。
ここまで来ておいてなんだけれだけれど、こうやって王族とか貴族にかかわるのは、文月とか藤原の役目だと思っていたんだけどなぁ。
あっちはテンプレ的に、馬車を助けたら領主の娘でしたとか一国の姫でしたパターンに違いない。
そもそも王族貴族と関わっているのかは知らないけれど。
扉の前の騎士とやり取りがあって、開かれた。
中には玉座があり、そこに髪の長い威厳あるおじさんが座っている。
おじさんって言うのも変な感じなのだけれど、年を取ったエルフはどう表現したら良いのかわからない。
お爺さんではないし、お兄さんって感じでもない。でも年齢は今まで見てきたエルフの中でも最高齢クラス。
そもそもエルフが何年生きるとか知らない。
僕の種族間の年齢感とか、そう言うのはやっぱり地球の人間に準じているので、目の前の人物を見てもピンとこない。
彼がエルフ王だとして、周りにも何人か人がいる。
此処にいるのが、精霊の樹の上層部ってことで良いのだろう。
後はこちらににらみを利かせた騎士が数人。ステータスは何とA級上位レベルがちらほらいる。具体的には平均が200を越えている。
流石に近衛ともなればこのレベルになるのか。
僕とルルスは王様の前に連れていかれて、周りの騎士は跪く。
当然僕はマネしない。何せ王族と対等らしいから。
王族の中でも、国王と王子では国王の方が上とかあるだろうけれど、僕は王族と対等だという。国王も王族である以上、国王と対等だともいえるはずなので、跪く必要はない。
詭弁と言われてしまえばそれだけれど、不敬罪に問われたところでどうにかできるだけの力は有しているので、情報をもらうために突っ立っておく。
「王の前に立つとは、何たる不敬」
こんなことをすれば、王はともかくその周りから不満が出るのは必然。
でも僕は気にせずに、立ったまま返答する。
「そこの騎士からわたしは、王族と同等と聞きましたが、違いましたか?
違ったのであれば、そちらの不手際です。わたし責任はありませんね?」
実際どうかは知らない。
スァロクを罰したうえで、僕にも不敬罪を適応させるということも可能だろう。
さて王様の反応は?
「構わぬ。確かに余と同格で扱うようにと通達したはずだ」
「しかし王よ」
「二度も言わせるな」
威厳たっぷりの声で返せば、食いかかってきていた上層部Aが引き下がる。
流石は王様。フラーウスの王様はどうだったか忘れたけれど、長生きしているだけのことはあるってものだ。
「だが戯れが過ぎれば痛い目を見るぞ?」
「ええ、心に刻んでおきます」
国王と同格だからと調子に乗るなと釘を刺してきたので、頷いておく。
フラーウスの例を見る限り、精霊は普通に探していて見つかる場所にはいなさそうだし、とりあえずは敵対するのは悪手だろうから。
「ところでなぜわたしを呼び寄せたのでしょうか?」
「其方の種族を思えば、この場に呼び寄せることは当然であろう?」
「質問を変えます。どうやってわたしの種族を知ったんですか?」
「それに答える必要はないな」
王様の表情が全然変わらないから、何考えているのかさっぱりわからない。
今後のために聞いておきたかったのだけれど、答えてほしければ何か差し出さなければならないと。
相変わらず試されている感じがして、気分はよくないなー。
「先ほどわたしを不敬と言った不敬を不問にするというのはどうでしょう?」
言い返せば、さっき食いついていたエルフが目を瞑った。
瞼にかなり力が入っているようで、プルプルしている。うん。さすがに顔を真っ赤にして怒りはしないか。
「上位種は他種族にもいるとされるが、その特徴はステータスの高さとその種族の特徴を色濃く表していることにあると言われておる。
其方は国境の森を越えてきたと言っておったな。其方ほどの年齢で越えられたのだとすれば、それは上位種の可能性が高かろうよ。
加えてその髪と瞳の色。それだけあれば、十分に予測は建てられる」
「なるほどわかりました」
あー……なるほどね。エルフらしすぎて駄目だと。
知らないよそんなの!