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ここから転生もの的な部分になります。
最初はテンプレ的に神様とか出てくるので、世界に戻るのはもう少し先です。
暗く暗く、沈んでいくような感覚が無限に続いていた。
あまりに長いので、これが地獄に落とされるという感覚なのだろうかと考える余裕まで生まれていた。
死んだら一切合切消えてしまうというのが、僕の予想だったのだけれど、そんなことはなかったらしい。
どれほどかの時間が過ぎたころ、急に何かに掬い上げられた。
真っ暗だった世界に、光が訪れる。
訪れたのは良いけれど、今度はピッカピカ過ぎないだろうか。
視界的には真っ黒だったものが、真っ白になっただけだ。
地獄ってもしかして、こういう何もない空間に閉じ込めて、精神破壊を狙う系なのかもしれない。
何も見えない、何も聞こえない状態でずっといると、数日で発狂するとか聞いたことがある。
だとしたら、それは僕に意味があるのだろうか。ずっとそんな感じだったのだけれど。もしかして、まだ死んでから1日もたっていないとか。
だとしたら発狂しそうだ。
それとも、落ちている感覚があった間は、ノーカウントなのかもしれない。
「君はなかなかに面白いことを考えるね。通山真君」
真っ白な中、声をかけられた。これは返せるのだろうか?
こちらの声なき声に反応してきたのだから、大丈夫だろう。
でもそれなら、地獄としての意味がないと思うのだけれど。
「ここは地獄ではないよ、マコト君」
「じゃあ、この真っ白なのどうにかしてくれませんかね?」
「ははッそれもそうだね」
ひょうきんな小父さんのような声のあと、急に世界に色が付いた。
と言っても、声の主が現れた程度だけれど。
声の主はなかなかダンディな40代だろうか。オールバックの髪に、穏やかな表情。口の上の髭もなかなか決まっている。
行ったことはないけれど、バーのマスターがこんなイメージだろうか。
トレンチコートでばっちり決めているのも、ポイントが高い。
対して僕の方は、よくわからない。ぼやっとしたものが、なんとなく人形っぽくなっている。
まだ黒子の方が存在感があるよね。たぶん。
あと喋れたね、僕。口も何もないのに。
「マコト君の姿については、消えていく途中を拾い上げたからね。
君にわかるように言えば、魂だけの状態だよ。
喋れるのも、別に空気を振動させて話しているわけじゃないから。マコト君魂だけだし」
「確かに」
「納得するんだね」
「正直あまり興味が無いので。察するに、貴方は神様的な存在ですよね。
それとも閻魔様的な方向ですか?」
神様と閻魔様の明確な違いは判らないけれど。
「マコト君の言い方から考えると、神様の方かな。
君達が召喚された世界を作った存在ではあるし、昔はいろいろ手助けもしていたからね」
「その神様が何の用ですか?」
「マコト君を生き返らせてあげようと思ってね」
「あー……生き返らせてあげるけど、異世界ねってやつですね」
うんうん。異世界転生ものの基本だよね。
そのままの能力では異世界でやっていけないから、チート能力くれる奴。
「お断りします」
「どうしてかな? 君を殺した相手に復讐できるよ?」
「僕の復讐終わったのたぶん知ってますよね? 割と満足して死んだと思うんですけど」
「はっはっは。そうだったね」
「喧嘩売ってんですか? 買いませんけど、生き返るのは勘弁です。
また死ぬのは耐えられそうにないですから。神様は死んだことありますか? 覚悟していても、かなりきついんですよ?」
「そうだろうね。そんな風に作ったもんねぇ」
しみじみと言うけれど、分かっていて掬い上げるとか……。
「でもね、こちらもやってほしいことがあるんだよ」
「パシリですね」
「対価に生き返らせてあげようと思ったんだけどね」
「のーさんきゅーです」
「本当に? 復讐は成ったっていうけれど、本当に君の思うように進んでいるとも限らないよね? それに君を召喚した国はそのままだ」
「言われてみればそうですけど……」
これで実は王国は勇者フレンドリーな国だったとしたら、目も当てられない。
「でも言う必要とか無かったですよね?」
「はっはっは。言えば未練が残るだろう?」
誰だこの親父をイケてるとか言ったの。
おちょくるの大好きやろうかよ。
「そもそも、なぜ僕なんですか? 死んだ人なら、他にもたくさんいるでしょう?」
「君のような逸材は他にいないんだよ。なんと言っても、此岸に全く心残りが無い。無理やり呼び起こしてようやくだ。
しかもそれが、復讐心だ。しかも出来れば確認したいな、程度。
彼らを見たらまた変わってくるかもしれないけれど、今の君はとても純粋で、がらんどうで、無関心。こんな魂はなかなか見つけられない」
「生き返った後で、復讐心が大きくなったらどうするんですか?」
「別にどうとも。感情のままに殺しつくしてもいいし、ついでに王国を滅ぼしてもいい。大事なのは、今この瞬間君があらゆるものに無関心なことだ。
しいて言えば、生き返ったらまた死なないといけないのか、それは嫌だなー。くらいなものだろう。でも、生き返ることを絶対に拒否するつもりもない」
なんだかんだ言ってきたけれど、相手は神だ。
その決定に僕の私情が挟まることはないだろうし、諦めるよ。普通。
「普通でもないんだけど。じゃあ、生き返らせるけど、死なないようにしてあげよう。それでどうだい?」
「いつか生きるのに飽きそうですね」
「その時には痛みもなく、苦しみもなく消してあげようじゃないか」
「それで神様が幼気な高校生を、パシリに使う理由はなんですか?」
どうせ、初めからそこに落ち着けるつもりだったのだ。
いま言った条件なら、僕は妥協すると初めから知っていただろうし。
「出来るだけ多くの精霊を救い出してほしい」
「精霊がいたんですね」
「もうすぐ世界が壊れるからね。その前に精霊を救い出して、ここまで連れてきてほしいんだ。
何せ精霊たちは世界を作るうえで、必要になるからね。世界と一緒に壊れてしまうと、作り直すのが面倒なんだよ」
情報量が多いうえに、いろいろ端折りすぎている。
世界が壊れる……神様が言うのだから、本当に壊れるのだろう。
で、おそらく神様は壊れた後で、新しい世界を造ろうとしている。そのためには精霊の力が必要。
言い方からして、精霊は捕らえられているのだと思う。でも、誰に? 魔王か?
「それは6分の1正解だね」
「6分の1ですか」
「精霊は全部で6人。わかると思うけど、地水火風と光闇で6人だね。
彼らの役割は世界のバランスを整えること。だけれど、その大きな力は動物に活力を与えたり、植物の生長を促したり、自然災害を抑えたりもできる。
それを知った人々は、自分たちで利用できないかと考えた。そこで彼らを捕らえ、捕らえた場所を中心に国を造った。
だから国の中心は豊かになり、人々は栄えて行った。同時に戦争も多発するようになった。
相手の国の精霊を手に入れたら、単純に2倍恩恵を受けられるからね」
「魔王っていうのは魔族の国で、精霊を1人捕らえているというわけですか」
「そうそう。君たちが召喚されたのは、あの国の精霊を守るためであり、他の国の精霊を奪うため」
で、僕に各国から精霊を奪って来いと。無理じゃないだろうか。
「だからできるだけだよ。仮に1人も助けられなかったとしても、新しく精霊やそれに類するものは作れるし。
それに君は神の使いとして、亜神になってもらうからね」
「初耳なんですけど」
「死なないようにするには、生き物の枠を超える必要がある。
でも、普通の魂だと柵が多くてね。亜神に出来たとしても碌なことにならない。
強大な力を使って、好き放題やり始める。神は世界に対して基本的に平等であるべきなんだよ」
「虫も人間も同じってことですか」
「そういうことだね。知的生命体っていうのは、一種の到達点でこうやって話もできるから、多少優遇したりするけれど。
だからと言って、全滅しても『あー、残念』程度にしか思わない」
「僕ならそれが出来ると」
「出来るように、魂を作り替えるというのが正しいけれど。
まったくの無感情になるわけじゃないし、君の意識も継続するようにするからその辺は安心してほしい」
神様が期待を込めた目でこちらを見てくるけれど、まあ、断るつもりもない。
面倒だけれど、こうなってしまった以上変えられないだろうし。
それに神様が言っていることもわかる。たぶん今の僕は、目の前で誰かが殺されても大して心が動かないだろう。
「確認なんですけど、神様は今の世界が壊れることに関心は?」
「もうないよ。世界が壊れる理由は、各種族が好き勝手にしているからだし。
決定的だったのが異世界からの召喚。無理やり他の次元につなげて、引っ張ってくるのに、世界に負担がないなんてありえないからね。
精霊もいない中でそんなことをすれば、世界は崩れるよ。
すでに何度も召喚しているから、世界が壊れるまでに君の感覚で20年もないんじゃないかな? さすがに明日明後日壊れるってこともないけど」
「もう1つ。神様自身がどうにかすることはできないんですか?」
「可能か不可能かで言ったら、可能だけど。顕微鏡にピンセットで、極小の調整を数百年単位でし続けることをやりたいと思う?」
「嫌ですね」
「やってもいいかなって思う世界ならいいんだけど、何度も神託を下しても無理だったからね。
神様にできることなんて、普通は全部壊すとか、0から作り上げるとか。
あとは誰かを送り込むことくらいだよ」
「分かりました。パシリになりますよ。その代わり、仕事が終わったら僕の頼みも聞いてくださいね」
「了解了解。精霊1人を助けるごとに1個願いを聞いてあげよう。まあ、神にできる範囲でしか応えられないけどね」
つまり最大6つまで願いを聞いてくれるのか。
「それじゃあ、作り替えるから。少し眠ってて」
「了解しました」
「あ、今使える体が女の子のものしかないから、見た目女の子になるけどいいよね」
最後の最後で爆弾を落としてきやがったけど、残念ながら眠すぎて反論できない。
それに、まあ……見た目が変わるくらい別にいいか。クラスメイトに殺されたことに比べたら、大したことじゃないしね。
それでは、おやすみなさい。