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 激戦の末、エルフ側は誰一人倒れることなく勝利することができた。

 ただしその戦闘において、腕を失ったエルフ騎士もいて、お祝いムードとは言い難い。

 戦闘を見ていた感じ、遠距離戦においてはエルフが有利で、近距離では獣人に分があると言ったところだろうか。


 それでも遠距離での蓄積ダメージと連携の巧拙が、人数差を覆した。

 そんな中、コミュ力低レベルの僕が出て行ったところで、何になるわけでもなし。事の成り行きを見守る。

 あわよくば、誰かが僕の様子を見に来てくれると、その人に感謝を伝えてもらうように頼むのだけれど。

 彼らが忠誠を誓っているのは僕ではなく、エルフの王族だろうし、よくわからん小娘のせい――ではないだろうけれど、僕を狙ったわけではないと思うし――で腕を失って何もなしと言うのはさすがに仕事と言えども憐みは感じる。


 来るならスァロクかな、と待っていたら、予想通りスァロクが馬車に顔を見せた。

 でも、なんだか怒っているっぽい。


「どうして手を貸してくれなかった?」

「スァロクさん達は護衛ですよね? なぜ護衛対象が戦う必要があるのでしょうか?」

「でもな! 腕を失ったやつがいるんだぞ……っ」


 激高するスァロクは案外熱い人なのかもしれない。

 だからと言って、僕にその怒りを向けるのはお門違いというやつだ。


「狙ってきた彼らの狙いが僕であれば、手助けをしたかもしれませんが、そうではないですよね?

 だからわたしが出来ることは、せいぜい戦ってくれたことへの感謝を伝えることくらいです。

 ありがとうございます。良く戦ってくれました」


 僕が頭を下げると、スァロクが歯を食いしばって何かに耐えている。

 騎士をしていれば、たぶんこれよりも理不尽なことがあるだろう。ぜひ飲み込んでもらいたい。

 暴れないと約束した手前、ここで襲われても専守防衛に努めるけれど。


「……その言葉を他の奴にも言ってくれ」

「わたしが行っても大丈夫ですか? たぶん印象よくないと思うんですけど」

「いいや、フィーニス様個人には何も思っていないさ。獣人のせいで仲間の腕を失った。それだけだ」

「そう言うことなら、行きましょうか」


 そんなやり取りをしたあと、護衛に頭を下げると全員受け入れてくれた。

 そのあたりスァロクの言っていた通りだったのだろう。

 出発に時間がかかりそうだったので、傷を治す程度で『聖女』のスキルを使ったら、むしろ僕を持ち上げ始めた。

 うるさかったので馬車に戻ると、ほどなく馬車が動き始めた。





 精霊の樹は、なんていうか本当に樹だった。

 途方もない大きさの樹の中に、町がある。

 馬車の中にいたせいで、気が付かなかったというのは少しもったいなかったかなとは思うけれど、ラノベ愛読者だった僕としては、いかにもなファンタジー感に感動している。


「お姉様はこういうのが好きなんですか?」

「こういうのは、物語とかでしか見られなかったですからね。

 やっぱり実際に見ると感動します」

「なるほど、そうですか。他に何か見たいものってありますか?」

「そうですね。あれば浮遊島とかみたいですね。後は巨大な滝とか、崖にそびえるお城とか見てみたいです。浮遊島以外は探せばあったかもしれませんが、少なくとも僕の周りにはありませんでした」

「参考にしますね」


 何の参考にするのかはわからないけれど、ルルスが参考になったというのならいいか。

 そう言えば、一応確認しておくか。


「この樹の中に精霊っていますか?」

「ほぼ間違いないでしょう。上に行くほど力が強いようなので、この樹の頂上付近にいると考えてよさそうです」

「やっぱりこの大きさって、精霊のお陰なんですよね?」

「此処は幾分歪ですけどね」

「でも、精霊ってすごいですね」


 そう言って答えると、ルルスが嬉しそうに微笑んだ。


 さて、樹が町だとすると上階に行くほど、身分が高い人が住んでいると考えられる。

 やっぱり精霊のところに行くには、王家は避けられないということか。


 何やら手続きがあるらしく、観察しながらルルスと待っているときにふとあることに気が付いた。

 それなりにたくさんのエルフが行き交っているけれど、全体的に色が薄い。

 思えば町のエルフも似たような感じだったと思う。


 まあ、それでも似た配色をしているので、僕よりもルルスの方が目立つだろうけれど。

 金髪エルフも1割くらいいるから、ルルスもそこまで目立たないと思うけれど。


 そんな微妙な引っ掛かりを覚えていたら、スァロクが戻ってきた。

 対獣人戦での諍いを飲み込んだらしく、今はもう前のようにふるまっている。


「さてお嬢様方。王階へとご案内しますので、もうしばらく馬車でお待ちください」


 言葉は丁寧なのに、どことなく感じる軟派感はさすがだと思う。

 これを純女の子が見たら、カッコいいと思うのだろうか。

 偽女の子のルルスを見ても、反応はない。


「どうやって上がるんですか?」

「この馬車は魔法具でね。決まった場所であれば、浮くんだよ」

「浮くんですねー」


 馬車が浮くってどうなんだろう?

 浮かせるならもっと、なんかそれっぽいものでやってほしかった。

 それっぽいのってなんだよって言われてもわからないけど。

 

 かぼちゃ?


 考えている間に馬車が樹を回り込むように動き出し、そして空を駆けるように浮き上がった。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>狙ってきた彼らの狙いが僕であれば ここだけ、一人称が僕になってますねぇ。
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