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「ところでフィーニス様は人の世に溶け込むつもりはあるんですか?」

「ありますよ。これでも元々人ですからね。擬態はばっちりです」

「確かにフィーニス様を見て、人外だと思う人はいないでしょうけれど……」


 空き家的宿にてルルスが急にそんなことを聞いてきた。

 なんだろう。耳フニしすぎて不興を買ったかな?

 というのは置いておいて、常識的観点から僕の間違いを指摘してくれているのだろう。


「質問を変えます。フィーニス様は目立ちたくなかったのですよね?」

「目立ちたくないですよ?」

「それならば、もう少し女性らしくふるまった方が良いかと思います」

「女性らしくって言われても、変なところありますか?」


 見た目は美少女、服は女物。話す言葉は丁寧語の僕に死角はないと思うのだけれど。

 話し方は自動翻訳で女性は女性っぽく、男性は男性っぽく翻訳されているけれど、実際のところは男女での違いはそんなにない。

 語調の柔らかさとか、そう言うので性別の特徴が出ているような気がする。


 と言うわけで、自信満々に言ってみたのだけれど、ルルスはビシッとベッドに座る僕の足を指さした。足を見ると僕は胡坐(あぐら)をかいていた。うん、無意識だね。


「女性はそう言う座り方はいたしません」

「仕草の話ですかー……でも冒険者ですから、ガサツな感じの方がそれっぽくないですか?」

「普通はそうですがフィーニス様の場合、見た目が一般人とは言えませんので、多少は女らしくしておいた方がいいのではないかと思います」

「えー……」


 面倒くさいという気持ちを一文字に込めて返したら、ルルスが呆れたように首を振った。

 なんだかルルスって、家庭教師みたいな感じになってきている気がする。

 見た目がほぼ一緒なので、家庭教師と言うか学級委員長とかだろうか。つまり市成(いちなり)月原(つきはら)と同じ。

 あの二人は僕に対して大して世話を焼いてはくれなかったけれど。


 大きなため息とともに、呆れた気持ちも吐き出したのか、ルルスが真面目な顔をして話を続ける。


「もちろん強制はいたしませんよ。

 ですが、フィーニス様は姿を変えることもできますし、男女年齢問わず違和感ない仕草が出来るようになっておいた方が便利だと思います」

「そのためにまずは女の子っぽくってことですか?」

「フィーニス様の容姿で礼儀もきちんとしておけば、上流階級との繋がりもできるかもしれませんよ?

 力業以外も使うつもりみたいですから、手札は多いほうが良いと思います」

「そうですね。少し練習してみましょうか。わかる範囲で良いので教えてください」

「承知いたしました。話し方も少し補整しておきましょう。仕草ほどではないですが、男性よりなところがありますから」

「はいはい。まかせましたよー」





 ルルスによる淑女レッスンはなんと、1時間程度で終わった。


 そもそもルルスも聞きかじりの知識だしね。

 それと『万能』さんが働いてくれました。教えてもらったことは、大体数回やれば出来るようになるので、今や立派な女の子的動きが出来ると思う。


「やっぱり亜神となると、覚えが違いますね」

「聞きかじりの割に、ルルスがいろいろ知っていたことの方が驚きです」

「知る機会だけは嫌と言うほどありましたから。

 考えてみればフィーニス様は、あのよくわからない自己紹介の時は、それなりに女性っぽい話し方・動きをしていた気がしますね」

「変じゃないです。真面目に考えましたー」

「真面目に変なこと考えていたんじゃないですか……」


 まあ、インパクト重視のつもりだからね。

 でもこの世界だと誰にも伝わらない。地球でも大して伝わらない気もするね。


「ところでこの町でどうするんですか?」

「どうしましょうか。しばらく冒険者として働いて、情報収集が有力ですけど、ルルスは何かしたいことありますか?」

「いいえ、特にはありません」

「世界の調整って言うのは大丈夫なんですか?」

「今現在やっていますから、大丈夫ですよ」


 自然にできるって話だったから驚くことではないけれど。

 でも動くのは明日からかな。


 もう夕方だから、今からコレギウムに行ってもたぶん依頼を受けさせてくれない。

 見た目のせいか依頼を受けようとしても「明日にしておいた方がいいですよ」と言われることが多い。

 フラーウスの国境の町でも最初はそうだった。

 見た目子供だと便利なこともあるけれど、意外と不便なことも多い。

 いや、普通に不便なことの方が多いか。この世界でも、地球でも。


「私がやらせておいてですが、フィーニス様は女性らしくふるまうことに抵抗はないんですか?」

「無いですよ。仕草はまだしも、その他はだいぶ慣れましたし。

 それにわたしの見た目が男だと、ルルスの耳をフニフニできなくなりますからね」

「……そんなに私の耳を触りたいのですね……」

「ええ、もちろんです!」


 いつかはフニモフさせてもらうのだから、そのためなら何の苦もない。

 異世界転生して性別が変わるというのも、度々見るパターンだ。

 強いて性転換したいと思ったことはないけれど、男で居続けたいという考えもなかった。


「そう言うルルスは、男性型になれないんですか?」

「この姿が基準になっていますから私には無理です。エルフの耳のように少し変えることはできますから、獣人っぽくはなれると思いますが」

「なるほど、なるほど。それはとても良いことを聞きました」

「言わない方が良かったですね」 


 次は獣人の町とかどうだろう。僕は簡単に擬態できるし、ルルスには兎の耳と尻尾を作ってもらおう。上にピンと伸びているのもいいけれど、垂れているのも良い。

 こういう時は猫が定番な気がするけれど、僕は兎が良い。


「フィーニス様……また良からぬことを考えていますね」

「ルルスってわたしの考えを読んでいるみたいですよね?

 神様に『読心』のスキルでも貰いました?」

「貰っていないです。

 フィーニス様は結構顔に出ますよ? と言うより、隠す気ないですよね?」

「バレたところで、痛くもかゆくもないですからねえ……」

「あと耳がものすごく動いてます」

「耳?」


 ルルスに言われて触ってみたけれど、別に動いていない。

 当然か。僕が変なことを考えている時に動いているって話だし。

 いつかルルスのピコピコ動く耳を、パシッと止めてみたいものだ。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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