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どうやら空き家とやらはコレギウムで管理しているらしく、すぐに鍵を貸してくれた。
場所を聞いて、ルルスと一緒に歩いて向かう。
フラーウスと比べると少ない人通りは、歩くのが楽でいい。
皆エルフなので、僕たちが目立つこともない……はず。
さて、ルルスと一緒に歩いているわけだけれど、やっぱりエルフって言うと気になるよね。耳。
ピコピコしているのを見ると、ついつい触りたくなってしまう。
獣人の耳とか尻尾を触りたくなるあれだ。
というわけで……。
「えい」
「ひゃ……ッ」
ふむふむ……ルルスのお耳は何だかフニフニしている感じ?
垂れているわけじゃないから骨が入ってそうなのだけれど、どうなっているんだろう。
試しに自分のを触ってみると、ちょっとコリコリしている。
軟骨が入っている感じ。
たぶんこれはルルスの方がイレギュラーだろう。
何せ僕は体は間違いなくエルフ。
対してルルスは不思議パワーで作られた、謎仕様の体だ。
いや魔力に近いもので、精霊力とでも言えばいいようなもので作っているのだけれど。
自分のとルルスのと比べて見た感じ、ルルスの耳の方が触り心地が良い。
そう思っていたら、なんだか注目されていた。
目立たないはずなのになぜ?
まさかあふれ出る神様オーラが……!!
「お姉様。とりあえず触るのを止めましょう」
「はい」
「それから、すぐに借りた家まで行ってお話をしましょう。
あまり目立ちたくないんですよね?」
「はい」
若干声色が冷たくなったルルスに睨まれ、そそくさと今日の宿に向かうことにした。
◇
到着したるは木の上の家。
梯子などはなかったので、軽く跳んで中に入った。
内装はワンルームの部屋にベッドがあるだけ。
そう、お風呂はまだしもトイレもなく、何なら調理する場所すらない。
これが一般的なエルフのお宅だった場合、エルフ達はトイレに行かないアイドル仕様である可能性が微粒子……いや、粒子レベルで存在する!?
深くは考えないことにしよう。
「フィーニス様。また変なこと考えてますね?」
「変なこととは何ですか。変なこととは。僕はいつも真剣に考えてますよ」
「変なことを真剣に考えているんですね?」
「適当なことを話してもちゃんと返答がくるっていいですね」
「適当なことって言いましたね」
うんうん。この感じは一人では出せなかったものだ。
相手がこの世界の存在じゃないというのも良い。
なんだかルルスは呆れているけれど、諦めてほしい。
ドア近くで突っ立っていいても仕方がないので、ベッドに腰かける。
「やっぱりエルフの耳を触るのはアウトですか?」
「分かっていてやったんですね?」
「お約束ですからね。触るのも、そのせいでエルフ的禁忌に触れるのも」
「禁忌と言うほどではありませんが、かなり親しい間柄ではないと触らせないと聞いたことがあります」
「つまり僕たちは恋人同士に見えたわけですね」
「仲が良い姉妹がせいぜいです。そもそも仲が良くても、外で触るようなものではありません」
「以後外では気を付けます」
そう言いながらルルスの後ろに回り、フニフニの耳を堪能する。
このフニフニは癖になる。きっと一般通過エルフでは出せない、触り心地。
葛餅的な?
「そう言えば、他にも何かエルフを相手に知っておくべきことってありますか?」
フニフニ。
「閉鎖的なので他種族相手には警戒心が強いのですが、私達には関係なさそうです」
「エルフって弓と魔法が得意って認識で良いんですか?」
フニフニフニ。
「そうですが……知らずに選んでいたんですね」
「弓を使っているのは、力加減が楽だからですからね。
僕の力が直接伝わるものだと、加減を失敗すると即塵になります」
フニフニフニフニフニ。
「楽しいですか?」
「楽しいです」
「そうですか」
ふざけるのもここまでにしておこう。
「そう言えば、やっぱり獣人の耳や尻尾も駄目ですか?」
「駄目ですね」
それは残念。でもルルスなら、耳尻尾くらい作れそうなので、いつかやってもらおう。
フニフニにモフみが加わり、最強に見えるかもしれない。
あと話しておくべきは……門番だろうか?
障害になるとは思わないけれど、今日の対応はちょっと気になる。
「さてルルスは門番のエルフをどう見ますか?」
「どう、とはどういうことですか?」
「エルフが閉鎖的だとして、同じエルフと言うだけで町に簡単に入れますかね?
自分で言うのもなんですが、僕たち結構怪しいですよ?」
「怪しかったのは否定しませんが……フィーニス様はどう考えているんですか?」
質問を質問で返すな! なんて言うつもりはない。
すぐに答えが思いつかないこともあるし、僕の考えを聞いて考えをまとめることもできるだろうし。
急に問われた方が困るってやつだ。
ルルス耳フニポジションの僕からは、ルルスの表情は見えないので困っているのかわからないけれど。
「どう考えているって程ではないですけど、何か裏がありそうだなってくらいです」
「そうですね。エルフは長寿ですが個体数は少なく、仲間意識が強いのは間違いありません。
ですからそこまで不思議には思いませんでしたが……フィーニス様が面倒くさそうな相手だったので、早く中に入れたかったのではないですか?」
「それありそうですね。と言うかありますね」
ルルスの言葉にどことなく棘があるどころか、もろ僕を名指ししているけれど、否定はできない。
たぶん僕もいきなり「天才弓使いのフィーニスちゃん」とか言われても、相手したくないだろうし。
「と言うか門でのこと、根に持ってますか?」
「いいえ。良くやろうと思ったなとは思いましたけれど」
「人相手にどれだけ馬鹿なことをしても、僕は気になりませんから。
それなら思いっきりやった方が、楽しいと思いませんか?」
「見ている分には愉快でした、と応えておきます。巻き込まれるのはごめんですね」
「人の目、気になりますか?」
「気になりませんが、自然を管理するものとしてのプライドがありますから」
プライドねえ……どこに捨ててきたっけな。
可能性として一番高いのはフラーウス城だと思うけれど、もう拾えないだろうな。
それにしても、ルルスは真面目だね。だから一応聞いておこうか。
「ところでルルス。僕は最短で精霊を助ける気はないんですけど、良いんですか?」
「存じています。フィーニス様が最短を目指しているのであれば、すでに半数以上を救い出しているでしょうから。ですがそれで構いません、別に精霊同士で特別仲が良かったわけでもありませんから」
なるほどなるほど。
「ルルスはすぐに消滅しそうな精霊がいるかどうかわかりますか?」
「各国に行けば何となくは分かりそうですが、現状数年で消滅するほど弱っているものは居ないと思います」
「それなら神様に願いを6つ叶えてもらえそうですね」
願いは何にしようかなー、なんて考えながらルルスの耳をフニフニすることにした。





