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閑話 道具として

閑話が続いていますが、今回はこれで最後になります。

次回から本編になるので、よろしくお願いします。

「先のマコトとの一戦。実際に戦った貴女はどう感じたかしら?」

「恐れながら、相当の実力者になっていたかと思います。

 少なくとも今のわたし達では、無駄に破壊されることは確実でしょう」


 通山君との戦いの後、訓練が厳しくなる程度で目立った罰を与えられなかった――市成君は除く――わたし、月原ひかりはトパーシオン殿下に呼び出されて、彼女の部屋で跪く。

 これがわたしの選択。死なないために、少しでも幸せになるためにわたしが選んだ道。

 薄情だと罵られようとも、裏切り者だと蔑まれようとも、今後わたしがフラーウスの道具としてトパーシオン殿下に忠誠を誓ったことは後悔しないだろう。


 そのせいで死ぬ事になったら、その時には真摯に受け入れる。

 彼がそうだったように。


 今回はその彼に会ってしまったので、感情が揺れたのは間違いないけれど、それでも道具であり続ける選択をわたしは再度確認した。


「そう言いつつ、手加減をしたなんてことはないかしら?

 他の兵器よりも貴女を買ってはいるけれど、唯一懸念があるとすればマコトとの関係よ?

 彼に対する後ろめたさから、フラーウスに忠誠を誓ったのでしょう? そうでなければ、あのような願いはしなかったはずだものね」

「迷いがなかったといえば嘘になります。城の中でしたので使える呪文に限りがあるのも確かです。

 ですが、手加減などする余裕はありませんでした。相手はキョウスケとシュンを素手で倒し、下級魔法で清良を沈めた相手です。物理・魔法問わずわたし達よりも格上だったと愚考します」

「今後彼と戦うことになっても、忠誠が誓えるかしら?」

「はい。彼は確かに死にました。ですから今の彼は禁術で蘇った魔物です。そうであれば、二度と迷うことはありません。

 それに彼はわたし達にフラーウスの道具であることを望んでいるようです。それならば、フラーウスの道具として、彼と戦うことに後ろめたさを感じる必要はないでしょう」


 本来なら精霊を奪われた責任を取る必要があるほどの失態。だけれど今回の件にかかわった人を処罰してしまうとフラーウス王国が立ち行かなくなる。

 そもそも精霊を奪われたことを他国に知られるわけにはいかないらしく、情報は城の中で押し殺され、絶対に漏れないように規制が敷かれた。

 精霊が奪われた場にいたのが、奴隷として王家に逆らえない勇者と殿下のみだったのも幸いだろう。


 外に漏れても賊が侵入して取り逃がした、程度の情報しか出回らないのだそうだ。


「貴女はわたくし達に嘘はつけない。だからその言葉は信じましょう。

 わたくしも彼の強さを再確認したかっただけだもの。

 ヒカリは魔法だけなら、もうフラーウスの中で1位2位を争うわ。だけれど、彼はその上を行くということに相違ないわね?」

「おっしゃる通りです」

「やはり彼をつつくのはダメね。自滅するのを待ちましょう。安心したかしら?」


 殿下がからかうように、試してくるように問いかけてくる。

 わたしが騎士であれば「そんなことはない、次こそは倒してみせます」くらい言うべきなのだろうけれど、わたしは道具。出来るのは真実を話すか、沈黙するだけ。


「はい。正直なところ安心いたしました。彼と戦い勝てる要素が今のところ見つかりません」

「いいわ。今回のことについても、彼の強さは完全に想定外だったもの。

 いきなり精霊の間に魔王が現れたようなもの。むしろわたくしを生かした事は評価されるわ。

 そうね、勇者の中で最も期待している貴女に何か褒美をあげようかしら。何か望みはあるかしら?」


 人のいい笑顔で殿下がわたしに問いかける。

 ここで解放を願えば、市成君と同じ末路を辿るだろう。

 この問いかけもわたしを試すものでしかない。本当に忠誠を誓っているのかを。

 隷属魔法で嘘をつけないようにしても、それを完全に信じているわけではない。それがトパーシオン殿下なのだ。


 だからと言って、立場が上の存在が何か褒美をと言っているのに、何もいらないというのはそれはそれで不敬に当たるらしい。


「恐れながら、キョウスケについてお教え願えませんか?」

「なるほどね。確かに気になるでしょう。貴女との約束にかかわるところだものね。

 ミカとキョウスケ、タカトシの3人に見切りをつけたら、特に苦しめてほしいだったわね。

 彼への贖罪のつもりかしら?」

「それを言い訳とした、自己満足のためです」


 嘘はつけない。直接手を下したであろう3人が苦しめば、少しくらいは彼への手向けになるだろうかとそう思ってのこと。だけれど手向けなんて言うのは残ったものの自己満足でしかない。

 交通事故で子供を殺した犯人がいくら反省したと反省文を親に送ったところで、事故現場に献花したところで、その親を逆なでするだけだろう。子供が安らかになるわけでもないだろう。


 だからわたしの願いは彼の気持ちを逆なでするものに違いなくて、それでも望まずにはいられなかった自己満足。

 わたしが死ぬとか、わたしが見切りをつけられた時に苦しめられるって言うのは無理。

 なぜなら殿下はわたしを殺さないから。わたしが殿下の忠実な兵器であることが条件だから。


「そう貴女は自分を殺しているようでいて、その実自分の欲に忠実よね。でも嫌いではないわ。

 わたくしもそれは変わらないもの」


 殿下が満足そうにうなずくのを見て、ホッとする。

 今のわたしは殿下の顔色をうかがいながら、道具として生きていくのが最良だから。


「キョウスケのことだったわね。彼は禁術の実験に使ったわ。

 実験は成功とも、失敗ともいえないわね。結果としてキョウスケの身体を別の何かが動かしているわ。おそらくは同じく実験として使われた凶悪犯の魂。だけれどその魂も壊れたみたいで、今は本当に人形ね。

 最低限の生活をなぞりながら、こちらの命令を聞く人形。使いどころはあるけれど、柔軟性に欠けるわ。こちらとしては厄介な存在を1つただの人形に出来たということで、収支はプラスとみているけれど、今後彼がどうなっていくのかは慎重に見定めないといけないわね」

「このまま、体まで壊れる可能性もあるんですか?」

「ええ、魂と体が互いに拒絶反応を起こしたらあり得るとされているわ。

 そうならないために、本来の魂を入れたままにしてあるのだけれど。

 だからキョウスケは死んだわけではないわ。あの中で確かに生きているの。知らない存在に主導権を握られつつ、確かに存在はしているわ」

「お教えいただきありがとうございます」


 その状態は果たしてどう感じるのだろうか。

 わたしにはわからないけれど、事実を知った時そんなに悪い気はしなかった。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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