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閑話 オレが消える日 後編1

はい。申し訳ありませんが、後編の1です。

閑話を書くとどうしても長くなってしまいますね。

今回はそこまで胸糞展開にはならないと思うので、閑話「オレが消える日」はここから読んでもらうと、比較的ストレスフリーかもしれません。

 指輪を貰ってから2日後の訓練。

 急に内容が厳しくなったと思ったら、細かくグループに分けられた。

 偉そうな態度をとる騎士にかなりイラついたので、後でメイドに文句を言って早々に女を用意してもらう事にしよう。


 分けられた先でも、担当する騎士はこちらを馬鹿にするような態度を崩さずにオレをイラつかせる。


「お前らは昨日までは勇者様だったかもしれんが、今日からはただの道具だ。

 上の言うことをただただ忠実に聞いておけばいいだけの兵器だ。

 どうしてかって顔をしているが、お前らが弱すぎるんだよ。勇者として召喚されてから、60日以上がたっているのに、誰一人俺にも勝てないだろう。


 そんな奴らが勇者様だなんて、笑っちまうからな。

 もう一度言うが、お前らは道具だ」


 訓練を始める前にそんなことをぬかしやがった。

 相手は大人で鍛えているようだが、こちとら勇者だ。今までだって城の兵士・騎士に負けたことはない。

 それなのに弱いだと? 道具だと?


「オレらが弱いってんなら、戦ってみろよ。

 お前ら誰一人オレに勝てたことねえだろうが」

「何をほざくかと思えばそんな事か。んなもん、手加減してたに決まってんだろ。

 キョウスケだったか? お前のへなちょこパンチが俺にあたることはねえよ」

「野郎……」


 こいつは黙っておけねえ。殴らないと気が済まねえ。殴るだけじゃ物足りねえな。殴り殺してやる。

 ニヤニヤとムカつく面しやがって。

 とりあえず、その顔面に一発くらっとけ。


 走って近づき騎士の顔面を殴ろうとした。渾身の一撃、避けられるはずがないと思っていたのに、いとも簡単に避けられた。

 しかも足を引っかけてきやがったせいで、勢いよく地面を転がる。


「くっそ。舐めやがって……」

「ほら、この程度だ」

「んな訳ねえだろ。ぶっ殺してやる」

「吠えるな、吠えるな」


 もう一度殴りにかかりに行ったが、今度はオレの方が殴られた。

 オレの拳は相手に届かない。

 もう一度立ち上がり、殴りかかる。

 次は足を思いっきり蹴られた。


 痛みに転げたオレの頭を騎士が踏みつける。


「弱い弱い。身体能力だけ上がったところで、基礎も何もあったもんじゃない。

 そういえばキョウスケは、姫さんから特に念入りに指導してくれって頼まれてたっけな。

 他の奴にもわかるように、ここで指導をしてやろう」


 オレの顔を覗き込みながら話す騎士に、オレは何も言い返せない。

 イラつく、イラつく、イラつく。絶対ぶっ殺す。


「反抗的な目だな」

「……ブッ」


 何があった? 急に頬に衝撃が走った。痛え、痛え、痛え、痛え。

 口の中まで痛え。

 何か口に入っているらしく、吐き出した。

 真っ赤な小石ほどの何か。その赤の向こうに少しだけ白い部分が見える。

 見覚えのある形。見覚えのある質感。


「は……?」


 その何かが歯だと気が付くと、口の中が焼けるように痛くなってきた。


「痛え、痛えほ」

「まだまだ大丈夫だろうがよ」


 腹を蹴られた。全く容赦がねえ。

 痛い。痛い。痛い。なんでこんなことになってる?


 何度も何度も蹴られた。腕が足が胸が頭が、痛みでどうにかなりそうだ。

 何度目かわからないくらい蹴られた後、オレの意識はプツリと途切れた。





 目が覚めたら見たことがない部屋にいた。

 散々蹴られて全身が痛かったのに、今はほとんど痛くない。

 本当にいたぶられたのか、夢だったのではないかと疑問に思ったが、抜けた歯がさっきのことが現実だったと思い知らせてくる。


 くそッ。馬鹿にしやがって……いつかぜってえぶっ殺す。面は覚えた。次に見かけたら、不意打ちで殴り殺す。


「目が覚めましたか。なんともなさそうですね。それでは失礼します」


 そんな声がしてそちらを見ると、オレ付きのメイドが今まさに部屋から出ていこうとしていた。

 問いただすにはちょうどいい。


「おい、待てよ」

「私、道具風情が呼び止めていい女ではないのですが……まあ、いいでしょう。

 どうしました?」

「なんだよ道具風情って」


 こいつもオレを道具扱いすんのか?

 だとしたら許さねえ。今日一日のムカつきを、全部こいつで発散してやる。

 この間の女と同じように壊してやる。


「道具は道具です。勇者とは国の兵器として召喚されたものです」

「そうかよ。お前もそう言うんだな。だったら、あの女と同じ目に遭わせてや……」

「ここまで愚かだといっそ清々しいですね」


 馬鹿にしたような目をメイドが向けるが、伸ばした腕は相手に触れる前にオレの意思に反して止まり、背後から殴られたような感覚の後でまたも意識を失った。





 次に起きた時に寝かされていたのは、木箱に布をかぶせたようなベッドとは呼べない何かの上だった。

 手足に違和感があるので見てみると、ある程度の余裕があるが、手錠のような枷が取り付けられていた。

 引きちぎれないか試してみたが、びくともしない。どうやら足にもあるらしい。

 余裕があるので、歩くとか何かを食べるとかする事は出来そうだが、邪魔なことには変わりない。


 あたりを見ると、ベッド以外何もない冷たい部屋の中だった。

 壁があるべきところには格子が付いていて、ここが牢屋だということがわかる。


 だが、なぜオレが此処に入れられたのかがわからない。

 オレは勇者でこの国に必要な存在のはずだ。それにこの国はオレに借りがあるはずだ。

 それなのになんでなんだ。


 とにかく誰かいないことにははじまらない。

 思いっきり息を吸って、怒鳴ってやろうかと思ったのだが、声にならずに空気が口から出ていくだけだった。

 ハッとして、何か適当に話そうとしたんだが、全く声が出ない。


 何がどうなっていやがる。


 イラつきが力になるなら、今頃枷と牢屋を破壊していることだろう。

 何が何だかよくわからねえが、いやわからないこそムカついてくる。

 オレは悪いことはしていないはずだ。


 通山付きのメイドも王国が望んでいたから殺してやった。

 訓練にも出てやっていた。


 それなのに、なぜ蹴られなければならねえんだ。

 なぜ牢屋に入れられねえといけねえんだ。


 オレが何したってんだよ。


「トパーシオン殿下に頼んで声を封じてもらったのは正解でしたね。

 ご機嫌はいかがですか? ……そうですね、まだこう呼んでおきましょう。キョウスケ様」


 今すぐにでも暴れたい状態だったオレの前に、そう言ってオレ付きだったメイドが姿を現した。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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