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閑話 オレが消える日 前編

磔馬視点で次話の冒頭くらいまで胸糞展開になりそうな感じです。

苦手な方はお気を付けください。

 オレ――磔馬(たくま)恭介(きょうすけ)にとって、日本での生活は本当に面倒くさいものだった。

 中学時代からそうだが、とにかく気に食わない。

 誰かと一緒に仲良しこよしで、勉強とかスポーツとかまったくもって性に合わない。


 だから高校なんて行きたくなかったのだが、親に言われて仕方なく勉強して入学した。

 そうしなければ、家から追い出すとまで言われたのだからどうしようもなかった。

 いっそ家出をして働こうかと思ったのだが、中卒で働くことの難しさを知ったので、本当に選択肢がなかった。


 高校に入学したらしたで、成績についてグチグチ言ってくるし、親とは顔も合わせたくない。

 そのストレス発散にクラスの適当な相手でも殴ろうものなら、市成(いちなり)月原(つきはら)が出しゃばってくる。

 殴り倒してやろうかと思ったこともあるが、こいつらに喧嘩を売るとその後で教師に呼ばれたり、親を呼び出されたりと面倒になるので引くしかなかった。

 だから結局ストレスが溜まって、学校の外で他校の奴を相手に喧嘩をするようにした。


 外でやる分には雄一(ゆういち)がちょうどいい場所やタイミングを教えてくれたので、やりたい放題出来た。

 殺さない程度に加減はしたが、正直1度くらい殺ってみたいと思ったこともある。

 (しゅん)と絡むようになって、よりそう感じることが強くなった。


 殺りたいというよりも、オレがどこまでできるのか確かめたかったのかもしれない。


 だから召喚とか言って、日本から離れることになって、オレはかなり嬉しかった。

 何せうるさい親もいなければ、見張ってくるかのような視線を向ける教師もいない。

 雄一や俊、芳樹(よしき)と言ったいつもつるんでいた奴はいる。


 しかも勇者なんてたいそうな名目で呼ばれたオレ達は訓練さえ受けていれば、割と自由に生活できた。

 訓練も学校のようにお堅いものではなくて、好き勝手に殴れる楽しさがある。

 ほどほどに訓練をして適当に手を抜いて、訓練が終わったら通山をサンドバッグに復習をする。


 いつもならクラスメイトを殴ろうものなら、市成や月原が飛んできそうなものだが、召喚された後最初にやらかした通山はクラスメイト全員から嫌がらせを受けるような立場になった。

 だからオレ様が殴ろうと、蹴ろうと、誰も何も言わない。

 弱っちいくせにイきった発言をした通山が情けなくも地面に這いずる様子は、それだけで胸がスカッとした。


 城の飯もうまいし、一人一人にメイドまでつけてくれるフラーウス王国のために、少しくらいは働いてやっても良いかなと思うほど、ここでの生活は気に入っていた。


 1つ不満があるとすれば、通山を殴った後で高ぶった気持ちを鎮めてくれる女がいないこと。

 城のメイドと言うだけあって、オレに付いていたメイドも美人ではあったが、抱かせてくれることはなかった。

 むしろ世話をしてくれるメイドがいるからこそ、健全な男子たるもの抱きたいと思うものではないだろうか。


 無理やり犯すということも考えたが、それをするとさすがに城での立ち位置が悪くなるのは分かる。

 市原たちもさすがに文句を言ってくることだろう。

 ほぼ理想とも言える生活を捨てるほど、オレも馬鹿じゃない。


 どうにかして、女を調達できないかと思っていたら、オレ付きのメイドから1つ提案があった。


「勇者様方が召喚されてしばらくたちますね。キョウスケ様も男性でいらっしゃいますから、さぞ夜の方がお辛くなってきたのではないでしょうか」

「なんだ? 抱かせてくれんのか?」

「申し訳ありませんが、私もフラーウスの貴族の娘。婚約も済ませていない殿方と情を交わすことはできません。

 無理矢理なさった場合、キョウスケ様の立場が悪くなるでしょう。ですが日頃より頑張っていらっしゃるキョウスケ様に何もないというのも心が痛みます」

「何が言いたいんだよ」

「はい。仮に私が何者かに襲われた場合、真っ先に疑われるのはキョウスケ様です。

 それはどうしてかお分かりになりますか?」


 このメイドこちらを立ててくるし、礼儀もしっかりしているから文句はないのだが、話が遠回しで非常に面倒くせえ。

 言いたいことははっきり言えばいいものを。

 まあ、付き合ってやるが。


 こいつが襲われたらオレが疑われる理由なんて、難しいことでもない。


「オレ付きのメイドだからだろ?」

「その通りです。さすがキョウスケ様。つまり私以外ならどうでしょう」

「そのメイドが世話している奴に疑いが向くってわけか」

「御明察でございます」

「同じメイド仲間だろ? いいのかそんなこと言って」

「城にいるメイドはフラーウスの貴族の娘が担っております。

 その身分については徹底して調べておりますが、時に堂々と王家を快く思っていない者が務めることもあるのです。採用する理由は様々ですが、貴族たるもの嫌だと思っても受け入れなければならないこともあるとご理解ください」


 なるほどな。同じメイドだからって別に、仲良しこよしじゃねえわけだ。

 オレも別にクラスメイトと仲がいいわけじゃねえから、そのあたりは何となくわかる。

 しかも王族と喧嘩しようって奴の子供までメイドをやっていると。


「だがよ。上手くいくのかよ。自慢じゃないが、こういう事件を起こしたら真っ先に疑われる自信があるぞ?」

「キョウスケ様の素晴らしさは、伝わりにくいのかもしれませんね。

 誤解されやすいのも理解できます。しかし勇者様の中には1人、困った方がおられるでしょう?」

「ああ、なるほどな。いたわいたわ。クラスの鼻つまみ者が」


 妙な噂が流れまくって、クラス全員から嫌われている通山を犯人に仕立て上げれば、オレが疑われることもないだろう。


「通山付きのメイドがさっき言っていたメイドなんだな?」

「問題がある者同士まとめておいた方が、監視も楽ですから」

「で、そいつは何してたんだ?」

「誰とは申せませんが、城を嗅ぎまわり外部へと情報を漏らす者がいるのです。

 平然と機密事項を漏らそうとした輩が」

「処刑しちまえばいいじゃねぇか」

「相手もまた貴族の娘。簡単にはいかないのです」


 貴族って言うのは、平民から金を貰って好きに生きているってイメージがあったが、だいぶ面倒くさい立場らしい。

 オレなら絶対にやらねえな。それだったら勇者の方がいい。


「つまりそいつを処理したいから、先にオレが好きに使っていいってことだな?」


 尋ねても笑顔しか返ってこないが、違うなら違うとはっきり言うことだろう。

 ま、女が抱けるならオレはそれでいい。だからこの話に乗ってやろう。これも一種の善行ってやつだ。何せ城の裏切り者を消せるんだからな。

貴族の娘であるはずのアルクスを殺しても大丈夫(?)な理由は、賊(=通山)に殺されたと嘯き、アルクスは殺されてしまったが賊も討ったみたいな感じで、なぁなぁに収める準備があるからです。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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