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精霊を攫って数日。精霊が居なくなったとはいえ、数日で大きな変化はない。僕の見立てだと1年もすれば荒れ始めるだろう。
そんな中、元クラスメイト達の動向を確認するために、三度王城に潜り込むことにした。
まず貴族区画への行き方だけれど、フードお兄さんのお店を使わせてもらう。
何せあの扉は重いだけの扉だ。今の僕なら難なく開けられる。
店に入った段階でフードお兄さんには伝わるので、そう何度も使える手ではないのが難点だけれど。
先の王城潜入で1度使ったので、怪しまれないために今回は別のお客さんが入るのを粘った。
粘った結果、数日かかった。
いやあの店の惨状から考えると、むしろよく数日で行けたな、と言えるかもしれない。
後は扉を開けてこそっと外に出た後に、今までと同じように王城に潜入する。
当然警備は厳重になっているけれど、残念ながら壁の上にまでは手が回っていないらしく、難なく潜入することに成功できた。
それからは、トパーシオン王女に気が付かれないようについて回って情報を集める。
うん。数日前にあんな別れ方をしていて、こんなことをしていると思うとなんだかおかしくなってくる。顔を見せれば普通だったら気まずくなるだろう。
僕は普通ではないので、おかしくなるだけだけれど。
ついて回って分かったことは、フラーウス王国が北にあるニゲル国と戦争をしようとしていること。
この数日でかなり現実的なところまで計画が進んでいるらしい。
ニゲル国は魔族の国で、別名魔王国。魔王と呼ばれる存在が治める国で、僕たちがフラーウス王国に召喚された原因。
原因なんて言っても、魔王は普通に一国の王と言うだけだから、結局のところフラーウス王国が戦争の道具が欲しかったというだけの話だ。
それはそれとして、王女様もなかなかに覚悟が決まったことを考えている。
この作戦を決行するとなると、勇者は近いうちに北に送られるだろう。
それが分かれば十分か。
これから元クラスメイト達は、戦争に巻き込まれていくことだろう。
何せ個々が騎士の中でも上位の能力があるのだから。それに普通の騎士と違って、雑に扱っても何も言われない。
だからこそ、この計画が進んでいるのだと思う。だって勇者にやらせるなら、命令するだけでいいから。そのあとは出来栄えの差はあれど、仕損じることもないだろう。
なんか知らないけれど、前に見た時よりも訓練内容が容赦ないものになった市成を使えばいいんだと思う。
知らないことはないか。王女の前で侵入者に助けを求めれば、当然こうなる。
とりあえず、僕が望んだようには進んでいきそうなので、フラーウスでの活動はこれで終わりにしよう。
つまり元クラスメイト達を見るのも、これからしばらくはなくなるわけだ。
次に会うのはニゲル国あたりかな?
◇
『そういえば、禁術ってなんで禁術なんですか?』
フラーウス王都を出てから東に進む。向かうは大陸の北東にあるウィリディス国。
なぜならエルフがたくさんいるらしいから。見た目エルフの僕なら簡単に潜入できそうだと思ったのだ。
その道中、気になることがあったので神様テレフォンをしてみた。
毎回毎回つながるのだけれど、もしかして暇なのだろうか。
『どうだろうね。守るべき世界もなし、暇と言えば暇かもね。
でも新しく作る世界の準備もしているから、忙しくもあるかな。
それで禁術だけど、あれ魂劣化させるんだよね。だから徐々に本能を抑えられなくなるんだよ』
『ああ、なるほど。神様の仕事増えそうですね』
『そうなんだよね。新しい魂を作るにも、劣化した魂をどうにかするのも面倒だから、止めろって昔伝えたよ。伝えたけど、隠れて使うのも少なくなくてね』
『お疲れ様です。それからなんですが』
禁術についてはおまけ、ちょっと気になったから聞いてみただけ。
本題はこっち。
なぜかついてきている、黄色の球体。
『送ったはずの精霊が見えるんですが、僕の視界弄りました?』
『いいや。フィー君について行きたいって言うから。精霊的にその世界の乱れを放っておけないらしいよ』
『えー……ちゃんと崩壊するって教えなかったんですか?
それとも精霊助けたらどうにかなるレベルの崩壊なんですか?』
『全然。今更精霊を解放しても、崩壊までのタイムリミットが延びるわけでもないよ。
強いて言うなら、静かに崩壊するようになるかな。精霊が全くいない状態だと、そのうち地震や台風が頻発したり、天候が数分単位で変わったり、なんてことが起こるようになるけど、それが緩和される』
『神様的にそれは良いんですか?』
『精霊はどちらかと言えば、フィー君的立ち位置だからね。これくらいのわがままくらい聞くよ』
神様が言うならいいか。仮に世界の寿命が延びたとして、神様の感覚だと誤差みたいだし。
今まで閉じ込められていたのだから、精霊の気持ちもわからなくはない。壊れる前に世界を見ておきたいんだろう。
でも、これだけは確認しておかないといけない。
『改めてこの精霊が捕まっても、お願い聞いてもらいますからね』
『ははは、フィー君も物怖じしないよね。
そうだね、フィー君が精霊を故意に差し出しでもしない限り、今回助けた分の1回は認めるよ』
『了解です。そういうことなら、精霊と話してみます』
なるほどなー。精霊に対して悪感情があるわけでもなし、ふわふわついてくる精霊の方を見る。
「神様から話を聞きました。僕についてきたいんですか?」
『はい。よろしくおねがいします。フィーニス様』
「僕も話し相手は欲しかったからちょうどいい、と言えばいいんですが。
僕はこの世界に頓着はないんだけど、大丈夫ですか?」
『……それは承知の上です。
たとえこの世界が消えるものだとしても、一瞬でも長くこの世界を美しく保ちたいのです』
「そうですか。でも、たとえどんなに荒れた土地に出ても、足は止めないですよ?」
『構いません』
「人と積極的に敵対するつもりもないですよ?」
『構いません』
「僕の邪魔をしたら送り返しますよ?」
『もちろんです』
そのつもりなら構わないか。
「それじゃあ、行きましょうか」
『はい、お供いたします』
気持ちを新たに歩き出す。フラーウスの東の端まではまだ遠い。
これでフラーウス王国でのあれこれは、終わりになります。
この後はいろいろ挟んだ後、別の国の話になるかなと思います。
ひとまずここまでのお付き合いありがとうございました。
そしてこれからもよろしくお願いします。





