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「王女トパーシオンは、勇者達をそう簡単には死なせないよね」

「ええ、勇者までいなくなれば、それこそフラーウスは終わりよ。

 本当に、本当に忌々しい」


 トパーシオン王女が苦虫をかみつぶしたような顔をして呻く。

 んー、悠長に話をしてくれるということは、こちらが王女含めここにいる全員を殺す気がないことがバレているのだろうか。

 普通にバレるか。誰一人殺していないわけだし。こうやって話をしてくれるんだから、バレて正解。


 言いたいことを言ってくれたので、市成に視線を戻す。


「だから僕はクラスメイト達20人を許すことはないよ。

 同時に助けることはない。だって今の状況を僕が望んでいるんだから。

 君たちが僕をいじめはじめてから、君たちは仲間ではなくて敵になったんだから。それはきっと、これからも変わらない。


 だって、僕がいじめられた時の記憶は、殺された時の死の恐怖は、裏切られたことの悲しみは、最後まで信じてもらえなかった虚しさは、消えることがないんだから。

 たぶん君たちを今すぐ皆殺しにしても、満足することはないかもね。


 だから僕に許されることなく、すり減るまでフラーウス王国に使われることが僕がする復讐。

 不幸な君達を時折思い出して少しでも心を晴らしたいだけだよ。


 その代わり僕は極力君達に手を出さない。今日みたいに仕事の邪魔をされなかったらだけど」

「う……」


 復讐は「大切なものを奪った人」を殺して終わりなんて簡単なものではないと思う。

 なぜなら大切なものは返ってこない事も少なくないから。大切な人を殺されたなんて言うのが、一番わかりやすいだろう。


 僕の場合は少し違うけれど、心に癒えない傷は負ったんだと思う。

 少なくとも、この世界に来る前の僕には戻れない。

 どれだけ言葉を重ねられようと、やられた事実は変わらない。失ったものは返ってこない。


 さて、情けない顔をしている市成への言葉はこれで終わり。

 今は王女様とお話をしなければ。


「さてトパーシオン王女。そういうわけだから、勇者達はきちんと使い潰してほしいな。

 廃棄なんてもってのほか」

「それならば約束なさい。これ以上貴方がフラーウスを害さないと。

 貴方のスキルなら、それが可能でしょう?」

「もちろん出来るよ。だけど僕はあくまで使い走りの身だからね。

 目的の遂行のためには、フラーウスと敵対するかもしれないし、そもそも僕自身どれくらい保てるのかわからないから、縛られるのはごめんだね」


 なんて言っておいて、勝手に勘違いしてくれていれば御の字。

 自分がどれくらい持つかなんて本当にわからないしね。何千年、何万年、何億年……たぶん、存在し続けようと思えば永遠に存在できるのかもしれない。でもどこかで限界が来る可能性もある。それはわからない。

 だから嘘は言っていない。


「だからスキルは使わない。だけれど、積極的にフラーウスを攻撃することはしない。

 攻撃されたら反撃するくらいかな。

 それで駄目ならそれでも構わない。適当に城下町で暴れてくるから」

「勇者達が戦争で壊れた場合はどうする気かしら?」

「それは仕方がない。僕が咎めるのは簡単に彼らの首を切ってしまうことだから」

「生きていさえすれば、()()()は問わないと?」


 王女がそう言って、磔馬(たくま)を一瞥する。

 やっぱり何かやらかしたのか。

 出来れば心を壊さないでいてほしいけれど、あまり注文を出すのもどうかと思うので、判断はフラーウスに任せよう。


「問わないよ」

「……それならば、1つ条件を付けても良いかしら。そうしたらその提案を受け入れましょう。

 だけれどおそらく、貴方の意図を汲むために必要なことよ」

「内容は?」

「正面から出て行くこと。

 誰も殺さずに出て行けたなら、提案を受け入れるわ」


 正面から……ね。

 なるほどなるほど。そこの窓から出ていくのはダメだと。


 なぜそんなことをさせるのかと言えば、勇者達のせいで精霊が奪われたと思わせないため。

 勇者に責任が及べば、最悪極刑もあり得るのだろう。それは僕も望むところではない。

 だから僕が規格外の存在だったということにしたいわけだ。

 城の騎士や兵を相手にしても正面から逃げ出すような相手だとすれば、勇者の責任も小さくなる。


 組織というのはなんとも面倒くさいね。


「それじゃあ、それで。

 またお会いできるのを楽しみにしていますよ。王女様」

「そうね。会える機会があるといいわね」


 トパーシオン王女の言葉の裏には「貴方に残された時間は少ないだろうけれど」という皮肉が込められているけれど、残念ながら僕に残された時間はかなり長い。

 精霊を1人助けたことで、願いを1つ叶えてもらえることになったわけだし、生きながらえようと思えば永遠に近い時を得られるだろう。


 では、帰ることにしよう。


 階段を下りて、図書室に出る。

 それから図書室を出たところで、沢山の鎧を着込んだ騎士に囲まれた。

 その中で偉そうな人が囲んだままの状態で、低い声を出す。


「お前は誰だ? その先にはトパーシオン殿下しかいらっしゃらないはず」

「誰だろうね。王女様には手を出してないから安心してよ」

「当然だ。手を出していたら、ただでは済まさぬ。いやこうやって忍び込んだのだ、その首は必要あるまい」


 これ以上の問答は無用と、話しかけてきていた騎士が切りつけてきた。

 それが合図となり、騎士達が迫ってくる。


 んー、この中で1人くらい僕のことを覚えていそうなものだけれど、処分した相手は忘れてしまうのかもしれないな。

 それはそれで助かるけれど、なんだか悲しい。


 それはさておき、どうしてこんなところにこんなに騎士が多いのか。


 仕込んでいたんだろうな。しばらく戻ってこなければ、駆けつけるように言っておけばいい。

 勇者で戦力が足りなければ、伏兵まで用意していたわけだ。

 なんだかんだ市成と悠長に話をさせてくれたのも、伏兵が集まってくるまでの時間稼ぎだったのかもしれない。


 それはそれは、本当におつかれさまでした。





 はい、ゴール。

 と言うことで、騎士の武器破壊ゲーム。かかった時間はどれくらいでしょうか。


 うん、これでもちゃんと考えたんだ。

 ただ逃げるだけでも良いかなと思ったけれど、それだと僕の理不尽さが伝わらない。

 だからといって、下手に手を出すと、弱い人を殺してしまいかねない。

 そこで騎士達の武器を全部破壊しながら進むことにした。だけれど騎士の多くが、自分の命を賭してでも僕を捕まえようとするので、最終的に走って逃げた。


 結構な数の剣を割ったので実力は分かってもらえただろう。

 だから、騎士の武器破壊ゲームで考えると、スコアは低くなるような気がする。


 序盤頑張ったけど、だんだんダレてきた典型の結果だろう。


 なんてことはどうでもよくて、早いところ人目につかないところに行って、フィーニスに戻る。


 やっぱりフィーニスの時の姿が、自分って感じがする。


 うんうん。とりあえず、騒がしくなった貴族区画を抜けて、さっさと一般区画に戻ろう。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
襲ってくるものは、全て返り討ちにして殺してほしいね。
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