表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/197

44

「頼む。オレたちを助けてほしい」


 何か市成が世迷言を言い出した。

 なにをどうしたらそんな発想が出てくるのだろうか。


「どうして僕が助けないといけないの?」

()の通山ならそれができると思うから」

「確かにできるとは思うけど、僕が助ける義理はなくない?」

「クラスメイトじゃないか」

「いや、そのクラスメイトを信じずに殺したくせに、クラスメイトだから助けてほしいっておかしくない?」


 助けを求めたい気持ちは分かる。辛い訓練の毎日だろうし、生傷も絶えないみたいだし。

 最近は勇者達が強くなったのもあって、兵士・騎士達の手加減も無くなっているみたいだったからね。

 と言うか、そろそろ勇者達の方が強い。


 ステータスとスキルは言わずもがな、技術も伴うようになってきて、一流レベルではないと勝てないと思う。冒険者だとB級。

 だけれど、勇者達は国の奴隷になっている。

 そのせいで訓練であろうと、兵士や騎士に攻撃することができない。


 具体的には、勇者が隙をついて一本入れようとしても、すんでのところで動きが止まる。

 止まった隙に、逆に容赦のない一撃が加えられる。

 訓練をつけている騎士曰く「やったと思った時が最も危ない」ということだ。


 勇者達にしてみれば溜まったものではないだろう。理不尽だと思うだろう。


 なるほどなるほど、大変だとは思う。

 藁にもすがりたくなったのかもしれない。


 でも残念。僕は藁じゃない。取りつく島もなく断ったけれど、市成は諦めた様子もなく説得を始める。


「あの時はオレ達が悪かったよ。通山の話を聞こうともしなかった事、後悔してる。

 真実を知って反省したんだよ。だから辛い訓練も耐えてきた。オレ達は十分に罰を受けたんだ。

 だから許してほしい。助けてほしい。2度とこんな間違いは犯さないから」

「やだよ。面倒くさい」

「どうして。謝ったし、罰も受けた。あとどうしたら許してくれるんだよ」


 まるで悲劇のヒーローのように髪を振り乱して、感情をぶつけるように言ってくる。


 あー……うん。そうだね。そういう思考回路のわけね。


 学校だとそうだろう。謝ったら許す。正しいことだ。

 ルールを破っても、罰を受ければ許される。


 うんうん。正しい、正しい。でも。


「いやいや、どうやっても許さないよ。

 謝ったら許してくれって、人を殺しておいてそれはないでしょう」

「でも生き返ったじゃないか」

「消しゴム借りたわけじゃないんだから。しかも生き返らせたのは市成じゃないだろ?」

「罰も受けた」

「はぁ……生き返っても、市成が僕を殺した事実は変わらない。

 死ぬという恐怖を冤罪で与えられた事実は変わらない。トラウマにもなったこの恐怖どうしてくれるの? 虐められていた時の不満や恨みはどうしてくれるの?」

「どうしてって言われても……」


 どうしようもできないだろう。

 特にトラウマについてはどうにもできない。


 と言うか、僕はこれに殺されたのか……。

 なんだか悲しいやら、苛立つやら。折角顔を合わせたので、言いたいことは言ってしまおうか。少しは心が晴れるかもしれない。


「結局市成は、僕の気持ちはどうでもいいんだよね。

 だから許してなんて言えるし、助けてなんて言える。

 そもそも普通は、殺した相手に許しを請うなんてできないのに。たまたま生き返ったから、これ幸いと胸の()()()を取ろうとしているだけでしょう?」

「ち、ちが……」

「でも、まあ。市成達が大変だったのは、既に粗方知ってるよ。

 訓練が急にきつくなって、怪我も頻発するようになったみたいだし、騎士や兵士から罵倒されることもしょっちゅうだってね」

「あ、ああ。大変だったんだ。だから」


 縋るような市成の目がなんだかとても気持ち悪い。

 なんだかんだで手を差し伸べてくれると思っているのだろうか。自分は差し伸べなかったくせに。


「大変だとは思うけど、それは別に罰じゃないよね。大変だから罰だと思い込んでいるみたいだけど。

 確かにクラスメイト達がフラーウス王国に奴隷のように扱われることが、復讐だとしていたよ。

 でも僕が主導していたわけじゃないし、そもそもフラーウス王国はそういう計画だったんじゃない?

 最初から僕が居なければ、召喚された段階で今と同じようになっていたよね。


 僕の『契約』があったから、良い生活を送れていただけ。

 僕を殺したら、必然的に今の生活になる。

 全然罰じゃないよね。本来そうなるはずだった状況になっただけだよね」


 これが罰になるのであれば、多くの学校嫌いの学生が学校に行くことが罰になるだろう。

 働きたくない社会人が会社に行くことが罰になるだろう。


 なぜだか「まさか本当に通山が」なんて呟いている市成にちゃんと説明してあげよう。


「だからフラーウス王国からどんな扱いを受けても、僕は許さないし、助けないよ。

 僕がすることと言えば、苦しむ君達を見て笑うことくらいかな。


 様を見ろ(ざまあみろ)ってね。


 あとは、せっかく生き返ったから僕に絶対に許されない、恨まれ続けることも入れておこうかな。

 あ、でも1つだけこれをしてくれたら、許してあげようか」


 絶望に濁っていた市成の瞳に希望の色がにじむ。

 市成ってこんなにコロコロ表情が変わったっけ?

 それとも僕が遊びすぎているだけだろうか。面白いように気分が上がったり下がったりするから、ついやりすぎているのかもしれない。


「うん。一度死んで、生き返ることができたら、その時は許してあげる」

「そんな無茶な」

「無茶でもなんでも、死ぬ怖さを知るには一度死ぬしかないからね。

 目には目を歯には歯を、なんていうのが此処でも通じるかしらないけれど、分かりやすくはあるんじゃない?

 命を奪った償いは、命でもって果たされる……なんて。でも、まあ……」


 視線を市成から今まで黙ってくれているトパーシオン王女に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
mgfn4kzzfs7y4migblzdwd2gt6w_1cq8_hm_ow_58iu.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ