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精霊が捕らえられていた場所に姿を現したのは、『勇者』の市成と『賢者』の月原、『騎士』の朝日、『聖女』の山辺。それから、いじめの筆頭だった磔馬、磔馬とよくつるんでいた増本の6人。
全員のステータスは、B級冒険者よりも少し弱いくらい。スキルまで考えるとB級冒険者クラスの実力があると言える。
だからこそお披露目をしたのだろう。B級冒険者と言えば、戦いを生業とする人の中でも一流クラス。
この中で目を見張るのは、市成ではなくて月原。
彼女だけは平均100でステータス的にもB級冒険者にぎりぎり達する。
この中で最もステータスが高い。
気になるのが磔馬。体力と筋力がこの中で最も高い。
その割に知力や魔力が低く、脳筋感が否めない。この辺り増本も似たようなステータスをしているけれど。
問題は磔馬の表情。瞳には感情がなく、こちらを機械的に見ているような不気味さがある。
心が壊れたか、壊されたか。個人的には封印されて、体だけ乗っ取られたとかだと嬉しいんだけど。
表情で言えば、増本も大概ヤバい。
なんか目がギラギラしてる。6人の中で最も戦いに積極的なんだろう。
市成と朝日はこちらに目を合わせず、山辺は奥歯をかみしめたような顔で僕を見る。
月原は真面目な顔と言うか、決意を秘めたような力強い目をしていた。
ザッと様子をうかがってみたけれど、トパーシオン王女の命令はすでに下されている。
何を考えているのか少し話をしてみたかったけれど、仕方がないか。
姿が見えた後、真っ先に走ってきたのは増本。持っているスキルは『鉄の身体』と『威圧』。
『威圧』で僕の動きを止めて、『鉄の身体』で強化した拳で殴ってくるらしい。
筋力値にして120を強化した拳は、ただの土壁くらいなら壊してしまうだろう。敏捷も低くはないため、昔の僕なら1発殴られて生きていられるかどうかだった。
だけれど今の僕からすれば、あくびが出るほどの遅さだ。『威圧』も効かないので、「シッ」と気合を入れて放たれた拳を楽々避ける。
避けた先に磔馬が同じく殴りかかろうとしていたけれど、拳を掴んで力を入れすぎないように気を付けながら、壁に投げつけた。ぶつかると同時にドシンと大きな音を立て、血を吐いたかと思うと、そのまま床に落ちていく。
壁が壊れるんじゃないかと思ったけれど、手加減はそれなりにできているらしい。
それともここの壁が固いのかな? うん、どちらもあったということで。
ここで再び増本が殴りかかってきたので、横にそれて足を引っかけるように蹴った。
軽くしたつもりだったけれど、枝が折れるようにポキリと増本の足が折れる。死んではいないし、セーフだろう。うんうん。加減を間違えたとかはない。ない。
3番目の朝日は、剣を構えて向かってくるものの、体が引き気味。戦いたくないというのがわかるけれど、僕を慮ってということもなさそうだ。
後ろめたさもあるだろう。でも痛いのが嫌、って感じがする。
その割には様になっている剣筋を懐に潜り込むように回避して、顎の下にデコピンする。
顎下なのにデコピンとはこれ如何に。
脳震盪を起こさせるなんて初めてだけれど、どうやらうまくいったらしい。
朝日はフラフラと揺れた後で、座り込んだ。
さて前衛の3人の足止め(?)をしたところで、回復されるのは面倒なので、次は山辺に向かって「氷の粒」と魔法を使う。
僕の魔力で作られた無数の細かな氷の粒が、山辺に襲い掛かる。
手加減はしたつもりだったけれど、体のあちらこちらに傷を負った山辺はその場にうずくまった。
あとは2人。ここは先に月原だろうかと振り向いたら「氷の弾丸」という呪文の後で、拳ほどの氷の塊が高速でこちらに飛んできた。
あれだね。お城の中だから使える魔法が限られてくるんだね。
大規模魔法とか炎魔法とか、使えば大惨事になりかねないからね。
飛んできた氷の塊を素手で正面から叩き落とすと、月原が信じられないものを見るような目で僕を見る。
大きな隙を晒してくれたので「捕縛」魔法で、月原を捕らえた。
イメージとしては「蔦が出てきて、巻き付いて転がす」みたいな感じだったのだけれど、腕より太い蔦が月原を取り込むように巻き込んだ。
口までふさいでいるけれど、死ぬ事もなさそうなので放置。
最後の市成は『勇者』のスキルを使ってステータスを倍化、今までの中で最も早く近づいてきたけれど、倍加させたところで所詮値は3桁。
いつか見た僕を殺したものと同じような剣で、同じように突いてくる。
皮が、肉が、骨が、心臓が――貫かれる感覚がフラッシュバックして、一瞬体が固まってしまったけれど、今回はちゃんと見えている。
気が付いたら耐えがたい痛みを受けていたあの時とは違う。
親指と人差し指で剣を受け止め、そのまま力を入れて破壊してみた。
市成が驚く顔が、なんとも胸をスッと晴れやかにしてくれる。
辺りを確認してみたけれど、トパーシオン王女は何かしてくる様子はなし。
唖然とこちらを見ている様子なので、大丈夫だろう。
「お前、本当に通山なのか?」
ふいに市成に声をかけられた。その顔は驚いているようにも、恐怖しているようにも見える。
自分の手で殺した相手が生きていたら、恐怖もするか。
「だとしたら?」
「生きてたのか?」
「いや、死んだよ。市成が殺したじゃないか。
何? 生きていたら自分がやったことが許されるとでも思ってたの?」
市成が露骨に目を逸らす。
思っていたのか。浅はかな。僕が死ななかったとしても、殺そうとした事実は残るだろうに。
心臓を一突きしておいて、殺す気はなかったなんて言い訳が成り立つわけがない。
それはさておき、トパーシオン王女の命令はどうなったんだろうね。
もう達成不可と見て、解除したのかな? 勇者をここで殺されるのは得策じゃないと思ったのかもしれない。
僕には負けても、勇者は兵器としては優秀だから。
「じゃあ、どうして……」
「死んで生き返った。それだけだよ。
禁術って呼ばれている不完全な蘇生法があるんだから、不可能ではないんじゃない?
トパーシオン王女はそうならないように徹底していたみたいだけれど、フラーウス王国が知らない方法があるかもしれないし」
まあ、神様に生き返らせてもらったんだけど。
さて市成は何を考えているのだろうね。
現時点におけるステータス参考値:
朝日穂
体力:122
魔力:53
筋力:120
耐久:121
知力:59
抵抗:94
敏捷:94
市成隆俊
体力:128
魔力:77
筋力:113
耐久:93
知力:90
抵抗:81
敏捷:103
磔馬恭介
体力:150
魔力:40
筋力:140
耐久:111
知力:40
抵抗:48
敏捷:90
月原ひかり
体力:94
魔力:140
筋力:70
耐久:73
知力:120
抵抗:116
敏捷:87
増本俊
体力:125
魔力:43
筋力:120
耐久:70
知力:40
抵抗:48
敏捷:80
山辺清良
体力:76
魔力:123
筋力:54
耐久:108
知力:119
抵抗:122
敏捷:78





