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なんだか格好つけたような状況だけれど、すでに僕の不意打ちは終わっていて、ここで僕を捕まえたところでどうにもならない。
そう考えると、威勢よく出てきたトパーシオン王女が滑稽だ。
笑わないように気を付けなければ。
「驚かないんだな」
「貴方がいることは可能性としては考えていたのよ。
だけれど信じたくはなかったわ。貴方の死は念入りに確認したもの。
確実に灰にした。それなのになぜ生きているのかしらね」
「それは僕にもわからないね。気が付いたらこうなってた」
というのも、あながち嘘ではないと思う。
何せ僕も死ぬ気だったのだから。流され続けた結果、亜神として生き返ることになったともいえる。
トパーシオン王女はまるで発言の裏側を見透かすような目で、僕を見てくる。
「嘘も本当も言っていない、と言ったところかしら?」
「話しても良いけど、信じてくれないだろうからね。
それよりも、どうして僕が生きていると思ったのか聞かせてくれないか?」
「いいでしょう。今回もわたくし達の勝利は決まっているもの。
だけれど、おかしな行動を取ったらすぐにでも捕らえるわ」
勝ちが決まっている……勇者か騎士を連れてきたのか。
精霊の秘密を守らないといけない以上、連れてきたのは勇者かな。口封じが簡単だし。
だとしたら、階段辺りで勇者達が待っているのかもしれない。
通山真なら市成一人で事足りる。だからこその勝利宣言。
でもそれだと、通山の存在が元クラスメイト達にバレたかな。
「構わない。僕を捕らえられるとは思わないけど、話が終わるまでは大人しくしているよ」
んー、こんな話し方だったっけ?
まあ、会話できるから良いか。
トパーシオン王女は嘲るかのように笑ってから、話し始めた。
「貴方が犯したミスは2つね。1つは王妃様に違和感を与えたこと」
「違和感?」
「ええ。お母様は精霊が弱っていることを常に気にかけていたの。だからこそ、この部屋へのカギの管理は徹底していたわ。
だからこそ、入浴後の微妙な違和感に気が付いたのよ」
「根拠はないんだな」
「お母様はメイドにもカギは触らせないわ。だからそれで十分よ。何もなければそれで良いもの。精霊に関することは、いくら警戒しても足りないくらいよ。
むしろなぜ貴方は精霊について知っているのかしら? その魔法具をどうやって突破したのかしら?」
トパーシオン王女が額にしわを寄せる。
精霊の存在は一般的に広まっているわけではなさそうだからなー。
誰が教えたのか気になるのだろう。
はて、どう答えたものか。
精霊なんて知らないと言っても、ここにいる僕が言っても説得力はないだろうし。
「上に教えてもらったからね。魔法具は突破できるようなものを貰ったから、時間はかかったけれど、何とかなったよ」
「やっぱり禁術を使って、貴方を生き返らせた存在がいるのね?」
禁術とはかつて神様が使用を禁じた魔法の事。
死んだ人が生き返ったとすれば、この禁術によるものだと言える。
死んだ人を魔物にして生き返らせるような魔法。
イメージとしてはアンデッドだろうか。
生き返りはするものの、はじめは生前の姿のままだったのに、だんだんと魔物としての本能に飲まれていく。
最終的には人を襲い、その血肉を食べるようになる。と、この城で習った記憶がある。
トパーシオン王女が僕の死体を念入りに灰にしたところを見ると、本来は死体がないと蘇生は出来ないのかもしれない。
まあ、それも外れなのだけれど。
勘違いしてくれるなら、してくれていていいと思う。どうぞ疑心暗鬼になってください。
「その質問に答える前に僕が犯したって言う、2つ目のミスを教えてほしいんだけど」
「それは簡単よ。どういう理由か知らないけれど、ミカを買ったのよね?」
「店主には僕のことを話さないようにと約束していたはずなんだけど」
「ええ、確かに彼は何も言わなかったわね。いいえ、何も話せなかったわ」
「そういえば『契約』を経験済みだったんだっけ」
「ええ。そのスキルを使えるのは、わたくしの知る限り貴方だけだもの。
怪しまずにはいられないわ。貴方を放置して先手を取らせてはいけない、そうでしょう?
決行するなら勇者のお披露目で手薄になる今日。だけれどわたくしが知ったタイミングでは、もう大きな予定変更は許されない。だからわたくしの予定と勇者数人の予定を半日だけずらしたわ。
今日だけなら、お母様の違和感を信じて警戒を強めても大したこともないものね」
なんとも細い線に賭けてきたわけだ。ミスというけれど、2つを繋げないと今日ここに来ることはできないわけだし。
昨日のうちにお披露目に出発していたのも、早めにお披露目を終わらせるためか。
それだけ僕を評価してくれているということだろう。立場としては敵だけれど、何となく好敵手って感じがする。
クラスメイトで評価してくれた人が、果たして何人いたんだろうね。
「死ぬ前から僕のことを最も評価してくれているのはフラーウス王国だと思ってたけど、それはトパーシオン王女のお陰みたいだね」
「全く忌々しい。というのは、貴方にしてみれば最大の賛辞になるのかしら?」
「全力で向き合ってくれたって事だからね」
「さて話はこれで終わりね。いえ、一応聞いておこうかしら。
貴方を生き返らせた国はどこかしら? どのように生き返らせたのかしら?
教えてくれたら楽に死ねるわよ?」
「答えなかったら死なないんじゃない?」
挑発するように返したら、トパーシオン王女は声を上げて笑い始めた。
扇で口元を隠しているけれど、それって意味があるのだろうか。でも、個人的には悪役っぽい高笑いが聞けたので、満足です。
「そうね。答えなければ捕らえてから、時間をかけて話してもらうだけよ。
死なない分、こちらの方がマシ……なんて本気で考えているわけではないわよね?」
「死なないし捕まらないから問題ないかな」
「わたくしが一人だからと侮っているのかしら?
貴方程度なら、わたくし一人で十分だと思うけれど、わたくし達の兵器も連れてきているのよ?」
こちらを馬鹿にするように王女は見る。なるほど、通山真くらいならトパーシオン王女でも勝てるのか。
確かに強くはなかったからね。一国の王女も身を守るためにある程度は訓練しているってことだよね。
まあ、今の僕にはまるで意味がないのだけれど。なんて考えていたら「この者を捕らえなさい」と王女が僕を指さした。





