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やってきました勇者のお披露目! ……の前日。
とは言え、城下町はお祭りムードも最高潮と言った感じ。
当然僕は混ざれない。てんやわんやしているお城で待機です。
周りがあくせく働いている中で、一人のんびりしているのは優越感がある。
学校をずる休みしたらこんな気分だったんだろうか。
うーん……無理。妙な罪悪感で楽しめなかったと思う。
それはさておきこの数日間、今日と明日にどう動くかを考えていた。
精霊を助けるのは確定。邪魔が入らなければ――邪魔が入ったとしても達成すべき目標。
だからこその前乗り、だからこその暇な時間。
今日の魔力補充が終わったら即スタート。
魔法の檻突破RTAを始める事になる。
問題はそのあと。トパーシオン王女や元クラスメイト達と顔合わせをしても良いかなと思うし、別にしなくてもいいんじゃないかなとも思う。
特にトパーシオン王女には言っておきたいことがあるのだ。だけれど、通山が生きているというのを伝えるのも面倒くさいなと。
ということで、なるようになれ主義で、精霊さえ確保すれば後はどうなっても構わないという結論に至りました。
精霊がいなくなれば、仮に出会ったとしても、僕に構っている暇はなくなるだろうし。
ついでに晴れの舞台ではあるものの、勇者達の表情は暗かった。
明るくなれる要素なんて無いので、当然だけれど。
勇者達の表情は置いておいて、お披露目は明日なのにどうやら今日出発するらしい。
会場で準備とかリハーサルとかするのだろうか。
こんな表情が暗い勇者見せても仕方なさそうだからね。
民を安心させるためにも、立ち居振る舞いなんかを確認するのだろう。
奴隷の指輪があるとはいえ、万能って程ではないし。
遠目に勇者達の出発を見送ったところで、王妃が図書室の方へと向かうのが見えたので追いかける。
どことなく不安そうな顔で隠し部屋に入り、しばらくしてやっぱり不安そうな顔で出てくる。
ここまで心配せずとも、城を離れることくらい王妃ならあるだろうに。
さて、周りを確認してから、王妃と入れ替わるように隠し部屋に入る。
とりあえず中には誰もいないご様子。
魔法的な何かが仕掛けられてもいない。
精霊は相変わらず元気がない。
でも僕が来たことを喜んでくれているような気がする。
「それじゃあ、始めますか……」
魔法の檻の前に胡坐をかいて、集中する。
それでは、長い長い作業の始まりだ。
◇
うん、終わった。終わった。予定通り、丸一日かかった。
魔法の檻の中から、黄色の光の玉がフラフラと僕のほうへ近づいてくる。
詳しいところは分からないけれど、この精霊も大変だったのだろう。期間で言えばこの国ができたころから閉じ込められ、力を奪われ続けたようなものなのだから。
フラフラ近づいてきた精霊は、おさまりが良い感じに胡坐のうえに乗った。
『檻から出していただきありがとうございます』
落ち着いた女性の声が聞こえる。
果たしてどこからだろう、なんてネタは良いか。
「話せたんですね」
『いえ……はい。話せるようになりました。
檻の中は私の全ての機能を封じるので、話すこともできず申し訳ありません』
「僕はパシらされているだけなので、おとなしく助けられてくれるのならそれで構いませんよ」
『ぱし……?』
あー、パシるって言ってもわからないか。
早く出ていきたいけれど、精霊も弱っていることを考えるとすぐに移動するのはよくないかもしれないし、話に付き合うことにしよう。
「んーっと、お使いですかね?
神様に精霊を連れて来いって言われたんで、願いをかなえてくれる代わりに精霊を連れていく予定です」
あれ? これってパシリではないのでは?
でもパシリの大本は使い走りのはず。そこの報酬が生じても何ら問題はないと思う。
つまり、僕は神様のパシリである。
別にパシリに拘る意味はないのだけれど。
『それならば私はどうしたら良いのでしょう?』
「あー、とりあえず神様に訊いてみます」
そう言えば精霊見つけて、どうやって神様のところに送るか考えてなかったな。
精霊 神様 連れていく 方法
『いや普通に言ってくれたらこっちで回収するから』
『それじゃあ、お願いします』
こういうのは早いほうが良い。もたもたしている間に、横からかっさらわれるなんてことはあってはいけない。
でも神様が回収してくれるなら、僕の魔法の檻RTAは無意味だったのでは? 聞いてみよ。
『ところで、精霊を回収してくれる条件は何ですか?』
『フィー君が触れていることだね』
『距離じゃないんですね。1日が無駄になったわけではなくてよかったです』
『こればかりはね。安全にどうにかしようと思ったら、こうするしかないんだよ』
『はい。了解です。改めて回収お願いします』
『これで1人目クリアだね』
「今から神様が連れて行ってくれるらしいです」
『分かりました。この度は本当にありがとうございます』
足の上から精霊が消える。まあ、ギリギリセーフだったかな。
何せコツコツと階段を上がってくる音がしていたから。今はもうこの場がみられているかもしれないな。
背後からでは僕の姿もちゃんとは見えないだろうから、大丈夫。
んー、まだ勇者のお披露目をしていると思ったんだけどなー。
とりあえず、姿としては通山で良いかな。
話し方も変えないと。確か通山の時って、敬語しか使っていなかったわけじゃない。どんなだったかなー。
「勇者のお披露目はまだ続いていたんじゃないのか?」
「続いているわね。でも全員が最後までいる必要はないと思わないかしら?」
「そうだな。顔見せと表明をさせて戻ってくるのであれば、午前中で終わるか。
でも普通はそんなことしないと思うんだけど?」
「そうね。そんなスケジュールは本当ならあり得ないわ。
でもあり得ない日程を組む必要があると、わたくしは考えたのよ。どうやら考えは間違いじゃなかったみたいね」
振り返り立ち上がると、トパーシオン王女が鋭い目つきでこちらを見ていた。通山真の姿のはずなのだけれど、彼女は驚いた様子を見せなかった。