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「それは大変でしたね」


 津江(つのえ)の言葉に心からそう思った。

 大変だっただろう。日本で女子高生をやっていれば、そうそうできる体験じゃない。

 とは言え、自分は特別だと思い込んで、自爆しただけだ。


 同情心のどの字もわかない。


 なるべくして津江は売られたんだなと、その程度の感想しかない。

 話を聞く前から反省していることを期待していなかったし、難しいもんだなぁ……。反省していたからと言って、許すわけではないけれど。

 少なくとも人のままだったら、ここで怒っていたかもしれない。


 何せ未だに状況を理解せずに、こちらに敵意を向けているのだから。

 教育していないから奴隷になったって言う自覚がないのもわかるけれど、どうしてほぼ初対面であるはずの僕にここまで反抗的な態度がとれるのか。


 殺してほしいんだろうか?

 殺さないけど。


 でもちょっとムカついてる。


「大変だと思うならあたしを解放しなさいよっ!」

「嫌ですけど」

「どうして、なんであたしの言うことを聞かないのよ」

「それは僕にスキルが効かないからでしょうね」

「……す、スキル?」


 あ、駄目だ。スキルの存在をさっぱり忘れてしまっている。

 津江はスキルのオンオフをしていたようには見えないし、使い続けたせいでスキルでの力を自分自身の人望やカリスマと混同してしまったのか。

 だとしたら『扇動』の影響を受けて、津江の思うとおりに行動した人は、津江の味方だと認識していたのかもしれない。


 スキルで得られた肯定を、総意だと思っていたに違いない。

 そうでなければ、単身王女のところにはいかないだろう。

 自分の言ったことに肯定する人たちがいて、その存在のせいで自分が正義であると、真実であると誤認していたのだろう。


 井の中の蛙か、裸の王様か。


 反対に『扇動』によって得た支持を洗脳と断定し、クーデターを起こそうとしたと持っていったトパーシオン王女はさすがだと思う。

 というか、傍から見たらそうなるか。津江自身にその気がなくても、王族の決定に異を唱える集団を生み出しかねなかったわけだし。


 王政国でそんなことをすればどうなるのか……日本で生活していたのであれば、現実として実感できないだろうな。


「話を聞いた限り自業自得ですしね。守ってくれていた人を仲間皆で排除したんですよね?

 そりゃあ、その後の待遇が悪くなるのは当たり前じゃないですか」


 馬鹿にしたように、ふふふと笑ってみるけれど、これって結構難しい。


 中学生の時分、ニヒルな笑いの練習をしたことがあるけれど、いろいろ含んだ上品な笑いの練習はしてこなかったからね。

 英語の歌詞にあこがれて、一曲だけフルで歌えるようになったこともあったなぁ……。英語の成績は平均ちょっと上だったけど。


「守っていたって、なんのことよ」

「……そんなことも分かってないんですか? さすがにちょっとびっくりなんですが」


 いや、ほんとに。


「1人死んでそのあとから待遇が悪くなったんですよね?

 どう考えても、その人が守ってくれていたじゃないですか」

「そ、そんなはず……だ、だって、それはアイツがちゃんと話さないから……」


 なるほど、認めたくなかっただけか。自分のせいで今の状況になっているって。

 津江は自分の身を守るように、手を胸の前に組んで後ずさっている。


「原因の大元の噂を流した貴女の責任は大きいと思いますが……。

 まぁ、彼が話さなかったなんてことを、僕に言ったところでどうなりますか?

 殺される前の彼に言うべき言葉じゃないんですか? なんであんなこと言ったんだって。違いますか?」

「それは……」


 津江が押し黙り、目の端から涙がこぼれる。

 年下の女の子に泣かされている不真面目女子高生って需要あるんだろうか?


「受け入れるしかありませんよ。結局僕に買われた奴隷でしかないんですから。

 可哀そうって話なら、家族に売られた村娘のほうがまだ可哀そうです。彼女たちには選択肢はほとんどありませんからね。

 親の都合で生まれ、都合が悪くなったら売られるんです。


 たった一人を守っていれば、贅沢な暮らしができていた貴女とは違います。


 まあ、本来不幸なんて目に見えませんから、どちらが不幸と決めつけるのも変な話ですが、少なくとも貴女に対しては何も思いません」


 結構好き勝手に言ってみたけれど、何一つ言葉が返ってこない。

 だんまりってやつだ。都合が悪くなるとだんまりってやつだ。


 津江は政治家だった可能性が微粒子レベルで存在する……!?


「そういえば、先ほど『なぜ助けた』と尋ねてきましたが、どうして助けられたと思ったんですか?」

「だって、あたしは処分されるから、そうならないように……」

「いやいや、助けるために買うわけないじゃないですか。

 あ、そういえば助けてあげようとはしましたね。自分で死ねるようにそれ渡してあげましたから」


 そう言って、津江が投げた剣を指さす。


「何よ、死ねって言うのっ!?」

「死にたいって言っていたじゃないですか。

 それに死ねというわけではなくて、たぶんここで死んでいた方がマシだったと思えるようになるかな、と思っただけです」

「あ、あたしに何をさせる気よ」

「いいえ、僕は特に何かしたいわけではないんですけど。

 とりあえず、3つ約束してください。1つ僕に関する事をどんな存在にも伝えない事。1つ僕がこの家を出て行って以降僕の許可なく話さないこと。1つ自殺しないこと。

 答えは当然肯定しか認めません」

「……わ、わかったわ」


 はい『契約』完了。相手が奴隷だと話が早くて助かる。

 この契約も、奴隷の首輪の効力だと思ってくれればいいし、後は()()()行けばいいや。


「それでは僕は貴女を捨てますので、後は好きにしてください」


 そう言って津江の首輪に触る。そうすることで所有権を放棄、捨て奴隷設定にできる。

 捨て奴隷は拾った人の物になるが、捨て奴隷は同時に欠陥奴隷であるという証明にもなる。


 お金払って買った奴隷を捨てるということは、その奴隷に何かしら問題があったという認識らしい。


 誰かに見つかれば、碌なことにならない。

 だけれど、この家は結構頑丈に作っているから、うまくやれば世界崩壊まで生き残れるかもしれない。

 ここで寂しく生きていくか、町に行って捕まるか、町に行く途中で殺されるか。

 あとは津江の選択次第だろう。


「それでは、さようなら」


 手を振ってから、家を後にする。これで津江は話せない。

 僕が出て行ってから、魔物たちが津江のいる家に集まり始めた。

 そういえば、邪魔されないように王都のバリアを真似たのを使っていたんだっけ。


 あ、叩いてる。うんうん。強度は問題なさそう。それでは本当にさようなら。

津江関係はこれでひとまず終わりです。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
世界崩壊まで20年くらい 家の外にはBランクの魔物がウロウロ 本人亜神になって気づいて無さそうだけど人間には食糧が必要 少なくとも20年分の食糧はなさそう 飢え死にするか、魔物の食糧になるかしか選択肢…
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