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 フードお兄さんの店、セカンド。

 このセカンドには、フードお兄さんの店に来るのは2回目だよと言う回数と、おそらくこっちが2号店だよと言う2つの意味がある。

 ダブルミーニングって奴だ。


 バカっぽい? 僕もそう思う。セカンドを2という数字でしかとらえていないもの。


 さてはて、フードお兄さんと会うのは3度目になるけれど、未だに名前は知らないな。

 まあ、お互い知る必要はないと思っているからなのだけど。

 知っても意味がない……かな?


 ともかくボロボロのアクセサリー店に入って、フードお兄さんが出てくるのを待つ。


 しばらくアクセサリーを眺めていたら、店の奥からフードお兄さんがやってきた。


「久しぶりだねぇ」

「数日ぶりは久しぶりになるんですかね?」

「毎日顔を合わせていたら、そうなるんじゃない?」

「そうですか。例の商品受け取りに来ました」

「つれないねぇ。こっちはいつでも準備できてるよ」


 どうにかしないといけない案件。奴隷のクラスメイト。

 処遇をどうするのかさっぱり決めていないんだけれど、放置していても何も変わらないんだよね。

 むしろ王家から何か指示が来て、「やっぱり処分します」となりかねないと思っている。


 だから時間ができた今の内に、手元に置いておきたい。置いておきたくはないけれど、置いておかないと復讐が終わってしまうかもしれない。困ったものだ。


「準備はできているけど、どうやって連れて行く気だい?」

「背負ってですかねー。これでも、結構ステータス高いんですから」


 この世界のどんな存在よりも高いと思う。

 具体的な数字は知らない。だってどうせまたあがっているから。

 平均1000を超えた時点であとはどれだけ上がろうと誤差みたいなものだろう。


「あ、でも向こうに行くの面倒臭いので、こっちまで連れてきてください。眠らせても良いですから」

「はいはい。お時間を頂きますよっと」


 フードお兄さんは飄々とした様子できびすを返すと、また店の奥へと戻っていった。


 それからまたしばらくして、奥へと通じる扉が開かれる。

 フードお兄さんが現れたと思ったら、その後ろから電動車いすみたいなのに乗った津江(つのえ)が現れた。


 うん。魔法具って本当に便利だね。

 問題は大量生産に向かないこと。だからたぶん上層部とか富裕層のさらに上の生活は、日本のものよりも快適なのかもしれない。

 少なくとも、日本の携帯は電池が切れたら使えないけれど、この世界には魔法がある。


 自分の魔力を電池代わりにできるようなものだから、電池切れの心配はない。精霊のおかげで、食べ物もおいしい。その代わり調理はあまり発達してないらしく、だいたい焼くと茹でるで料理が終わる。

 交通機関に関しても、あっちの方が上だと思う。あっちは魔物居ないしね。


 そんなことよりも今は津江だ。僕が言ったからか、椅子の上で眠っている。


「それじゃ、連れて帰りますね」


 気になっていたことをいくつか話してからそう言って、津江を背負うとフードお兄さんは「うおっ」と驚いたような声を出した。

 ちゃんとステータスは高いと伝えてあげたのに。


 お店を出たあと、周りに誰もいないことを確認してから、屋根の上に飛び乗った。





 屋根の上をぴょんぴょん跳ねて、今は王都の外まで来ました。

 具体的には周りに魔物がたくさんいる森の中、そこに作った強度だけはいっちょ前の家の中。


 王都よりも国境の町のほうが近いだろうし、周りにいる魔物はB級レベルがうようよしている。津江1人でどうにかなるレベルじゃない。


 即席なので家具はほとんどなく、日曜大工的な椅子と机とベッドがあるだけ。ベッドも布団ではなくて、その辺の葉っぱを集めてきた。

 その上に津江を乗せて、僕は木で作ったカップでお茶を飲んでいる。


 この家の製作は『創造』さんがうまい具合にやってくれました。

 武器とかも数秒で作れるかなと思ったからやってみたけど、数分で家が出来るとは思っていなかったよ。


 ついでに簡素なのは僕の家に対するイメージが貧弱だからではない。いいね?


 そんな益体もないことを考えていたら、もぞもぞと葉っぱの上で津江が動いて起きあがった。

 座った状態で周りをきょろきょろ見回すと、僕を見つけて睨みつけてきた。


「おはようございます」


 声をかけるとさらに機嫌が悪くなる。

 自分をなんだと思っているのだろうか。


「処遇をどうするかは横に置いて、とりあえず治しますか。話が進みませんし」


 このままでは人形に話しかけているのと変わらない。『聖女』の力をフルに使えば、足も喉も戻るだろう。


治療(クーラティオー)


 試しに簡単な回復魔法を加減無しで使ってみたら、足が治った。ついでに全身の痣も消えている。

 少し強力すぎるかなー。わかっていたことではあるんだけど。


 あとは喉が治ったかどうかなんだけど。


「何か話してくれませんか?」


 そう訊いてみると、ものすごい勢いで睨まれた。

 今までも睨んでいたはずなのに、なんて器用な人なんだろう。


 今度から睨みの達人と呼んであげよう。ファイ○ーさん。


「話せ」


 今度は短く命令を伝える。

 僕の奴隷だからね。命令くらい出来るよね。


「な、何よ。話せるわけ……えっ……」


 なんか驚いている。

 でも僕にはその驚きはどうでも良いこと。


「なんで、なんで助けたのよ。あたしは死にたかったのにっ。

 あたしは……あたしは……」


 今度はさめざめ泣き始めた。

 でも残念。僕には何があったのかさっぱりわからない。

 そもそも、助けてないし。そんなに死にたいのであれば、いっそ死んでもらおうか。


 それでもしも死ぬことが出来たなら、死なせてあげても良い。

 死ぬのって結構怖いから。亜神であっても、死は怖いから。

 それは僕が特別と言う可能性もあるけれど。


 とはいっても、僕は手を出さない。自分で死んでもらう。


 自分から死ぬことが出来るほどの何かがあったというのなら、この場でだけ死なせてあげて良い。その所業を許すことはないけれど、それほどまでにすり減ったのならある程度満足だ。死にゆく貴女に様を見ろ(ざまあみろ)とだけ言葉をかけてあげよう。

 体が全て治った今の状態で、死ねるだけの経験をしているのなら。


 だから用意してあげる。自決用の武器を。

 僕を刺した剣と同じものを。

『創造』を使って、自分を貫いた剣を再現する。


 この剣、僕特効にならないよね? ならないけど、ちょっと怖い。

 あ、でも同じ大きさだと、自分を傷つけるのは難しいか。

 ちょっと小さくしよう。いい感じに自分を刺せるぐらいにしておこう。

 うん、なんか小さめの剣になった。ちょっとかわいい。


 作った剣を津江の足下に転がして、良い笑顔で言ってあげよう。

 今の僕の笑顔はきっと綺麗なはずだから、逆に凄みになるだろう。


「死にたいのであればどうぞ。その剣を使って、自分の心臓を貫いてください」

「な……」


 唖然とした津江がジッと剣を見る。

 それから何かを確認するようにこちらを見るので、笑顔を返してあげる。嘘ではないと、本当ではないと。


 ()()()()()()()()と。


「死にたいのであればどうぞ。貴女は僕の奴隷ですが、今この場だけ自ら死を得ることを許してあげます」


 本来奴隷が勝手に死ぬことは許されない。何せ所有物なのだから。

 復讐心が無かろうと、大金貨5枚で買った奴隷をそう易々と殺す人は居まい。


 津江はガタガタと震えながら剣の柄に手をかける。

 のろのろした動きでその刃を自分に向けて、胸に当たったところで手を止めた。

 涙にまみれた顔を歪め、剣の先がわずかにその皮膚を傷つけたとき、彼女は「わああああぁあぁ」と叫び剣を投げ捨てた。


「出来るわけ無いじゃないっ!

 なんであたしがこんな目に遭わないといけないのよっ」

「そうですね。貴女に何があったのか、話してください。

 貴女が何者で、どうしてこんなことになったのかを」


 こればかりは本人から聞いておきたい。

 せめて少しでも後悔していてほしいと思う。元通山(つやま)(まこと)として、僕の死の意味をクラスメイトには知っておいてほしいと思う。


 まあ、「こんな目に遭わないといけないのよ」なんて言っている時点でお察しだけれど。

 勇者達に何があったかくらいは、当事者に聞いておこう。

少し特殊ですが、次回は津江視点の閑話になります。

ざまぁになっているといいなぁ……。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
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