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「魔法の檻 ランク:SSS」
詳細:この世界には存在しない魔法技術の結晶。
精霊の力を吸収し、人に利用できるように変換している。
定石というか、定番というかで鑑定をしてみたらこんな結果が出た。
この詳細誰が書いているんだろう?
ステータスは自動生成のはずだから、こっちも自動?
うーむ……何でか、わからないんだよね。
神様に聞くまでのことではないと思うし、今度連絡したときについでに聞いておこう。
まずはこの装置をどうにかして、精霊を救い出さなければ。
◇
むーん……むーん……むむーん……。
なんだこれ、ものすごく面倒臭い。カギを作ったときの比じゃない。
一撃食らったら即死亡するアクションゲームやってみるみたいな感じだ。集中力を切らした瞬間、この檻を開けるのに失敗する。
壊した方が早そうだけれど、壊すと確実に音で気が付かれるだろうし、これ壊すよりも王城を壊す方が簡単そうだし……。
何より、壊した衝撃で精霊に止めをさしそうで怖い。
檻を開けるために大変なのは、セーブができないこと。
幸いなのはコンティニュー制限がないこと。開けるのに失敗したからと言って、城内の誰かに気がつかれるわけでもなく、セキュリティがより高くなるわけでもない。
アイ○ナをノーセーブでクリアすればいいだけなのだ。
できるかっ! いや、亜神となった今ならできるけれど、この檻の攻略には丸一日くらいはかかりそうだ。
あとゲームでたとえたけれど、決してゲームじゃないからモチベーションが死にそう。
でもやらないわけにはいかないか、と思っていたら、階段からコツコツと足音が聞こえてきた。
とっさに『隠密』を使ってから、窓の縁に隠れる。
いや、隠れられていないけれど。高いところにあるから『隠密』さえ使っておけば問題ない。
やがて現れたのは、昨日も見た王妃様。
彼女はまるで警戒した様子もなく魔法の檻に近づくと、その手前にある水晶に手をかざした。
なるほど檻の機能が停止しないように、魔力を補充しているのか。
うん。さすがにこの高性能な檻が何のエネルギーもなしに使えるわけがないし、無限の魔力供給が出きるような装置もない。
だけれど、この装置に蓄えておける魔力はそんなに少なくはない。
むしろそこらの魔法具よりも、魔力供給の必要がないだろう。
具体的には100年は持ちそうだ。放っておいても先に世界が壊れる。
100年放置したら、供給すべき魔力量は人一人でどうにかなるものではないけれど。
それにしてもこれは良くない。良くないよ、うん。
もしかしなくても王妃様、毎日ここに来るんじゃなかろうか。
僕が檻を開けるのに推定丸1日。
王妃が出て行ってからすぐ始めたとして、猶予は無し。
明日少し早めに来る可能性だってある。こちらの作業が早めに終わる可能性もあるけれど。
後一歩と言うところで邪魔が入ったら、たぶん2度とやりたくなくなるだろう。
丸一日かけて立てたドミノを完成間近で倒すのと変わらないのだ。
いや、ドミノならまだ1からやり直しにならない可能性もある。
でもこちらは違う。邪魔が入れば1からやり直し。
きっと死ぬだろう。死ぬに違いない。僕のモチベーションが。
これは王族のスケジュールを把握しないといけないか?
王妃が来られないから、国王自ら来ましたとかやりかねない。
ハッキリ言って、王族よりも精霊の方が国にとっては重要だろうから。
だからこそ、存在を知っているのはごく少数だとは思う。
王族だけ、下手したら国王と王妃しか知らない可能性もある。
だとしたら、王族が出払うタイミングならば、時間はあるだろう。
例えば勇者のお披露目の時とか。
ちゃんと情報を手に入れないといけないけれど、狙いはそのとき。
前回はうまくいかなかったけれど、今回は僕一人だけだから、先手の一撃だけでフラーウス王国に勝利してやろう。
王妃がいなくなり、念のためしばらく待ってから、窓から降りる。
今日からは、王族の勇者のお披露目でのスケジュールを確認してから、前日から忍び込む算段を立てることにしよう。
だから今日ここでやることは終わり、そう思って部屋を出ようと思ったら、何者かに呼び止められたような気がした。
気のせいかとも思ったが、気のせいでないなら考えられるのは1つ。
「心配しなくてもまた来ますよ。それとも来てほしくないと思っているんですか?」
黄色い光に問いかけても、返答はない。
ならば勝手に喋るか。呼び止められたのが気のせいなら、とても痛い亜神になってしまうが。
「どちらにしても、僕は精霊を連れて行くように言われていますからね。このままにしておくという選択肢はないですよ。
大変だとは思いますが、僕のために頑張って耐えていてください」
そう。精霊がどれだけすり減ろうと、僕は彼ら――彼女ら――を神様の元に連れて行けばいい。
だからぎりぎりまで耐えていてほしい。
ざっと見た感じ、あと50年くらいは大丈夫そうだけれど。
でも、精霊達がこの地に送り込まれてからと考えると、50年なんて瞬く間なのかもしれない。
だとしたら、数日なんてそれこそ数秒感覚だろうから、やっぱり耐えていてほしい。
「それじゃあ、また来ますね」
そういって部屋を出ようとしたとき、どこか嬉しそうな感情を感じた気がした。





