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貴族区を通り抜けて、お城付近までやってきました。
道中は『隠密』を使って屋根を走ってきたので、貴族区の詳しい様子は分かりません!
でも綺麗なところではあったと思う。
一般区画に比べるとなんだかのんびりした印象だけれど。
上に立つ者ならば、常に冷静に余裕を持って行動すべし。
――みたいな考えでも浸透しているのかもしれない。
王族が大わらわとか格好が付かない。格好付かないだけなら良いけれど、この人達に国の舵取りを任せるのは怖いとすら思われるかもしれない。
貴族も貴族で大変なんだなぁ。小説での印象しかないけれど、やはり貴族にはなるものではない。
どうせ舞踏会に行くとネチネチと嫌みを言われたりするのだろう。
閑話休題。
王城にやってきてもっとも警戒していたのが、またバリアのようなものが張り巡らされていた場合。
だけれど、幸いなことに城にバリアはない。
代わりに城壁は高く、門には騎士が複数人で詰めていて、普通なら潜入は難しそうだ。
僕は軽く城壁に上ることができるから、余裕だけれど。
隠密を使っているのでばれることもない。
早速上って城の敷地を確認すると、広い敷地の中で1部だけ完全に他の場所とは隔離されているところがあった。
そこは懐かしい勇者達の訓練場。何というか、お城の敷地の中に校舎と運動場があるみたいな感じ。
んー、校舎ではないな。お金持ちが住んでいる屋敷だろうか。
なんだか怒声みたいなのが聞こえてくるけれど、今の目的はそちらではない……と思う。
精霊に関することを調べにきたのだ。数日かかっても良いから、城の隅から隅まで探してみよう。
っと、その前にフィーニスではなくて、通山の姿になっておくか。
……そういえばスカートなんだっけ。
見た目を変えてから気が付いたよ。スカートをズボンに見せかけることはできるけど、履き心地はスカート。
姿は変えても、息子はいないのでそこまで問題でもないか。
いざ、潜入ミッションスタート!
◇
うん。たぶんここだ。目の前の謎の装置が精霊を閉じこめている。
でもこれ、いろいろと面倒臭そうだ。
◇
潜入を始めて2日目の昼過ぎ。
王族っぽい女性――トパーシオン王女に似ているので王妃だろうか――を追いかけていたときに、図書室で隠し扉を使って上階に上っていった。
図書室の隠し部屋なんて心躍るシチュエーションだけれど、残念なことに本を決められた順番に並び替えるとか、本棚を押すとかそんなことはなくて、普通に鍵を使っていた。
まあ、防犯的にはそうなるよね。
適当に本を並び替えて、たまたまうまくいく可能性もあるし、こっそり解き方を見ていれば後から入れるしで現実的ではない。
鍵ならばあけるところを見られていても、鍵の管理をしっかりしていれば問題ないのだ。
鍵がなくなることがあれば、すぐに守りに入ればいい。
何とも合理的。ロマンが足りないよ。
ロマンが足りないと言えば、隠し部屋にいけるようになったときの演出も物足りない。音が鳴ったり、派手にガシャンガシャン変形すればいいのに、壁に飾られている装飾に鍵を合わせるとそこが扉のように開くのだ。
一人通ったらすぐに閉まったので、その日は中がわからなかった。
それから戻ってきた王妃様を追いかけて、彼女が入浴しているときに鍵を拝借しました。
それ以外肌身離さず身につけているものだから、さすがの僕もかすめ取ることはできなかったです。
問題はそれだけ大事に持っているということは、持って行ったらすぐにばれてしまうと言うこと。
だから複製することにした。1から作るのは大変だけれど、今あるものと全く同じものを作るのはそんなに難しくない。
まずは鑑定。
「隠し部屋の扉のカギ ランク:SSS」
詳細:フラーウス国の王城にある隠し扉のカギ。
特定の場所で使うことによって効果を発揮する。
この世界とは異なる世界の魔法技術が使われている。
この世界において、過去未来共に作られないであろう唯一無二のカギ。
Hey,あなざーわーるどてくのろじー
ロストテクノロジーくらいを想像していたよ。
何さ異なる世界の魔法技術って。勇者か、勇者のせいなのか。
勇者召喚って、魔法がある世界からも勇者を呼べるのか。
呼べるんだろうな。むしろわざわざ地球の戦えない人を呼ぶよりも、即戦力を呼んだ方が有意義ではないんだろうか。何か理由があるんだろうか。
それはともかく、このアナザーテクノロジーをどうにかしなければ。
仮にも僕はこの世界の神なので、この世界のものであれば失われていようと何とかなる。だけれど、他の世界となると手出しできないわけではないけれど、時間がかかる。
この世界であればマスターキーみたいなのを持っているけれど、他の世界のものならカギがないからごり押しで扉を壊すみたいな。
とにかく時間がかかる。仕方がないから、このカギの構成を頭に叩き込んで別の場所で複製するしかないか。
あー、面倒臭い。
そうしてカギを複製して、精霊が閉じこめられているであろう図書室の隠し部屋までやってきたのだった。
他にもいろいろあったよ? なかなかに面白いことになっていたし、なかなかに不満な状態でもあった。
1つに後半月ほどで、勇者達をお披露目する祭りが開かれる。
1つに勇者の中の1人、『魅了』と『詐称』を持つ中立組の女木伊織が、スキルを存分に使って城内で暗躍している。
女木君に関しては、とても役に立つスキルをありがとうございます。
1つに勇者達の訓練が、高校生レベルだと厳しいのかもしれないけれど、そこまで理不尽なものではない。
これに関しては、そこまで気にする必要がないと思うけれど。
観察したいことなんかもあったけれど、僕は神様のパシリ。優先順位を間違えてはいけない。
隠し部屋と言うか、隠し扉を開けた先は上り階段になっていて、そこからお城の一番高いところに繋がっていた。
お城というか、その周りにある塔のてっぺんかな? まるで囚われの姫のようだ。
何度も言うとおり、僕はヒーローではないけれど。
行き着いた先は大きな窓が天井付近に取り付けられたこぎれいな空間。
円形の部屋の中心に謎の装置が置かれている。
金属のリングがいくつか組み合わさって、球の形を作っているようなそんな装置。その前に水晶みたいなものがおいてある。
中には弱々しい、黄色い光を放つ球体が漂っている。
この光が精霊なのだろうか?
どうなんです神様?
『それでいいね。かなり弱っているけれど、今日明日消滅するわけでもなさそうだ』
『つまりこれを助ければいいんですね。と言うか、神様は精霊の場所を捕捉できないんですか?』
『今はフィー君を通して見ているから。なんかその装置に入っているせいか、わからないんだよね。世界の状態から逆算して、消滅している精霊が居ないことはわかるんだけど』
『はいはい。了解です』
『それじゃあ、がんばってね』
神様との通話を終えて、装置に目を向けた。





