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 奴隷商に売られ、生きる気力をなくしたようにしていた少女の名前は「津江(つのえ)美香(みか)」。

 正直名前も忘れてしまったクラスメイトは結構いるけれど、この名前はちゃんと覚えている。

 何せ国王の前でステータス鑑定をしたときに、僕のステータスをクラスメイト全員にばらした張本人だから。

 彼女がいなければ、僕へのヘイトが少しは下がっていたかもしれない。


 雑魚のくせしてクラスの方針決めやがって、イキってんじゃねえよ!


 って声が聞こえてきそうだ。聞こえてきていたっけ? もう忘れてしまった。

 他にもいろいろ言われていたから、覚えている方が無理というものだ。


 それからたぶん、クラスメイトに僕の悪いうわさを流したのも津江だと思う。

 クラスメイトに与えられるスキルは、『勇者』などの特定のもの以外、それぞれの特性に合ったものが与えられる。

 その前提で考えれば、クラス内で津江が噂話が大好きだったということは周知の事実なので、それに合ったスキルを得ていると予想できる。


 って言うか、鑑定したらいいじゃない。あ、なんか隠蔽されてる。勇者ってわかると面倒だからか。

 何々……スキルは『扇動』と『雲隠れ』か。『扇動』なんてそのままではないか。『雲隠れ』は『隠密』の下位互換だけれど。


 それをフラーウス王国に利用されたと考えると、あの状況になった理由もわからなくもない。

 だからと言って同情するわけでも、許すわけでもないけれど。


 津江の状況は僕としてはある意味で喜ばしいものだ。

 何せクラスメイトがしっかり奴隷落ちしたことを示してくれているから。

 痣や足を見るにここに来る前も、とても大変な目にあったのだろう。それは僕が想定していたことだ。


 様を見ろ(ざまあみろ)


 うん。ぜひ言いたい。本人の目の前で言うだけ言いたい。そのあとどうするつもりもないけれど。

 それはそれとして、廃棄というのはいただけない。

 僕の復讐心が晴れるまで、死なれるのは困る。


 だとしたらどうしようかなー。買うしかないんだろうなー。


「興味深いものが見られました。最初の部屋に戻りましょうか」

「最初のって言うと、向こうの店かい?」

「冗談は要らないです」

「はいはい。お客様こちらへどうぞ」


 軽いやり取りをして、最初に案内された指輪を見せてもらった部屋に戻る。

 そう言えば、津江は指輪してなかったな。

 つけられなかったのか、外されたのか。どちらでも構わないけれど。


 それにしてもこのソファはやっぱり良いものだ。売ってくれないかな?


「さて戻ってきたということは、買ってくれるのかい?」

「このソファが欲しいです」

「それはダメだなー。下手したら奴隷よりも高い。お客さん用だから、無くなると普通に困る」

「どこで買ったんですか?」

「貴族区にあるお店でね。本来は上級貴族しか相手しないところなんだけど、特別に売ってくれることになってね」

「お金払うので紹介してください」

「ボクの信用にかかわるから、お断りだね」


 なんだ、喧嘩売ってんのか。


 そうも思ったけれど、高級店は客も選ぶのだろう。

 なんだかんだで、フードお兄さんは僕のことをほとんど知らないし、僕はフードお兄さんのことをほとんど知らない。

 この状況で、この客は良い客ですよ、なんて紹介は出来ないか。


 単純に子供お断りなだけの可能性もある。


 本題ではないから良いんだけど、ちょっと口惜しい。


「茶番は置いといて、最後の奴隷っていくらなんですか?」

「あー……見せておいてなんだけど、買うの?」

「高いって言っていたので、どれくらいするのかなと」

「大金貨5枚」

「いやぁ……それは……びっくりですね」


 買えるけど。買えるけれど、感覚的には5000万円くらいだろうか。

 高いけれど、人の値段としてどうなのかはわからない。あ、そう言えば。


「あ、参考までに平均的な値段を教えてください」

「普通は先にそっちを聞くもんだと思うけど。

 村で家族に売られた子だと、大銀貨数枚かな。貴族の娘クラスになれば、大金貨に届くかどうかってところ」

「だとしたらやっぱり、大金貨5枚って高いですね。売る気あるんですか?」

「それは上に聞いてくれないかな?」

「聞いてくるので、取り次いでくれませんか?」


 フィーニスとして王城に行く気はないので、取り次がれても困るけれど。


「はっはっは。無理な話だ」

「ですよね。とりあえずお願いがあるのですが、僕のことは内緒にしていてくれませんか?」

「それはもちろん。顧客の情報を流す奴隷商はいないよ」

「約束ですよ?」

「お客さんになってくれるならね」


 つまり何か買えってことか。まあ、商売だからね。仕方ないかな。


「確か大金貨5枚でしたね。ついでに小金貨もつけておくので、1つ頼みを聞いてくれませんか?」

「あの奴隷買うんだね。うるさくはないけれど、足が動かないのはお忍びの話し相手には致命的じゃない? と言うか話せないよ?」

「妙に興味をもちまして、廃棄寸前ってことはどう扱っても、怒られないでしょう?」

「はっはっは、確かにね。何がお気に召したかはわからないけど、何をする気かは聞かないでおくよ」


 とりあえず足を治すだけだけれど、勘違いされているならそれでもいいだろう。

 今後どうするにしても、連れ歩くのに自立してくれないことには面倒が増える。


「それで、頼みというのは何だい?」

「大したことではなくて、奴隷が死なないように預かっていてほしいんですよ。

 準備とか必要ですし、王都を散策するのには邪魔ですから」

「はいはい、了解」


 この後お城に行く予定なので、さすがに津江は連れていけない。

 だからお願いしたのだけれど、すんなり引き受けてくれて助かった。


 駄目だったらこのまま逃げるところだったぜ。

 その後忍び込んで攫います。お金は払っているので大丈夫でしょう。


 お、なんだかヒーローみたいな立ち回りだ。助けた女の子と恋に落ちるなんて、陳腐かもしれないけれど憧れる人もいるのではないだろうか。


「購入しておいてなんですが、あの奴隷について教えてくれませんか?

 話せる範囲で構いませんから」

「んー。城から下賜された奴隷ってのは?」

「知ってます」

「だよね。言ったもんね」


 まあ、知り合いですから。とは言えないので、殊勝に頷いておく。

 うん、先に言っておいてくれてよかった。

 上手く驚ける自信がなかったよ。


「そもそも、ボクもよくは知らないんだよね。上から渡されたものだから。

 正直処分目的だと思っていたし、お嬢ちゃんが来なかったら処分は免れなかっただろうからね」

「でもある程度は聞いていますよね?」

「そうだね。喉を潰されたのはスキルを使用させないためだって言ってたかな。

 スキルが使えればもっと簡単に売れたかもしれないんだけどねぇ……」

「使えたとして、大金貨5枚で売れるものなんですか?」

「んー、無理かな。『鑑定』みたいに利用価値が高いものだったとして、やっぱり大金貨に届かないくらいだから」

「そう言えば、奴隷のスキル知らないんですか?」

「知らないよ。ステータスは基本的に自分にしか見えないし、あの奴隷は話せないからね。

 ステータス鑑定用の魔法具は素材が高価で簡単に作れないんだよ」


 んー、隠蔽されてはいたけれど、そこまで神経質にならなくていいってことかな?

 万が一、僕の本来のステータスがバレたら大変なので、戻す気はないけれど。


「分かりました。とりあえず今日は今から貴族区を見物しながら帰るので、奴隷のことはお任せします」

「次もまたあっちの店下かい?」

「そうですね。貴族区に宿はないでしょうから」

「それもそうだ。まあ気を付けて帰ってよ」


 ではお城に潜入してみましょうか。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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