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フードお兄さんに連れられてお店の奥に行く。
奴隷たちは座敷牢のようなところに入れられて、簡素な服を着て首輪をしていた。
牢の外から見て、気になる奴隷を選ぶというわけだ。
不衛生な場所で、奴隷たちは皆痩せこけていて不健康そう……というわけではなくて、皆健康そうな顔をしている。
衛生状態も悪くはなさそうだ。
まあ、どういう理由で奴隷になったのかはわからないけれど、買う側としては今にも死にそうな奴隷よりも、健康そうな奴隷を買うか。
左右の牢屋に性別は分けられていて、年齢はバラバラ。
鑑定によると人族で下が10歳、上が40歳。他の種族だと、70歳とか100歳とか見えるけれど、見た目は若い。
ザッと見てみたけれど、面白そうな人はいない。
元冒険者の人もいるのか、ステータス的には高い人もいるのだけれど、それでもD級クラスがせいぜい。
今後精霊を集めて回ること考えると、高いステータスか、これという能力がないと連れて行きたくない。
なんだかこちらを値踏みしている感じもマイナスポイント。
もちろんあちら側も購入相手はより良い人が良いだろうけれど、選択権はこちらにあるのだ。
誰を連れて行ったとしても、魔物から守ることは難しくないけれど、守りたいと思えるだけの何かが欲しい。
何事もモチベーションって大切だと思う。
「ここだけですか?」
「お客さんに見せられるって意味だと、ここだけかな」
「見せられる、見せられないの差って何ですか?」
「教育済みか、未教育かだね」
「ここにいる人たちも、微妙じゃないですか?」
「ははは、言うね。でも、奴隷の多くが家族に売られた借金奴隷だからね。
つい何十日か前までは普通に生きていた人が、急に奴隷になれるものでもないのさ。
かといって、奴隷教育に何年もかけていたら、こちとら魔法具が作れなくてね」
「とりあえず文句は言わないので、他の人も見せてもらっていいですか?」
「お客さんのご希望とあれば応えるけど、お勧めしないよ」
「まあ、一応ってことで」
やっぱりこういうのは、見せられないと言われている方に掘り出し物がいるものだ。
一目ぼれするレベルの美人がいたけれど、妙に高額で1か月以内にお金を集めてこないと別の人に売ってしまうぞとか、その売る相手が性格が悪いことで有名で奴隷の方は買われたくないと思っているとか。
妨害に遭いつつも、お金をそろえて購入すると、好感度が最大の状態からスタートするとか。
んー、なんかいろいろ混ざったかな? まあ、良いか。
でも、そう言えば僕って今女の子なんだっけ?
だとしたら、男性奴隷に……うーむ。ピンと来た人がいたらでいいや。
今度は地下へと向かう。
地上とは違い、石の床と壁に鉄格子とイメージ通りの場所に、それでも1人1か所分けられて入っていた。
こちらを見るなり、けッと悪態をつく人もいれば、ニヤニヤしている人もいて気持ちが悪い。
逆に目に光がないかのようにぼーっとしている人もいれば、何やら喚いている人もいる。
ここが混沌か!
「すごいですね」
「すごいでしょ」
軽口で返って来るものの、声に力はない。
「これでも待遇は良い方なんだけどね。ひどいところだと、教育とか言って死ぬような怪我を負わせるところもあるし。
それでも自分が奴隷になったと受け入れられなければ、こんなものなんだよ」
ここにいる奴隷たちを見て、欲しいと思う人はそうはいないだろう。
中にはきれいな女性もいるので、気の強い女性を屈服させたい願望がある人であれば、買うのかもしれないけれど。
「教育が終わらなかったらどうするんですか?」
「廃棄だよ。正確には男は過酷な強制労働。女は最下層の娼館行き」
「子供に聞かせる話ではないですね」
「ははは、そうだね」
フードお兄さんはまるで反省した様子はない。
娼館とか死ぬ前だったら、なんだかんだ興味があったんだろうな。
そんなことを言い合いつつ、奥まで行くと異様な扉があった。
向こうのお店とこの奴隷商を繋げるあの扉、とまではいかないけれど、かなり強固な鉄の扉だ。
「この扉は何ですか?」
「さらに問題がある奴隷を入れておくところかな。
ここは本当に見ないほうが良いと思うんだけど」
「つまり誰かいるんですね」
「今は一人だけ。なんて言うかとても扱いが難しくてね。それこそ文字通り廃棄するかもしれないんだよ」
ここでいう廃棄とは、殺すということか。
奴隷は奴隷になった時点で物になる。だから、持ち主が殺しても罪にはならない――のだと思う。
それに人を1人死なないようにするだけで、お金がかかる。
人は生き物。生きているだけで、お金がかかる。売れなければずっと赤字がかさんでいく。
だから殺すのも致し方なし。
奴隷になるにはそれなりに理由があるし、理不尽に奴隷にさせられたとしても、運命を呪ってくれとしか僕は言えない。
それはそれとして、隔離された1人というのは興味があるので見せてもらおう。
「その奴隷見せてもらっていいですか?」
「良いけど、本当におすすめはしないよ。そのくせ売値は高いんだよね。仕入れ先の要望で」
「でも廃棄ができるんですよね?」
「上の言っていることは、ボクには理解できないことがあるからね」
上というと、国だろうか。
果たして何をやらかしたのか。
「とりあえず見せてください。駄目だったら帰りますので」
「はいはい。それじゃあ」
フードお兄さんが鉄の扉を重そうに開ける。
貴族区への扉はあんなに簡単に開けたのに、それよりも軽そうなこの扉は苦労して開ける。
その姿は何だか面白かったけれど、あっちは魔法具があったので当たり前か。
開かれた扉の向こうには、1つの牢屋があった。
今まで見てきた牢屋よりもさらに粗末なもので、ベッドくらいは置いてあったのにここは寝床に藁を敷いただけ。
言っていた通り、中には確かに女の子が一人だけ。
全身あざだらけで地面に座り込み、焦点の合わない目で虚空を見つめている。
僕たちが入ってきたことに気が付くと、ハッとこちらを見て口を開くが、空気が通り抜けていく音が聞こえるだけで音になっていない。
そのことに気が付いたのか、バツが悪そうに目を逸らした。
両脚は潰されているようで、一人で動くこともままならなそうだ。
黒い髪に黒の瞳――正確には暗い茶色だったかな?
ふむ。ここまで来たのは正解だったようだ。
でもフードお兄さんとは違った意味で、扱いには困ってしまう。
果たしてなぜここに、元クラスメイトがいるのだろうか。





