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別作品の最新話をご投稿してしまいました。
お騒がせしましたら申し訳ありません。
重そうな扉の向こうは、木箱や樽がたくさん置かれた倉庫だった。
なんだか潜入クエストみたいで面白い。
今は堂々と入れるから、潜入もへったくれもないけれど。
お兄さんはずんずんと先に進むので話を聞くこともままならず、連れて行かれるままに追いかけて行った。
長い廊下を抜けて、今度は普通の質素な木製の扉を開けると、レジの後ろみたいな場所に出た。
カウンターがあって、いくつか椅子がある決して広くない部屋。
雰囲気も落ち着いている。
僕たちはカウンターの店員側に出たわけだけれど、当然のごとく店員がいる。
僕たちが扉から出てきたことで、ものすごく驚いていた。
背筋をピシッと伸ばした、若い男の人。
「オーナー。そちらの方は?」
「お客さん。ボクが案内するから、いつも通りやっておいて」
「了解いたしました」
すぐに気を取り直して僕のことを聞くあたり、結構有能な人なのかもしれない。
僕を見ても、侮っている様子もなかった。
急にカウンターの裏から出てきた人物を、侮ることができるのかは置いておいて。
それともこのフードお兄さん。結構こういったことをするのかな?
広くない部屋には、扉がいくつか用意されていて、お兄さんはその中の1つを選び進んでいく。
最終的に案内されたのは、応接室というのだろうか。ソファにテーブルがあるところだった。
ソファはテーブルを挟むように用意されている。
お兄さんが入り口側に座ったので、僕はその反対のソファに座った。
おお、良いソファだ。思わずボヨンボヨンと跳ねたくなるほど。
良いベッドの上で跳びまわりたくなる衝動と同じやつ。
そしてソファに座るとほぼ同時にお茶が持ってこられる不思議。
果たしてこのメイドさん、いつからスタンバっていたのだろう。
「さて、商品の紹介の前に少しお話をしようかね」
「そうですね。聞きたいことが結構ありますし」
「だろうねぇ。答えられるかわからないけれど、聞いてあげよう」
「よくあの扉開けられましたね。ものすごく重そうでしたけど」
「ぶ……」
僕の問いが予想外だったのか、お兄さんが横を向いて口元を抑える。
本当にこのお兄さん、フードを被って口元くらいしか見えないのに、表情がよく変わる人だ。
これ向こうからこっち見えているんだろうか。見えているんだろうけれど、よく見えるものだ。
魔法具か何かなのかもしれない。
お兄さんの外套はともかく、これは掴みはばっちりというやつだろう。
言い方を変えれば、主導権を握れたってことだ。たぶん。
「あの扉ね。アレは魔法具の1つだから。カギを使ったあと、少しの間は人が使える重さになるんだよ」
「もしかして、あの扉ってカギかかってないんですか?」
「ないと言えばないね。でもあの扉って伝説の勇者でも開けられなかったって、重さだから。
鍵をしているのとほとんど変わらないんじゃない?」
「確かにそうですね。開けるよりも破壊する方が簡単そうです」
「怖い事を言うね。でも、言うとおりかな。壊したら壊したで、勇者が開けられないほど重たい扉に押しつぶされる可能性があるけど。この鍵は使用制限をボクだけにしているから、盗まれたところで使えないしね」
そう言って、袖からカギを見せてくれる。
鑑定しとこ。
「重量軽減のカギ ランク:SS」
詳細:とある扉の重さを軽減するカギ。使用後少しの間、扉の重さを使用者が使える程度にまで軽くする。現在このカギと同一の物は作れない失われた魔法技術の結晶。
能力:重量軽減、使用者固定
oh,ろすとてくのろじー。
このカギさん、なかなかにアレな品物だった。
同時にこのお兄さん何者的な疑念が膨らんでいく。
いやここに連れてこられた時点ですでに何者だ感はあった、予測も一応できていたけれど。
その予測を修正しておく必要がありそうだ。嫌だわ。面倒くさい。
しなくても困らないんだけど。
くそぉ。一本取ったと思ったのに、取られてしまった気分だぜ。
「お店に人がいなかったと思うんですが、気が付いたのも魔法具のお陰ですか?」
「そうだね。そっちは魔法具を扱っているお店なら、売っているだろうから珍しいものでもないよ」
「なるほど、なるほど。ところでここって貴族区ですよね? 帰りはどうしたらいいですか?」
「あ、やっぱり気が付いてた?」
「向こうのお店は壁を背にしていましたし、あんな扉がありますし、さすがに気が付きますよ」
うん。僕は意図せず目標の1つ目をクリアしていたのだ。
『魔法具製作』のスキルを持っているし、奴隷商人だし、貴族につながりがあるかと思っていたのだけれど、思いのほかの大収穫。
貴族区と一般区を行き来できる扉がこんなところにあったなんて、ってものだ。
しかしながらこんな特権を持っていると言うことは、貴族とのつながり……程度では収まらないと思うのだけれど。
「王族とのつながりありますよね?」
「さすがにもう隠せないかな。隠す必要もないんだけれど」
「もしかして、僕を捕まえますか?」
「いいやそれは怖そうだ。それに奴隷商人ではあるけれど、その辺から捕まえてきているわけじゃないんでね。
ボクが扱うのは主に借金奴隷で、一部犯罪奴隷。後ろ暗いことをするつもりはないんだよ」
「それならどうして、僕に声をかけたんですか?」
それに僕に店の場所を教えた理由も正直謎だ。
僕みたいな一般市民に奴隷を買えるお金なんてあるとは思わないだろう。
もしかしたら、この世界の奴隷はものすごく安いのかもしれないけれど。
だとしたら、この奴隷商が貴族区にある意味が解らない。
貴族に売るような値段だからこそ、ここにあるのだろうから。
「面白そうな子がいるなと思ったからね」
「面白そう?」
意外な回答に首をかしげると、お兄さんが少しうつむいた。どうやら僕の足元を見ているらしい。
「ローブは結構汚れているのに、その靴は新品そのもの。そんな子が一人旅風だからね。
お忍びか何かだろうと思ってね。どこかの国の姫様とかそんな感じじゃない?」
「どうでしょうね」
「少なくともその靴は魔法具みたいだから、一般人ってことはない。
自動洗浄とかついてそうだよね」
「よく見てますね。高価なものを持っているから、お金も持っているだろうと思ったんですか?」
「お店の場所を教えたのはそうだね。ここまで連れてきたのは、面白そうだったからかな。
普通のお忍びのお姫様は、あっちの店みたいに怪しいところには近づかないからね」
「なるほど。参考になりますね」
今後は靴をどうにかしたほうが良いかもしれない。
だけれど、これ以外の靴を履きたくないんだよね。
何せ履き心地が違う。違和感なく履き続けられるのは、今にして思うとかなり便利なのだ。
何にしても聞きたかったことは終わりかな。
「それじゃあまず。お兄さんが作った魔法具を見せてくれませんか?」
ええと、現在確認してきたところ、また日間総合ランキング100位内に返り咲いていますが、1日2回更新は終了と言う事でお願いします。





