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 城にいるときには、城から出ることができなかったので、こうやって城下町を歩くのは初めてになる。

 ここは一般区画。要するに平民が生活している場所。

 それでも、地面には形がいびつながらも石畳が敷いてあって歩きやすく、建物も他の場所だと上流階級しか使っていないようなものを使っている。


 区画整備と言うのだろうか、住居がある場所、お店がある場所、冒険者が集まる場所などと分けられているので、町の探索がしやすい。

 フードのお兄さんのお店は商業地区の奥まったところにあるらしい。


 裏道とか使うみたい。


 実際に使うのは怖いけれど、裏道というのは妙に惹かれるものがある。

 今では怖いものは、心臓に向けられた剣くらいだけれど。


 でもまあ、今日は行かない。


 向かうは王都の中心部。貴族区画のその中心。

 勇者達がいるであろうお城の中。


 と、意気込んではみたものの、潜入がこれ、なかなか難しい。

 貴族区と一般区は壁によって分けられていて、門を通って中に入る。

 それだけならまだしも、なにやら魔法的なバリアで隔てられているみたい。


 正攻法で中にはいるには、伝手や許可証が必要になる。

 門で門番に懇意にしている貴族に連絡を取ってもらうとか、前もって貴族から許可証を受け取っておくとか。

 他にも方法はあるけれど、一般市民が気まぐれにはいることはできない。


 門を物理的に越えていこうとしても、お城を中心にドーム状に壁があるみたいなものなので、それも難しい。

 しかも外から中は弾くけれど、中から外は簡単に出られる。

 よって城から逃げるのは簡単だけれど、侵入するのは難しい。


『隠密』は便利だけれど、万能ではない。

 隠密行動をするとき、気がつかれにくくなるのが主な効果と言える。消えるわけではないので、センサー的なものには引っかかるし、透明になっているわけではないので映像を残すようなものがあれば、ばっちり映る。

 何と言うか意識されていなければ視界に入ってもバレはしないのだけれど、一度意識されてしまうと見られると見つかる。


 会議の中で空いている席に座っていても気が付かれないけれど、誰かの席に座っていたらそこに座ろうとした人にはバレる。

 何というか「お前そこにいたの!?」を地でやることができるスキルなのだ。


 だから魔力的バリアで守られた貴族区に入るには、バリアを破壊するか、壁を壊すかがもっとも簡単。でも騒ぎになるからやらない。

 ないだろうけれど、勇者が出てきて戦うことになっても面倒だから。


 勇者達にはしっかりと地獄を味わってもらわないといけないから。


 ここで誤って殺したくはないし、王国側に処分されるのも好ましくはない。

 理想としてはこっそり侵入して、精霊の居場所を探して、可能であれば気が付かれないうちに助けて逃げ出すこと。

 ついでに勇者達が今何をやっているのかを観察して、王女様の様子も見たい。


 すべては精霊を見つけてからか。


 そのためにはまず貴族区に入るための方法を探さないと。

 つまり情報収集だ。情報収集の基本はコレギウム。何せ冒険者だから。





「なるほど、つまりF級の僕だと難しいってことですね」

「そうなりますね。せめてC級はないと、貴族の方々からの依頼は受けられませんから」

「ちょっと見てみたかったんですけどね。せっかく王都に来ましたし」

「頑張ってC級を目指してみてください。それではこちらの依頼を承りますので、規定金額をお願いします」

「分かりました」


 コレギウムで依頼を受けるついでに受付さんに尋ねてみたら、すぐに無理だと返ってきた。

 予想はしていたけれど、取り付く島もなさそうだ。

 冒険者ならC級以上、商人なら一般に大商人と呼ばれるようになるまで。

 貴族と平民の壁はとても大きい。


 王都のコレギウムは、冒険者関連が集まっている地域の大きな建物になる。

 他には武器屋とか、道具屋とか、酒場とか、冒険者を相手の商売が集まっている。


 コレギウムの中にはそれなりに人が集まっていたから、話だけをしに行くのは拙そうだったので、依頼もついでに受けておいた。

 いつものように動物の狩り依頼。この依頼を持っていくときに、若手なのか青年のグループが何かの依頼を受けようとして周りから「やめておけよ」と言われたり、ブッキングして喧嘩とかしていたりしたけれど、動物狩りの依頼は相変わらず不人気らしい。


 喧嘩になるどころか、がんばれよと応援されてしまった。


 今日はなんか良いお肉を狩って帰ろう。





「そう言えばどうして王都に動物狩りの依頼があるんですか?

 僕は助かりますけど」


 今日は鹿がいたので鹿を狩った。

 狩り依頼はお肉と皮が納品対象で、質と量によって料金が変わる。

 ぼくは体が小さいけれど、力は普通の人の100倍以上あるので、持っていく分には問題はない。


 荷車とかあればいいんだけれど、一人旅で持ち歩くにはさすがに邪魔なので、解体して大きいリュックサックに突っ込んでいる。

 1頭狩っても食べられるところは半分くらいなので、部位に分けて詰め込めば僕が背負えるリュックサックでもなんとかなる。


 このリュックサック、お肉をいれることで鮮度が落ち難くする肉専用らしく、王都で買ったら大銀貨くらいになった。感覚的には10万円単位だ。

 国境の町にいる時に出会いたかったね、このリュックサック。


 そんな嬉しいような悲しいようなリュックサックに、お肉を詰めているときにふと思い出した。


 王都付近って家畜がいるよね。

 動物性たんぱく質は安定供給されているよね。だって今日狩りに出る前に、屋台で美味しいお肉食べたもの。野生の動物だと筋肉質なことが多いのに対して、柔らかくて油が甘いお肉を食べたもの。


 おすすめはコレギウムを出て3つ目の屋台。

 オーソドックスな串焼きのお店だけれど、売っているものの中の1つにいろいろなお肉をまとめたものがある。串焼き1本で食べ比べができるので、満足度が高い。


 と言う事で、受付で尋ねてみた。

 どうでもいいけれど、受けた時とはまた違う人。


「えっと、私はよく知らないんですが、こういった野生の動物のお肉は高級食材になるみたいです。

 ですから、お金持ちが偶に購入するんだって聞きました」

「お金持ちって貴族も入ったりします?」

「購入される方もいるでしょうね」

「分かりました。ありがとうございます」


 貴族区へのとっかかりがこんなところでも出てくるなんて。

 でも、これ経由で貴族に知られるようになると、やれあれを狩ってこいとか、それを狩ってこいとか言われるのだ。

 知られるまでにも時間がかかりそうなので、今回はパス。でも食事というのは、今後役に立ちそうな気がする。


 食事を必要としていないのがネックだけれど、趣味として料理を始めてみても良いだろう。

 だとしたら、いっそ個人用に無限収納バッグとか作っても良いかもしれない。


 今からモノ作り無双が始まるのさ(始まらない)。

そろそろ、1日2回投稿という狂気は終わるかなと思います。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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