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全員の判定が終わって、初めて謁見の間に訪れた時のように、王国側とクラスメイトで別れる。
最初と違うのは、誰もが僕を避けていることだろう。
クラスメイトは気に食わないから無視。王国側は手を出せないから放置する気なのだろう。
「此度の召喚。勇者だけでなく従者が3人もいるという実に有意義なものであった。
ここまでくると、最後の1人が見つからなかったのが悔やまれるが……。
急な呼び出しに其方等も疲れているだろう。各自部屋を用意している故今日はゆっくり休むがいい」
国王の言葉に合わせて、ロングスカートのメイドさん軍団が現れる。
一人につき一人。
クラスメイト同士で会話をさせる暇もなく手を引かれて、それぞれ個室に案内される。
25人に一人一人部屋が与えられるとは流石は国王と言うか、城と言うか。
僕につけられたメイドは、同じ年くらいの大人しそうな子。
それでもお城のメイドだけあって、キビキビとした動きをしている。
僕を害する動きは出来ないはずだけれど、だからと言って何か企めないわけじゃない。
「マコト様。本日より、こちらのお部屋でお休みいただくことになります。
また専属のメイドとして私アルクスがお世話させていただきます。
何かございましたら、どのような事でもお申し付けください」
「そうですか。今日は休みたいと思いますので、ここまでで大丈夫です」
「畏まりました。明朝起こしに参りますので、ごゆっくりお休みください」
綺麗な所作で礼をすると、アルクスさんが扉を開ける。
中に入ったところで、扉が閉められた。アルクスさんは中に入ってくることもなく、ようやく1人になることができた。
ホッとしたところで、全身から疲れが抜けた。
豪華なベッドに横になると、寝てしまいそうになる。
このまま寝てしまい、二度と起きずにいたい。
でも明日の朝になったらアルクスさんが起こしに来る。
だから、今日のうちに考えるべきことは、考えておかないといけない。
明日からどうするか。これからどうするか。
僕がこの国とした契約は僕たちの生活と安全、最低限の自由を保障するもの。
代わりに僕たちは戦闘訓練を行う。
だから王国への警戒はほどほどで良いはず。
今僕を害することができるのは、クラスメイト達だけ。
国外に刺客を依頼するということも考えられるけれど、これはたぶんない。
僕たちがいるのは城の中。国の機密が集まる場所。
他国のものをここに引き入れるのは考えられない。
だからクラスメイトと信頼関係築かないと。
一晩経てば話を聞いてくれるかもしれない。
僕たちはこの世界にたった25人しかいない、クラスメイトなのだから。
意図を伝えれば分かってもらえる。
あとは、できる限り強くなろう。戦闘力は低くても、僕のスキルは何かの役に立つはずだから。
最低限自分の身くらいは守れるように。
◇
次の日の朝、目が覚めるとアルクスさんが僕のことを揺すっていた。
「おはようございます。朝食まで時間がございますので、先にお風呂に入られてください」
言われて昨日お風呂に入っていなかったことを思い出した。
と言うか、お風呂あるんだな。きっと過去の勇者が欲していたに違いない。
どこにお風呂があるのかと思ったら、部屋に備え付けられていた。
「この世界では毎日お風呂に入るものなのですか?」
「高貴な方であればそうですね」
「僕たちが入って良いんですか?」
「勇者様ですから、何も問題はありません」
自信たっぷりに言うアルクスさんが少し可愛く見えたけれど、それはそれとしてお風呂に入ることにする。
一人一人にメイドをつけたというのも王国の罠だと思うし、最低限の付き合いだけをしておいた方が無難なはずだ。
案内された脱衣所で服を脱いで、浴室に入る。
足元のタイルとか、バスタブの材質とかどことなく高そうな感じがするけれど、見た目は普通のお風呂。特に広くもなく、狭くもなく。
早いところ済ませてしまおうと思ったのだけれど、背後で扉が開く音がした。
「お手伝いさせていただきます」
「ちょ、ちょっとまって」
展開的に期待しなかったわけじゃない。
健全な男子たるもの、女性とお風呂に入るというのは憧れるシチュエーションだろう。
だけれど、ここで理性を働かせなければ、どうせ悪い方向へと事が運ぶんだ。
そろりと背後を確認すると、メイド服のままのアルクスさんがいた。
まあ、そうだろう。城のメイドともなれば、良い家のお嬢さんということもある。
そういう人がそう簡単に肌を見せるわけがない。
そうなると、自分だけ裸というのがものすごく恥ずかしくなってくる。
「えっと、あの……一人で大丈夫ですので」
「ですが、使い方お分かりになりますか?」
言われて気が付く。
シャワーはあれど、蛇口はなく。体を洗うにも、タオルが用意されているわけでもない。
シャンプーもボディソープもなければ、どう体を洗っていいのかもわからない。
「お願いします……」
「はい。お任せください」
仕方がないので、準備されている椅子に座って、うつむき、目を閉じた。
◇