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見えてきましたフラーウス王都(2回目)。
名も知らぬ村を出て、歩いたり走ったりしていたら、3日くらいでつきました。
おそらくこの速度はおかしいんでしょう。
うん。道をはずれて進んでいてよかったと思う。
少女が道を爆走している様を見られたら、たぶん噂になる。
それはあまりよろしくない。王都で指さされて笑われる可能性もある。
車とは言わないけれど、自転車くらいの速度は出ていたんじゃなかろうか。
軽く走ってこれなのだから、全力で走ったらそれこそ車並の速度がでると思う。下手したらそれ以上。
そう思って、王都が見えてきたところで、一度引き返して走ってきました。(2回目)とはそういうことです。
体力的な問題はなし。筋肉痛とか、関節が痛いとかもなく、ただただ速かった。
何せ1日で国境の町に着いたから。風を切って走る楽しさを知った。
自転車が趣味の人の気持ちが分かったように思う。
2度目の王都への旅路は、徹底的に森の中を進んでみることにした。
強い魔物や珍しい魔物がいると聞いたので、ちょっと覗いてみようかなくらいの気持ちで。
『隠密』を使って行くと、おもしろいくらいに気がつかれないので、観察がはかどった。
例えばグリュプスと単眼巨人の戦いは見応えがあった。どちらもB級の冒険者パーティが狩るような魔物で、グリュプスが風魔法や爪、突進と様々な攻撃を繰り出すのに対して、単眼巨人は木をそのまま使っているかのような棍棒を振り回す。
最終的にどちらもボロボロになりながらも、単眼巨人が辛勝していた。
あの鋭い爪をまともに食らっても、致命傷にならないとは、鋼の肉体ってああいうことを言うのだろうと、しみじみ思ったものだ。
そしてたくさんあったスキルの中に、『鉄の身体』なんて似たようなものがあったのを思い出し、戦慄した。
自分が素肌であの攻撃を受けるというのは、躊躇する。何せ刺されて殺されたから。
亜神といえども恐怖心を覚える。
別にそのせいで肉体的な弱点になっているわけではないけれど、精神的にも「ちょっと怖いな」くらいのものだけれど、生きている以上何が起こるかわからないのだ。
なんてフラグはさておいて、魔物を集めた闘技場なんて有ると人気がでるのではないだろうか。
上位ランクの魔物を捕まえるのは無謀だけれど、C級レベルなら捕まえることも難しくないと思う。
日本人的に言えば、ライオンとトラはどっちが強いの? みたいな需要に応えられると思う。
C級の魔物が町に放たれたら、下手したら数十人の犠牲者がでると思うけれど。
そんなわけで、何もありませんでした。
で、今の状況なのだけれど、王都の門の行列に並んでいる。
精霊がいるとされる国の中心地。フラーウスでもっとも栄えている場所ともなれば、当然人の行き来が激しいのだ。
それにしても長いなー。少しずつ動いているけれど、まだ門が小さくしか見えない。
というか、背が低くて前の人の背中しか見えない。
意地になって前の人の肩越しに門が見えないかと頑張っていたら、後ろから「お嬢ちゃん、王都にくるのは初めてみたいだね」と声をかけられた。
振り返ってみると、馬車を引いた男の人(?)が立っていた。
フードをかぶっていて顔は見えないけれど、声は男の人みたいだったので、男の人なのだろう。声の若さ的にお兄さん。
商人か何かだろうか。
無視してもいいのだけれど、他にやることもないので返事をしてみる。
「はい、初めてです。いつもこんなに人が多いんですか?」
「多いよ。町の中にはいるだけなのに、事件や事故もそれなりに起こってね、下手すると今日中に王都に入れない」
「事件が起きるんですか?」
「許可されていない薬品を持ち込もうとしたり、お金も通行証もないのに強行突破しようとしたりが多いかな。
国王様達の計らいで、これでもスムーズに町に入れるようにはなったんだよ」
「やっぱり王様ってすごいんですね」
僕の策にはまったと思ったら、すぐに解決に向けて動き出していたし。
人を追いつめることにだけ長けているんじゃないらしい。
「うん、陛下だけじゃなくて、殿下達も有能って話だよ。
国のためにと割り切ることも多いから、一部では冷酷だって言うけれど、国のトップはそれくらいじゃないと務まらない」
「もしかして、お兄さん王族とつながりがあったりするんですか?」
「まさか。ただ恩恵を受けているだけだよ」
おどけるお兄さんは、見た目に似合わずひょうきんなのかもしれない。
このお兄さんが何者かは、鑑定してみればわかるのだろうけれど。
いや、職業とかが出るわけではないから無理か。
わかるとしたら、お兄さんが本当にお兄さんなのかってことくらい。あと名前。
「お兄さんって何している人なんですか?」
「ボク? ボクは商人だよ。商品を仕入れて、売るのが仕事さ」
「商品……ですか」
「商品だよ? あ、あとちょっとアクセサリーみたいなのを作って売ることもあるかな」
ちょっと言葉尻を捕まえてみたら、フードの向こうでニヤリと笑っているのが簡単に想像できる声が返ってきた。
あー、なんか釣れてしまったかもしれない。
無意味に意味深な発言はするもんじゃない。
「アクセサリーなんて作っているんですね。見せてもらえませんか?」
「ここにはないんだよ。店に着いたら有るんだけど……」
「じゃあ、商品も気になりますし、お店の場所教えてくれませんか?」
「そうかい? じゃあ地図を書いてあげよう」
お兄さんは外套の懐から紙とペンを取りだして、さらさらと地図を書き始める。
その間にお兄さんを鑑定してみることにした。顔が見えないので、お店に行って本人かどうか確認することもできない。
だから名前だけでもと、鑑定をしてみたところスキルの欄におもしろいものを見つけた。





