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 宿舎に付いたら夕食の準備が終わっていた。

 聞けば職員は順番に食事当番が来るらしい。

 寮に近いのかなと思ったけれど、どちらかと言えばシェアハウスの方かもしれない。


 ついでに僕の分もありました。

 多めに作っていただけともいう。


 献立としては何かのお肉と野菜のスープ。

 鑑定によると、お肉は森林鳥(シルウァ・アウィス)。簡単に言えば、森にいる鳥の魔物。

 野菜は畑にあった質の悪いもの。


 とは言え、亜神的にはお腹を壊すこともなければ、味覚を無視して食べるなんてこともできる。

 だから特に気にせずいただきます。


 まずはスープを一口。


 スープって具材を含めてスープという1つの料理だけれど、液体部分を指してもスープと呼ぶよね。

 つまりスープのスープを飲んでいるわけだけれど、このスープの呼び方って他にないんだろうかね。


 ズズっと音を立てるのは行儀が悪いらしいので、スプーンを咥えこむように飲みましょう。次にお肉をいただく。


 口に広がるのは濃厚な鳥の出汁。

 塩で味を調えているとはいえ、出汁だけで十分な味があるのに、出汁を取ったのであろうお肉部分にもまだ味が残っている。

 なかなかに食べ応えがある魔物だ。


 で、問題のお野菜は……非常に味気ない。

 スポンジを食べている、というのは言い過ぎだけれど、ものすごく薄い。

 もちろん出汁として、スープに溶けているわけでもない。


 お城で食べたスープの野菜は美味しかったのに。精霊の加護ってやつでここまで変わるものなのか。


「むー……」

「ははは……おいしくはないよね」

「鳥は美味しいです」

「野菜は王都の物に比べると落ちちゃうね。

 これでも昔に比べるとだいぶ美味しくはなったのよ?」

「そうなんですね」


 まあ、食べられなくもないものだ。鳥は美味しいし。

 ランプの光で影が伸びる中、オーリワさんと向かい合って夕食を食べた。





「この村って不思議な感じですよね」

「不思議って言うとどのあたりが?」


 食後ののんびりとした時間。聞きたいことがあったから、おもむろにオーリワさんに話しかける。


「王都から離れているから、作物がうまく育たないのは分かるんです。

 それなのに村がなんだかとても明るいから……でしょうか」

「ふふ、確かにね。わたしもここに初めて来たときはそう思ったわ。

 王都から離れた村で楽しいことは何もないし、いつ魔物に襲われるかもわからないってね。

 実際昔はそうだったみたい」

「何か変わるきっかけがあったんですね」

「ええ。トパーシオン王女様が国境に物資を届けるときに、より快適になるようにと村の開発を提案してくれたらしいわ。

 お陰で多くの人が集まるようになったのよ」


 第一王女か。その性格をちょっと測りかねていたのだけれど、今の話が本当なら少し見えてきた。

 考えてみると、僕が王女様に会ったのって召喚されたときと、死ぬ直前くらいなものだ。

 城にいた時には、ずっと(つば)迫り合いをしていたような感じだったので、何回か会っているような気がしていた。


 フラーウス王国は僕たちを拉致した元凶で、僕を殺した相手でもある。

 それなのに、クラスメイト達ほど復讐心がわかないのは、どうしてだろうか。

 最初から敵だと思っていたから? 実際に手を下したのがクラスメイトだから?

 クラスメイト達への失望が大きかったから? クラスメイト達への復讐に必要な国だから?


 その全てと言っていいのかもしれないけれど、どの道、世界崩壊とともに滅ぶと知っているからかもしれない。

 だからと言って、何も手を出さないわけじゃない。

 王国から精霊を奪ってしまえば、それだけで国は弱体化する。


 それもまた復讐になるだろう。


 トパーシオン王女はいわば、宿敵なのだと思う。宿敵と書いて「とも」と呼ぶみたいな。

 次こそは負けないぞ、みたいな。

 憎いけれど、クラスメイトに思うほどではない。


 それはともかく、王女はなかなかに国民を大切にしているお人のようだ。その代わり国民以外にはとても厳しい一面を持っている。そうでないと、死ぬ間際に見た顔は出来まい。


「王女様は人気なんですね」

「そうね、いつもわたし達のために頭を悩ませている、と言う話を聞くくらいよ」

「明日にはまた王都に向かって出発しようと思うんですけど、行くのが楽しみになってきました」

「会えるといいわね」

「そうですね。それでは泊めてもらえる部屋まで案内してもらえますか?」


 僕が立ち上がり、オーリワさんも立ち上がる。

 それから、今日の宿になる場所に案内してもらった。





 翌朝、コレギウムで見送られて、王都への旅を再開する。

 今日も朝から何組もの冒険者が森に入って行って、魔物を狩って、それを商人が買い取って、村に繁栄をもたらすのだろう。


 あの村はまるでこの世界のようだ。

 いつ魔物に襲われるかわからない、いつ壊れるかわからない。

 世界が壊れることは確定事項だけれど、あの村はどうだろうか。世界と一緒に壊れるのか、その前に壊れるのか。


 そんなことよりも今日からは、道なき道を行く。

 誰かに出会うと面倒くさそうだから。なんて思っていたのが悪かったのかもしれない。


 魔物の群れとぶつかってしまった。どうやら大移動をしているらしく、同種の魔物――小さい小人みたいなおそらくゴブリンとその上位種――が何十単位で移動している。

 向かう先にはあの村があるけれど『隠密』を使っていなかったので、気が付かれてしまったらしい。


 あー、本当に運がない。誰がとは言わないけれど。





 少しばかり運動して、僕はまた王都へと歩を進めた。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[一言] この無自覚ツンデレみたいな主人公が、すべての精霊を助けたあと、すべてを見捨てて世界を壊すイタズラできるとは思えないな。 神様も思ってなさそう。
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