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宿舎に付いたら夕食の準備が終わっていた。
聞けば職員は順番に食事当番が来るらしい。
寮に近いのかなと思ったけれど、どちらかと言えばシェアハウスの方かもしれない。
ついでに僕の分もありました。
多めに作っていただけともいう。
献立としては何かのお肉と野菜のスープ。
鑑定によると、お肉は森林鳥。簡単に言えば、森にいる鳥の魔物。
野菜は畑にあった質の悪いもの。
とは言え、亜神的にはお腹を壊すこともなければ、味覚を無視して食べるなんてこともできる。
だから特に気にせずいただきます。
まずはスープを一口。
スープって具材を含めてスープという1つの料理だけれど、液体部分を指してもスープと呼ぶよね。
つまりスープのスープを飲んでいるわけだけれど、このスープの呼び方って他にないんだろうかね。
ズズっと音を立てるのは行儀が悪いらしいので、スプーンを咥えこむように飲みましょう。次にお肉をいただく。
口に広がるのは濃厚な鳥の出汁。
塩で味を調えているとはいえ、出汁だけで十分な味があるのに、出汁を取ったのであろうお肉部分にもまだ味が残っている。
なかなかに食べ応えがある魔物だ。
で、問題のお野菜は……非常に味気ない。
スポンジを食べている、というのは言い過ぎだけれど、ものすごく薄い。
もちろん出汁として、スープに溶けているわけでもない。
お城で食べたスープの野菜は美味しかったのに。精霊の加護ってやつでここまで変わるものなのか。
「むー……」
「ははは……おいしくはないよね」
「鳥は美味しいです」
「野菜は王都の物に比べると落ちちゃうね。
これでも昔に比べるとだいぶ美味しくはなったのよ?」
「そうなんですね」
まあ、食べられなくもないものだ。鳥は美味しいし。
ランプの光で影が伸びる中、オーリワさんと向かい合って夕食を食べた。
◇
「この村って不思議な感じですよね」
「不思議って言うとどのあたりが?」
食後ののんびりとした時間。聞きたいことがあったから、おもむろにオーリワさんに話しかける。
「王都から離れているから、作物がうまく育たないのは分かるんです。
それなのに村がなんだかとても明るいから……でしょうか」
「ふふ、確かにね。わたしもここに初めて来たときはそう思ったわ。
王都から離れた村で楽しいことは何もないし、いつ魔物に襲われるかもわからないってね。
実際昔はそうだったみたい」
「何か変わるきっかけがあったんですね」
「ええ。トパーシオン王女様が国境に物資を届けるときに、より快適になるようにと村の開発を提案してくれたらしいわ。
お陰で多くの人が集まるようになったのよ」
第一王女か。その性格をちょっと測りかねていたのだけれど、今の話が本当なら少し見えてきた。
考えてみると、僕が王女様に会ったのって召喚されたときと、死ぬ直前くらいなものだ。
城にいた時には、ずっと鍔迫り合いをしていたような感じだったので、何回か会っているような気がしていた。
フラーウス王国は僕たちを拉致した元凶で、僕を殺した相手でもある。
それなのに、クラスメイト達ほど復讐心がわかないのは、どうしてだろうか。
最初から敵だと思っていたから? 実際に手を下したのがクラスメイトだから?
クラスメイト達への失望が大きかったから? クラスメイト達への復讐に必要な国だから?
その全てと言っていいのかもしれないけれど、どの道、世界崩壊とともに滅ぶと知っているからかもしれない。
だからと言って、何も手を出さないわけじゃない。
王国から精霊を奪ってしまえば、それだけで国は弱体化する。
それもまた復讐になるだろう。
トパーシオン王女はいわば、宿敵なのだと思う。宿敵と書いて「とも」と呼ぶみたいな。
次こそは負けないぞ、みたいな。
憎いけれど、クラスメイトに思うほどではない。
それはともかく、王女はなかなかに国民を大切にしているお人のようだ。その代わり国民以外にはとても厳しい一面を持っている。そうでないと、死ぬ間際に見た顔は出来まい。
「王女様は人気なんですね」
「そうね、いつもわたし達のために頭を悩ませている、と言う話を聞くくらいよ」
「明日にはまた王都に向かって出発しようと思うんですけど、行くのが楽しみになってきました」
「会えるといいわね」
「そうですね。それでは泊めてもらえる部屋まで案内してもらえますか?」
僕が立ち上がり、オーリワさんも立ち上がる。
それから、今日の宿になる場所に案内してもらった。
◇
翌朝、コレギウムで見送られて、王都への旅を再開する。
今日も朝から何組もの冒険者が森に入って行って、魔物を狩って、それを商人が買い取って、村に繁栄をもたらすのだろう。
あの村はまるでこの世界のようだ。
いつ魔物に襲われるかわからない、いつ壊れるかわからない。
世界が壊れることは確定事項だけれど、あの村はどうだろうか。世界と一緒に壊れるのか、その前に壊れるのか。
そんなことよりも今日からは、道なき道を行く。
誰かに出会うと面倒くさそうだから。なんて思っていたのが悪かったのかもしれない。
魔物の群れとぶつかってしまった。どうやら大移動をしているらしく、同種の魔物――小さい小人みたいなおそらくゴブリンとその上位種――が何十単位で移動している。
向かう先にはあの村があるけれど『隠密』を使っていなかったので、気が付かれてしまったらしい。
あー、本当に運がない。誰がとは言わないけれど。
◇
少しばかり運動して、僕はまた王都へと歩を進めた。





