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「職員用の部屋が1つ余ってたよ」
「確かに。フィーニスさん、そこに泊まりませんか?」
「良いんですか?」
絶対に必要というわけではないけれど、ちゃんとしたところに泊まっていた方が周りから変に勘繰られずに済む。
それに職員さんたちには聞きたいことがある。
そう思って周りを見てみると、本来の僕のように耳が長い人とか、妙に身長が低い人、何だったら頭に動物の耳が生えた人までいるのだ。
彼らについて話を聞きたい。
人以外お城にいなかったから、この国では差別対象なのだろうかと邪推したけれど、そんなこともなかったのかもしれない。
上流階級だけに広まった習慣で、市民レベルでは大して気にされていないという可能性もある。
本当にここら辺の常識が欲しい。
この世界の技術を集めたら、アシスタントAIみたいなのができるとか、そういうのは要らない。
どうせあれだ、ゴーレムとかホムンクルスとか、そっち方面の技術なのだ。
あー、でも話し相手は欲しいかも。
一人で歩いてここまで来たけれど、なんだかんだ寂しいと思うことも少なくなかったし。
やっぱり奴隷か。奴隷を買うか、ホムンクルスを作るか。
面倒くささはホムンクルスのほうがないけれど、奴隷であればこの世界の常識を聞くこともできる。
んー、どうしたものか。
「フィーニスさん、フィーニスさん」
「あ、済みません。考え事をしていました」
「いえ、急な話でしたから、気にしないでください。
受付の業務が終わりましたらご案内しますので、それまで待っていてください。もうすぐ終わりますので」
「わかりました。端っこでおとなしくしてます」
話が終わったので、待合室の端にある椅子に座る。
大人向けに作られた椅子は、僕には少し大きく微妙に足が地面に届かない。
仕方がないので、足をぶらぶらさせていたら、なぜか視線がこちらに集まっていた。
◇
見られることに思うこともないので、思うがまま足をぶらぶらさせてやった。
ちなみにロングスカートなので、どれだけ足をけり上げてもスカートの中は見えない。
でも、スカートの中が暗黒空間になっているわけではないので、木の上に乗った時に真下から見られたら、中が見えるかもしれない。
見えた時には、はっはっはと笑ってやるだけだけれど。
運がよかったな(心が)少年たちよ。
日も暮れて、小さな明かりだけになってしまったコレギウムの中で、ようやく業務終了の時間になった。
僕は暗闇でも見えるわけだけれど、当然職員は違うわけで、皆ランプのようなものを持っている。
「お待たせ。今から行くけど大丈夫?」
「話し方変わりましたね」
今日相手をしてくれているお姉さんがやってきたけれど、話し方が変わっていたので話題ついでに振っておく。
お姉さんは一度目をぱちくりとさせてから、はははと笑った。
「今は仕事じゃないもの。気を悪くしたらごめんなさい」
「いえ、ちょっと驚いただけです。行きながら、いくつか話を聞いていいですか?」
「もちろん。フィーニスちゃんは、ランプ持ってないの?」
「夜目が利くので大丈夫です。夜の森でも動けますよ」
「その年で一人旅しているんだもんね。何か特技があるのは当たり前か」
話しながら、促されてコレギウムを後にした。
◇
お姉さんはオーリワさんというらしい。
年齢は秘密(23歳だった)。この村のコレギウムの職員として3年ほど働いているのだとか。
自己紹介の後にこの世界の亜人について聞いてみたのだけれど、最初不思議な顔をされてしまった。
だから「わたしフィーニス。14歳」で世情に疎いことを事情を説明すると、普通に教えてくれた。
まずこの世界で人とかかわりを持つ種族は、森妖精、岩妖精、海妖精、空妖精、それから獣人、魔族となる。森妖精はエルフ族、岩妖精はドワーフ族、海妖精は人魚族、空妖精は有翼族で、見た目はファンタジー作品のそれを思い浮かべてもらうとわかりやすい。普通の人は、人族。
ただ、人魚族に関しては常に半身魚ではなくて、陸に上がると人の足になるとか。
さらにずっと陸上にいても、水分をちゃんと取っていれば問題はないらしい。水不足に弱い種族と言えそうだ。
魔族に関しては、見た目は人族とそんなに変わらない。浅黒い肌に赤い目が特徴らしいけれど、浅黒い肌の人族もいる。逆に人族っぽい魔族もいるみたい。
だけれど性格は好戦的で且つ戦闘力も高いのだとか。魔族の王が今言われている魔王なので、勇者たちが倒す目標でもある。
獣人と魔族は人族から派生したと言われているが、○妖精族と呼ばれる人たちは、よくわかっていない。
あと呼び方だけれど、亜人ではなくて他種族。亜人は蔑称とか何とか。
それぞれの種族の特性としては、さらっと流されたので、詳しくは分からなかった。
いちいち説明していたら長くなりそうだから、省略したのだろう。
それぞれの種族をどう扱っているのかに関しても国ごとに違うので、この国だけ教えてもらった。
まずフラーウス王国は人族が中心となる国家。王族を含めて上流階級はすべて人族が担っている。
道理でお城に他種族がいないわけだ。
そして魔族は上流層から下流層に至るまで、悪だと認識している。
フラーウスの北にあるニゲル国――魔王国が、フラーウスに度々手を伸ばしてきているからというのもあるが、魔族がかつて居た本物の魔王の影響を受けて生まれたと言われているからでもある。
勇者召喚を行えるフラーウスは、魔王をとことん嫌っているわけだ。
その他の種族に関しては、冒険者とか商人レベルでしかおらず、フラーウスで生まれて、フラーウスで育ったという純粋な他種族はいないとされる。
平民レベルだと他種族を気にすることはないけれど、王都に行くにしたがって、差別と言うか区別と言うか、そういった距離感を感じるようになるのだとか。
日本に来た外国人みたいな目で見られるのかもしれない。
上流階級になってくると、他種族嫌いとかも出てくるので、王都に行っても貴族街には近寄らない。と言うか近寄れない。
また人権的な意味でも、明確に違いがあるわけではないけれど、慣例的に差別されることもしばしば。人族に比べると、他種族の奴隷がなぜか結構いるなんてこともある。
人族以外から見れば、フラーウスとは平民レベルで付き合う分には問題はないけれど、出世はなかなか見込めない場所。好んで住もうとは思えない、くらいの感じだろうか。
とは言え、エルフ族がまとめている国ではエルフが優遇されるし、ドワーフの国でもまた然り。
フラーウスが特別と言う事でもないのだそうだ。
そういうわけで、これまで耳を隠していた意味は全くないわけでもないけれど、そこまで意味があったわけでもないことが分かった。
いや、今から王都に行くわけだから、とてもとても意味があったのだ、あるったらあったのだ。
そういうことにした。





