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さて今日でこの宿屋ともお別れ(2回目)。
台風かと思うほどの荒々しい天気だけれど、審議の結果旅立っても大丈夫になった。
服の心配はしなくていいから、荷物を袋に入れて……入れて……。
あれ? 袋濡れるんじゃない?
何だったら中身も濡れる。けれど、現状持っているのはお金と冒険者のカードくらいか。
こうなると、普通の旅って何を持っていくのだろうか。
水と食料と……あとは武器くらい?
水も食料も僕には要らない。
いつも使っている弓は作ろうと思えば、すぐに作れるから捨てて行っても構わない。
なるほどなー。亜神というだけで、旅支度がかなり楽になるのか。
これはなかなかいいオプションかもしれない。
それじゃあ、今度こそ出発しましょうか。
◇
叩きつけるような雨の中、意気揚々と歩いていく。
顔に当たる雨が、衣服をばたつかせる風が、直に自然を感じているようで心地いい。
精神構造がだいぶ人から離れた感じがする。
実はここに来るまでにひと悶着あった。
というのも、宿屋の主人が引き留めようとしたから。
14歳ほどの子供が雨風が強い中、旅に出るなんて言ったら止めるものなのかもしれないけれど、ありがた迷惑だったかな。
宿屋のお金を払っていないからと言ったら、1日くらいタダで泊らせてやるって返ってきたし。
気の良い人だったのかもしれないけれど、残念ながら僕とは合いませんでしたとさ。
そういう気遣いは是非中立組の2人に見せてあげてほしい。
生前気にかけていたこともあって、死んでほしいとは思わないから。
雨の中を歩くにあたって、1つ嬉しいことがある。
それは誰にも出会わないこと。
道の真ん中を堂々と歩いて行ける。僕が歩いたところに足跡が付くけれど、強い雨はそのあともすぐに消してくれるので、気にならない。
折角だし、軽く走ってみようかなと走り出して、思いのほかに速度が出てびっくりした。
体がものすごく軽い。
服は体に張り付くけれど、不思議とそこまで不快でもない。
着心地◎とか付いていたせいかな。流石は神器だ。
走り始めて数時間。雨が弱まった。
森を通り抜ける道に入ったから、木々に遮られたのかなとも思ったけれど、そういうわけでもないらしい。
シトシトと雨が葉にぶつかり、雨粒の重みで葉が反り返るように弾く。
雨音も森に遮られて、こもったような感じになった。
手ごろな木の下で雨宿りでもしたら、小説か何かのワンシーンとして使えないだろうか。
雨の中、木の下の限られたスペースで、あの人と出会った。なんて、そんな小説を読んだこともあったっけ。
ライトノベルばかり読んでいたけれど、偶に綺麗な文章を見つけると、つい浸ってしまうのだ。
これもある意味聖地巡礼とか言ったりするのだろうか? 違うような気もするけれど、物語の舞台になった場所に行くなんて、昔の僕はしたことがなかったから結構新鮮だ。
何せ未だに水が滴っている。
まるで水槽から取り出したばかりの鮮魚のようだ。
そう言えばこっちに来てから、魚食べてないな。
食事自体かなり回数が減ったけれど。
そんなことはどうでもよくて、急に雨が弱まったのはなぜかという話。
どうやら世界崩壊の影響が少しずつ現れているようだ。
まだ雨程度だけれど、表面化してきたことが問題。
今後加速度的に進んで、地震とか頻発するようになるだろう。加速度的と言っても、数年は大きな変化はないと思うけれど。
世界にしてみれば、数年なんて一瞬。
何千万とか、何億とか、存在しているので僕たちとはスケールが違う。
世界崩壊が近いのだと思うと、手付かずの森の中で道だけが整備されている様子は、ディストピア感があってなんとも趣深い。
森の中で朽ちていてる建物とか、結構好き。
廃墟マニアの気持ちがよくわかる。見つけたからと言って、ものすごくテンションが上がるわけではない。むしろ、悲痛な光景に気分が落ちることすらある。
だけれど、その心の動きが良いのだ。
人類の終焉というものを見たいなーと、中二病のように考えていた時代が懐かしい。
でも現在の状況としては、全然見られるのか。
人の終わりと言うか、世界の終わりって言うのを。
崩壊した世界がどうなるのか、ちょっと気になる。
できれば今みたいに歩いてみたいとすら思える。歩ける場所があるか知らないけれど。
それはきっと、サービス終了後のMMORPGにアクセスしているみたいな、なんとも言えない物悲しさがあるに違いない。
したことないけど。唯一やったことがあるMMORPGは転移当時まで稼働していたし。
いっそ世界を崩壊させる側に回ってみるのも良いかもしれない。
本格的に魔王やるとか。
hey,god.
『神はアシスタントAIではないんだけど、どうしたんだい?』
『神様知ってたんですね。okの方でも反応してましたもんね』
『そういうのがあるってことは知っているよ。魔法が発達したこの世界でも、似たようなものを作ること自体は出来るし』
『そうですね。できますね』
作れる人がいるかは知らないけれど。魔法剣よりも多くの技術を必要とするので、難しいかな。
『それで何の用かな?』
『あー、僕の役目って精霊を連れていくことじゃないですか』
『そうだね』
『そのあとで、世界を相手に遊んでいいですか? 壊れるかもしれないですけど』
『別に構わないよ。どうせ50年ももたない世界なんだから。今すぐ壊れても誤差だよ誤差』
『了解です。今はノープランですけど、また何かあったら連絡します』
『はいはい。頑張ってね』
ガチャ……リンリンリン♪
うん。違う、違うんだ。神様よ。
そのリンリン鳴るのは、呼び出し音なのだよ。





