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 さて今日でこの宿屋ともお別れ(2回目)。

 台風かと思うほどの荒々しい天気だけれど、審議の結果旅立っても大丈夫になった。

 服の心配はしなくていいから、荷物を袋に入れて……入れて……。


 あれ? 袋濡れるんじゃない?


 何だったら中身も濡れる。けれど、現状持っているのはお金と冒険者のカードくらいか。

 こうなると、普通の旅って何を持っていくのだろうか。

 水と食料と……あとは武器くらい?


 水も食料も僕には要らない。


 いつも使っている弓は作ろうと思えば、すぐに作れるから捨てて行っても構わない。

 なるほどなー。亜神というだけで、旅支度がかなり楽になるのか。

 これはなかなかいいオプションかもしれない。


 それじゃあ、今度こそ出発しましょうか。





 叩きつけるような雨の中、意気揚々と歩いていく。

 顔に当たる雨が、衣服をばたつかせる風が、直に自然を感じているようで心地いい。

 精神構造がだいぶ人から離れた感じがする。


 実はここに来るまでにひと悶着あった。

 というのも、宿屋の主人が引き留めようとしたから。

 14歳ほどの子供が雨風が強い中、旅に出るなんて言ったら止めるものなのかもしれないけれど、ありがた迷惑だったかな。


 宿屋のお金を払っていないからと言ったら、1日くらいタダで泊らせてやるって返ってきたし。

 気の良い人だったのかもしれないけれど、残念ながら僕とは合いませんでしたとさ。


 そういう気遣いは是非中立組の2人に見せてあげてほしい。


 生前気にかけていたこともあって、死んでほしいとは思わないから。


 雨の中を歩くにあたって、1つ嬉しいことがある。

 それは誰にも出会わないこと。

 道の真ん中を堂々と歩いて行ける。僕が歩いたところに足跡が付くけれど、強い雨はそのあともすぐに消してくれるので、気にならない。


 折角だし、軽く走ってみようかなと走り出して、思いのほかに速度が出てびっくりした。

 体がものすごく軽い。

 服は体に張り付くけれど、不思議とそこまで不快でもない。

 着心地◎とか付いていたせいかな。流石は神器だ。


 走り始めて数時間。雨が弱まった。

 森を通り抜ける道に入ったから、木々に遮られたのかなとも思ったけれど、そういうわけでもないらしい。

 シトシトと雨が葉にぶつかり、雨粒の重みで葉が反り返るように弾く。


 雨音も森に遮られて、こもったような感じになった。

 手ごろな木の下で雨宿りでもしたら、小説か何かのワンシーンとして使えないだろうか。


 雨の中、木の下の限られたスペースで、あの人と出会った。なんて、そんな小説を読んだこともあったっけ。

 ライトノベルばかり読んでいたけれど、偶に綺麗な文章を見つけると、つい浸ってしまうのだ。


 これもある意味聖地巡礼とか言ったりするのだろうか? 違うような気もするけれど、物語の舞台になった場所に行くなんて、昔の僕はしたことがなかったから結構新鮮だ。


 何せ未だに水が滴っている。

 まるで水槽から取り出したばかりの鮮魚のようだ。


 そう言えばこっちに来てから、魚食べてないな。

 食事自体かなり回数が減ったけれど。


 そんなことはどうでもよくて、急に雨が弱まったのはなぜかという話。


 どうやら世界崩壊の影響が少しずつ現れているようだ。

 まだ雨程度だけれど、表面化してきたことが問題。

 今後加速度的に進んで、地震とか頻発するようになるだろう。加速度的と言っても、数年は大きな変化はないと思うけれど。


 世界にしてみれば、数年なんて一瞬。

 何千万とか、何億とか、存在しているので僕たちとはスケールが違う。


 世界崩壊が近いのだと思うと、手付かずの森の中で道だけが整備されている様子は、ディストピア感があってなんとも趣深い。

 森の中で朽ちていてる建物とか、結構好き。

 廃墟マニアの気持ちがよくわかる。見つけたからと言って、ものすごくテンションが上がるわけではない。むしろ、悲痛な光景に気分が落ちることすらある。

 だけれど、その心の動きが良いのだ。


 人類の終焉というものを見たいなーと、中二病のように考えていた時代が懐かしい。

 でも現在の状況としては、全然見られるのか。

 人の終わりと言うか、世界の終わりって言うのを。


 崩壊した世界がどうなるのか、ちょっと気になる。

 できれば今みたいに歩いてみたいとすら思える。歩ける場所があるか知らないけれど。


 それはきっと、サービス終了後のMMORPGにアクセスしているみたいな、なんとも言えない物悲しさがあるに違いない。


 したことないけど。唯一やったことがあるMMORPGは転移当時まで稼働していたし。


 いっそ世界を崩壊させる側に回ってみるのも良いかもしれない。

 本格的に魔王やるとか。


 hey,god.


(ぼく)はアシスタントAIではないんだけど、どうしたんだい?』

『神様知ってたんですね。okの方でも反応してましたもんね』

『そういうのがあるってことは知っているよ。魔法が発達したこの世界でも、似たようなものを作ること自体は出来るし』

『そうですね。できますね』


 作れる人がいるかは知らないけれど。魔法剣よりも多くの技術を必要とするので、難しいかな。


『それで何の用かな?』

『あー、僕の役目って精霊を連れていくことじゃないですか』

『そうだね』

『そのあとで、世界を相手に遊んでいいですか? 壊れるかもしれないですけど』

『別に構わないよ。どうせ50年ももたない世界なんだから。今すぐ壊れても誤差だよ誤差』

『了解です。今はノープランですけど、また何かあったら連絡します』

『はいはい。頑張ってね』


 ガチャ……リンリンリン♪


 うん。違う、違うんだ。神様よ。

 そのリンリン鳴るのは、呼び出し音なのだよ。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[一言] リンリンリンリン♪ 異世界通知  世界完全終了のお知らせ
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