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「フィーニスが聞いていた通り、勇者召喚は行われているよ」
「やっぱりそうなんですね。でも、公にはしないんですか?
各国はまだしも、国内に向けてなら、発表するものだと思うんですけど」
「それがどうしてなのかまでは分からないかな。予想ができないわけじゃないけど……」
「予想を聞かせてもらっていいですか?」
国内発表だとしても他国に察知されるだろう。だからまだ勇者が強くないからとか、勇者がこの世界に慣れていないからとかいくつか理由は思いつく。
そう言う事が思いつかないのか、この話題が出た時から話したかったのか、藤原は言いにくそうにしながらもはっきりと話し始めた。
「勇者内で何か大きな問題があったみたいなんだよね。
争って1人を殺したとか。だからたぶん、今は再教育をしていると思うよ。
だいぶ厳しくしたとか何とか」
「なかなか調べていますね。やっぱりどこかの諜報とかなんですか?」
「ちょっと、お城に伝手があってね。訓練も兼ねているから、数か月単位で行うとか言ってたかな。
俺は受けたくないけど、勇者たちの自業自得って感じだね。勇者だからって良い人ばかりとは限らないみたい」
「つまり、しばらくは動かないんですね。それは助かりました。これでのんびり勇者見物に行けます」
思うところがあるのか、いろいろ漏れている。話すだけでも多少は楽になるのかもしれないので、スルーしてあげよう。
さて現在進行形でやっているわけだけれど、勇者見物ってすごい話だ。
本音が漏れつつも、いろいろ誤魔化しがある藤原の言葉だけれど、勇者の状況を最低限は把握できる。
再教育というが、さすがに教育はお勉強という意味ではないだろう。
訓練が厳しくなったということは、厳しくしても問題ない状態が整ったと考えて良い。
脅して押さえつけたか、奴隷に落としたか。どちらにしても、自業自得と呼ばれるようなことが起こっているなら、僕の復讐はちゃんと成っているとみてよさそうだ。
ここで藤原が嘘つく必要もないし。
むしろ、ここで嘘つけるくらいなら、国外に出るための許可はもっとうまく立ち回れたと思う。
良くも悪くも、彼らは日本人なのだ。
だとしたら、僕は何じんになるのだろうか。
一応中身としては日本人だとは思っているのだけれど、日本人だった時と比べると考え方なんかに違いもある。
通山真として続いているのだけれど、肉体的にはこの世界の人っぽい。
まあ、亜神だ。
それはそれとして、数か月訓練というのはぬるくない? ぬるくないかなぁ?
僕がやってたくらいのレベルなら、だいぶ精神的にクルだろうけれど、あれはいじめとセットみたいなものだし。
この辺りは見てから考えよう。
幸い僕には時間があるし、勇者達にはある程度強くなってもらいたい。
んー、流されるままに転生したけれど、僕自身どうしたいのかちゃんと考える時間も必要かな。
数か月は勇者たちもそのままだろうし、のんびり王都に向かおう。あと今の身体能力で、王都までどれくらいかかるかやってみよう。
今の全力がどれくらいなのか、まだ試したことなかったし。
「フィーニス聞いてる?」
「……あ、はい。聞いていませんでした。考え事してました」
「ああ、うん。フラーウス王国はきな臭いから気を付けてねって話をね……」
「御忠告ありがとうございます」
ですが、怪しいと思って接触を図った相手に助言をするなんて甘いことは、今後気を付けたほうが良いですよ。と言おうかと思ったが、止めておくことにした。
若者よ失敗こそが成長の糧となるぞよ(0歳)。
つまり、人に期待をしてはいけないということだ。同じ世界の仲間とか思っても、いじめられるときにはいじめられるぞ。違うか。
「それじゃあ、俺たちはそろそろいくよ。
明日には国境を越えてアクィルス国に行く予定だから」
「準備もしないといけないですからね。
ですがお二人なら、5日くらい手ぶらでもやっていけるんじゃないですか?」
「あはは、さすがに今度はちゃんとしたルートを通っていくよ」
「それが良いですね。それでは行く方向は真逆になるので、また会えるかはわかりませんが、お元気で」
「そちらこそ」
僕もあちらも、拠点を持たない放浪旅。
ここで別れてしまえば、偶然出会うなんてことは難しいだろう。
強いて言えば、2人が精霊が攫われる事件を追うようになれば、また会えるかもしれないけれど。
その時には「あばよー、ふっさーん」とでも言って逃げればいいのだろうか。
うーむ……また理解が得られないような気がする。
いっそ文月に振るか。そう言えば、文月も「ふっさん」なのか。
あ、でも、名字で呼ぶのはダメなのか。そしたら「みっさん」と「ゆっさん」か。
ふむ、もう何がなんだからわからないな。
何て考えている間に、2人の姿はなくなっていた。まあ僕との付き合いなんて、こんなもんだ。
◇
「フィーニスさんも町を出て行ってしまうんですね」
「あっちの2人は、国から出て行ったんじゃなかったですか?」
「町にしてみたら、王都に行かれるのも、他国に行かれるも大して変わりませんから」
「王様に逢ったら伝えておきますね」
「止めてくださいね。まず会えないと思いますが」
「そうですよね。普通は会えないです」
でも、国を出た2人は何かやらかしてくれるんじゃないかと、ひそかに期待している。
藤原のスキルだと目立つのは難しいかもしれないけれど、文月の『器用貧乏』が意外とやらかしてくれる雰囲気を醸し出しているのだ。
1つのことを極められないけれど、複数の技術を組み合わせることで、業界の常識を変えるとかありそうだ。
錬金術と鍛冶とで魔法剣を作るなんて言うのは、夢がある。
この世界に魔法剣が存在しているのかは知らないけれど。
知らないけれど、作れることは知っている。
「寂しくなりますが、冒険者と呼ばれる皆さんは、国々や町々を転々することも珍しくないですから仕方ありませんね。
ただし、この町から移動するなら、注意が必要です」
「注意ですか?」
「各国、王都に近づけば近づくほど安全なのはご存知だと思います」
「そうですね」
精霊を酷使してますからね。
「それから国境付近の町は、どちらかと言うと安全な部類に入ります」
「王都からは遠いですよね。どうしてですか?」
「他国から攻められるかもしれませんから。優先的に物資が送られてくる他、コレギウムだとそれなりの腕の冒険者が常駐して周囲の安全に努めています」
「なるほど、わかりました」
この町の勢力圏から出ると、魔物が増えるのか。
そんな中走ってきた2人組は、実はかなり危ない橋を渡っていたのではないだろうか。
これも隠密のなせる業。あの2人以外が城から逃げようとしても、あまり離れられず終わったのかもしれない。
「ところで護衛依頼を受けてくれたりは……」
「弓で護衛は無理です。それにランク的に厳しいんじゃないですか?」
見た目はE級相当の能力値だ。魔物が強くなるという道中の護衛を受けるというのも、おかしな話なのだ。
なぜか受付さんはしょんぼりするけれど、強いとか思われているのだろうか。
まあ人にどう評価されようと、別に構わないのだけれど。





