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閑話 遅すぎた気づき 中編2

 訓練に行くとクラスメイトの数が減っていた。

 通山君はもちろん、加えて4人ほど見えなくなっている。

 だけれど、それに気が付いたのはクラスの数人だと思う。

 少なくとも市成君は気づいていない。


 いなくなった彼らは、普段から存在感が薄かった。

 今になって思うと、城から出て行ったときに、違和感を感じさせないようにするためにわざと存在感を薄めていたのでは、と邪推したくなるほどだ。

 少なくともいなくなった彼らは、通山君の重要性に気が付いていたのだろう。


 それから、クラスメイト達の半分ほどがその指に指輪をしていた。

 宝石などはついていないけれど、精巧な細工が施されていて安そうには見えない。

 加えて全員デザインが同じ。


 この指輪がそうなのか。ちょっと耳を澄ませてみると、メイドであったり、騎士であったりと役職や立場は違っても、それぞれがフラーウス王国の誰かからもらったらしい。

 身を守るための指輪だろうか、なんて楽天的に考えられたらいいのだけれど、それはないだろう。

 なぜなら市成君がしていないから。王国側からすれば、『勇者』である市成君の力を最も求めているだろうから。彼を真っ先に守るはずだ。


 洗脳するとか、従わせるような指輪であっても、真っ先に市成君につけるべきだとも言える。

 しかし、仮に通山君の契約が残っていた場合に、それらの指輪を渡すのが契約違反になりかねない。上手くいかなければ、彼に警戒される恐れがある。

 だから、他の人で実験したのだろう。結果は見ての通り。


 訓練も昨日1人人が死んだとは思えないほど、和やかに進んだ……と言える権利はないか。

 たぶん気が付いていなければ、わたしも何の憂いもなくルーチンワークのような訓練をほどほどに楽しみながら受けていたと思うから。


 実験は済んだはずなので、明日には指輪が全員にいきわたるだろう。

 そうすると、今日みたいな長閑な雰囲気はなくなるかもしれない。

 訓練後の自由時間も無くなるかもしれない。

 警告するなら、今が最後。でもこの国は決して無能の集まりではない。今日はこれまで以上に騎士やメイド、執事などのお城で働く人を見かける。


 おそらく隙をついて1人に言えるかどうか。

 そして言ったところで、何になるのだろうか。

 言ってもきっと、指輪をつけざるを得なくなる。

 何せ通山君がいなくなったことで、フラーウス王国は力づくという手段が使えるようになったのだから。


 わたし達は上級の騎士に比べると、まだまだ弱い。

 簡単に抑え込まれるだろう。

 組み伏せられて指輪を嵌められたらそれで終わり。でも抵抗せずに指輪を嵌めても、結果は変わらない。

 いっそのこと、これが妄想だったらいいのだけれど。


 指輪が想像通りの物だったとしても、明日以降も今日までと同じような待遇であるかもしれない。


 でもそれは望み薄というものだ。


 通山君は召喚されてから、国王に会うまでにこの可能性に至っていたのだ。

 自由を奪われ、ただ戦わせるだけの道具になる可能性。


 可能性だったものが、今現実になろうとしている。

 だとしたら、わたしは今日の短い時間で何をするべきだろうか。

 いろいろと考えていたら、清良(せいら)のところまでやってきていた。

 どうやらわたしは最後かもしれない自由を一番の友達と過ごしたいらしい。


「ひかりどうしたの?」

「清良とおしゃべりしたいなって思って。

 昨日のことがあったから、なんだか精神的に疲れたのかも」

「昨日……ね。うん。当然の罰だっていう人も多いけど、通山君だけの責任じゃなかったよね。

 私達が追い詰めすぎてたんだと思う。全く知らない場所で、頼れるのは同じクラスの仲間だけだったのに、通山君は誰も頼れなかった。

 自業自得かなとも思うんだけど、誰かを殺してしまうほどに追い詰めていたなんて気が付かなかった」


 清良が悲しげな声を出す。

 確かにそういう見方もできるのか。実際そうだったのかもしれない。

 でもあの事件は、通山君が起こしたものではないと思う。


 王国側はわたし達に手出しができない。だからその根幹となっている通山君を排除するために、王国が何かをしたのだろう。

 噂のせいで通山君のことを軽薄な人だと思っている人は多い。

 でもその噂がそもそも間違いだった場合、わたしの予想が正しく通山君がわたし達を守ってくれていた場合、全ての認識はひっくり返る。


 通山君は慎重に行動する人である。


 だとしたら、彼はメイドを殺さない。好き放題にした後は、スキルで縛って口封じをした方が安全だ。たまりに溜まったものが爆発してしまったのだとして、衝動的なものだったとして、もっとうまく隠すのではないか。

 

「ねえ、清良。どうして通山君が犯人ってことになったんだったかしら?」

「確か殺されたのが通山君を担当していたメイドで、全く抵抗なく殺されていたからだったかな」

「ああ……そうだった。そうだったわ」


 だとしたら、クラスの男子全員が容疑者だったことになる。

 知り合いに不意打ちで殺された場合も抵抗はないかもしれないけれど、犯されたとなると話は変わる。死体を犯す趣味だった……と考えるより、クラスの男子の方が可能性は高い。


「ひかり?」

「清良。明日から地獄が始まるとして、今のうちから心構えをしておきたい?

 それともその時まで、知らずに平和に過ごしていたい?」


 思わず出た問いに、清良が首をかしげて苦笑する。


「なあに? 明日何かあるの?」

「清良は通山君が初めてスキルを使った時の事、覚えているかしら?」

「初めてがいつかなんて言われても、見たことないよ」

「本当に? いえ、この言い方は卑怯ね。使っていたのよ。わたし達の目の前で」


 コロコロと表情が変わっていた清良の顔が固まった。

 もう顔に笑みはない。


「待って!」

「静かに」


 思わずと言わんばかりの勢いで清良が叫ぶので、(たしな)める。


「ひかりの言う事が本当なら、通山君が私達を守っていたの?」

「そう、なるわね。わたしが気が付いた時には、もう遅かったけど。

 通山君はわたし達とフラーウス国で契約した。フラーウス国民はわたし達全員に抵抗できないわ」

「それなら、昨日のことは……」

「冤罪だった可能性もあるわね」


 清良の顔から血の気が引いていく。

 やっぱり言わない方がよかったのかもしれない。だけれど、正直なところわたしだけで抱えているのは辛かった。


「あ、ああ……」


 嗚咽とともに、清良の目から涙がこぼれる。

 周りにたくさん人がいて、見られていることは気が付いていたけれど、わたしは何も言わずに清良を抱きしめた。

「ごめんね」と呟きながら泣く清良は、わたし達にもう選択肢がないことには気が付いたのだろうか。

 わたしにそれは分からないけれど、迷子になった子供のように清良はしばらく泣き続けた。


この作品が総合で100位以内に入っていました。

今は少し落ちているみたいですが、それでもランキングにかかわりをもてなかった身としては嬉しい限りです。

読者の皆様、本当にありがとうございます。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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