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閑話 遅すぎた気づき 中編1

本当に申し訳ない。調子に乗って書いていたら、いつの間にか長くなりすぎたんだ。

話数的には市成視点と同じ数あります。

これを上げて後は、明日の朝と夕方で閑話を終わらせますので、本編はもうしばらくお待ちください。

 全てを呪おうとする通山君の断末魔。

 それを聞くまで、わたしは思いいたることができなかった。

 最初は、そう、「せめてシオン王女に使ったスキルを解除すれば、ここまでにはならなかったのに」と思ったこと。


 通山君自身、解除しなければ殺されると分かっていたはずだ。

 それほどまでに状況は切迫していたし、念も押されていた。

 普通なら解除する。


 フラーウス王国の人は良い人ばかりなのだから、通山君がいじめられていたことを考えて、人を殺したとしても殺されるという事にはならなかったかもしれない。

 そちらにかけるべきだし、わたしならそうする。

 ではなぜ要求をのまなかったのか。


 要求をのむことで、今よりも状況が悪くなるから。

 でも死を目前にして、それよりも悪くなる状況とは何だろうか。


 クラスメイトがクラスメイトを殺すという、現実離れした光景を目の前にしているからか、妙に冷静に考えられてしまう。


 そもそも通山君がした契約とは何か。こちらの世界に来て、かなり早い段階で契約をしたらしい。

 契約……契約。そう言えば通山君がいじめられる原因になった時……。


――あの契約は、誰が結んだ?

――あの契約は、誰と結んだ?

――あの契約には、王女も含まれるのではないか?

――だとしたら、この状況で最も得をしているのは……。


 気が付いてしまったとき、わたしは叫び声を上げそうになった。


 遅かった。すでに通山君の声は聞こえない。通山君の目は開かれていない。

 もう通山君は死んでしまった。()()()()()()()()くれていた彼は、死んでしまった。

 そう、わたしは守るべきものを間違えた。





 通山君の持つスキルは『契約』。処刑の前の話から推測すると、契約を結びその契約に強制力を持たせるものだろう。

 それはきっと口約束でも大丈夫で、一対一でなくても効果を発揮する。

 目が覚めて、国王の前に連れていかれるまでの間に、通山君は自分のスキルを知ることができた。


 だから通山君は最悪の状況にならない方法を取った。


 自分たちではどうすることもできないものを倒させるために、わたし達は()()されてきたのだ。

 召喚直後に言われたが、わたし達は伝説と言われるくらいに強くなる可能性があるらしい。

 つまりこの国での最高戦力候補。だけれど、わたし達はこの国の人間ではない。


 自分たちのために戦ってもらうためには、懐柔するか、恩を売るか。

 この世界には魔法がある。だとしたら、強制的に従わせるようなものがあってもおかしくはない。

 裏切らないという、絶対的な保障が欲しいに違いない。そう思わない保証はない。


 だから通山君はスキルを確認される前に、契約を結んだ。


 この国にいる間の絶対の安心を手に入れた。

 それなのに、わたし達は自らの手でその安全を切り捨てた。


 誰か一人が彼の味方になっていたら、誰か一人が彼の話を聞いていたら、誰か一人が最後の時に声を上げていたら。

 その一人になれなかったわたしが、文句を言う事はしないけれど。

 いなかったから、わたし達の生活は崩壊していくだろう。


 では、わたしはこれからどうしたら良いのだろうか。





 結局一晩考えても答えは出なかった。

 いや、結論自体は出たのだけれど、もう遅すぎたってことがわかったくらい。

 わたしにできることは思い浮かばない。


 逃げるにしても、今のわたし達では城の騎士には勝てないので、どさくさに紛れて逃げるしかない。

 だけれど、そんなに何度も事件が起こるはずがない。

 逃げるために最良だったのは、昨日。市成君が通山君を殺すまでの間。近くにシオン王女が居たこともあって、多くの騎士が注目していたはずだ。


 でももう無理。なぜなら、通山君のことがあった後、監視の目が厳しくなっているから。


 正面から戦うのは愚の骨頂だし、不意を打とうにも地の利はフラーウス側にある。

 王族は戦いが苦手だと信じて、全員殺せば何か変わるかもしれないけれど、騎士は黙っていないだろうし、その後指名手配されるかもしれない。


 だからできることをしいて言うなら、フラーウス王国がわたし達との友好を目指しているのだと、祈ることくらい。通山君の事にはお互い目をつぶって、悲しい事件だったことにして、お互い手を取り合いましょう、と。

 もしくは、王国側の機嫌を損ねないようにすることだろうか。


 フラーウス側は今の弱いうちにわたし達を従わせる何かを使うとして、最終的には強くなったわたし達の力が欲しいわけだ。

 だからよほどのことがない限り、殺されることはないはず。

 役に立っていれば、機嫌を取り続けていたら、もしかしたら良い生活を送れるかもしれない。


 だけれど、役に立つとはすなわち戦うということ。

 魔物と戦うのかもしれないし、人と戦うこともあるかもしれない。

 魔王を倒したら帰れると思っていたけれど、思い返せば帰れると明言されていなかった。

 冷静に考えてみると、果たして魔王を倒したからといって、王国はわたし達を帰す気はあるのだろうか。


 なんてことをぐるぐる考えていたけれど、結論としては王国に従うほかない。


 戦いなんてしたくはない。少し前までただの高校生だったのだから。

 動物を殺したことすらない。

 ましてや人なんて、殺せる気がしない。


 うじうじ考えている間に、訓練の時間になった。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
うじうじしてない 独白の赤木リツコ並に冷静沈着
[一言] 神様が主人公手に入れるためにデバフかけてたのかってぐらい 不自然なほど主人公死んだ瞬間賢くなるじゃん
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