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 藤原たちが見つけてきたグリュプスの数は1体。

 コレギウムの一団は牛歩のように、ゆっくりと進んだ。

 何せこれだけの団体だ。普通に歩いただけでも、結構な音がする。


 それにグリュプスは昨日の襲撃で警戒しているだろう。


 結構時間はかかったけれど、ようやくグリュプスの巣の近くまでやってきた。

 冒険者たちは木の陰に隠れて、魔法使いは魔法を使う準備をしている。


 これで魔法の使い方とか勉強できればいいのだけれど。

 水魔法で魚とか作るのとか、小説なんかではたまに見かける。あとは土魔法で精巧な人形とか? 今度やってみても良いかもしれない。


 B級とコレギウム長はグリュプスの数を再度確認してから、こちらに合図を出した。

 出た合図は、1体・作戦通り。というもの。


 その後間を置かずに、B級パーティがグリュプスの前に躍り出る。

 僕は木の上から様子をうかがっているのでよく見えるけれど、したの人たちはかなり緊張しそうだ。


 ジェットコースターで最初の上り坂を上っているような。

 いつ来るだろう……みたいな、そんな恐怖。僕はあまり絶叫マシンは得意ではなかったけれど、でも今ならジェットコースターよりも速く走れそうだ。


 音と臭いで判断したのか、盲目のグリュプスは鳴き声を上げた後で、パーティに向かって突っ込んできた。

 流石はB級と言うべきか、突進を難なく避ける。

 代わりにこちらに近づいてくるのだけれど、コレギウム長が結構引きつける。

 遠距離の総攻撃がぎりぎりで避けられないラインまで、突っ込ませたいのだろう。


 だけれど、緊張感に耐えられなかったのか、遠距離組の一人が先走って魔法を放った。

 そこからのコレギウム長の判断は早く、苦々しい顔で「撃て」と合図を出した。


 一斉に放たれる攻撃。

 色とりどりの魔法に、雨のように降り注ぐ矢。

 少数ながらナイフや槍も見える。


 僕はと言えば、万が一のことを考えて翼を狙って普通に射った。

 倒しきれなかったときに、機動力を奪っておきたかったから。


 無数の攻撃にさらされたグリュプスの周りは、砂煙が舞い上がり、周囲から「やったか?」という声が聞こえてくる。


 これは感動的。なんとも感動的だ。

 これがフラグというやつだな。これでグリュプスは倒れていなくて、ピンチに陥るってやつだ。

 じゃあ、ここらで文月とか藤原あたりが覚醒でもするのかな? しなかったら死ぬかもしれないけれど。


 死んだらその時と言う事で、2人の様子でも見ておくことにする。


 周囲が固唾をのんで見守っている中、2人が動き出すのは早かった。

 気配を殺して、グリュプスの方に近づく。

 投げてはじき返されたであろう槍を拾うと、グリュプスの背後に回った。


 そこで激高したようにグリュプスが吼えた。

 あまりの声量に空気がビリビリと震える。


 多くの人は第二射を用意していなくて、B級冒険者はいつの間にか来ていた、2体目と対峙していた。

 はっきり言って、絶体絶命だろう。

 普通に考えたらコレギウム長が抑えている間にもう1回となるが、全力の一撃を耐えられた冒険者側は士気が下がっている。


 何にしてもコレギウム長が前に出なければ始まらず、分かっている彼が踏み込もうとしたとき、グリュプスが今度は苦しそうに鳴いた。

 

 まあ、中立組の2人がその背に乗り、槍を突き刺していただけだけれど。


 2人が1本の槍を突き立てる様は、なんともヒーローとヒロイン感がある。

 現実の問題として、グリュプスの硬い皮膚を貫くために、2人分の体重が必要そうだっただけだろう。


 残念ながらこれもとどめとはならなかったけれど、大きな隙ができたし、ダメージも与えた。

 ここまで弱らせてしまえば、後はコレギウム長が自分の得物を使って終わらせる。


 コレギウム長の攻撃で目の前のグリュプスがぐらりと傾き倒れるのと、B級冒険者がもう1体のグリュプスを倒すのがほぼ同時。

 コレギウム長がグリュプスの死を確認したあと、作戦の終了を告げ、一団が歓声を上げた。





 グリュプスの討伐は終わったけれど、コレギウム・ヴェナトに戻るまでが依頼。


 普通は消耗しているし、獲物は持って帰らないといけない。

 特に今回は獲物が大きかったので、その場で解体をして一人一人が持ち帰ることになる。

 爪とか羽とか嘴とか、武器や錬金術の素材になるらしい。


 そう言えば錬金術使えたな。スキルで持っているので、何となくやり方もわかるけれど、本格的にやろうと思うと結構機材が必要になる。

 生産系で非常に高品質のものを作って、ギルドに目をつけられて、貴族にも目をつけられて、挙句の果てには王族に目を付けられる、なんてのも物語では珍しくない。


 だけれど、この世界だとコレギウムだし、貴族も王族も信じられない。


 それに僕自身は、回復薬(ポーション)を作っても、高性能の武器を作っても、基本的に使わなさそうだ。

 見た目よりも容量が大きくて、重さも感じなくなる系の便利バッグ的なものがあれば作ってもよさそうだけれど、持っているだけで面倒ごとに足をツッコみそうな気もする。


 やめよう、やめよう。僕は基本的には傍観者でいるつもりなのだから。


 僕のことは置いておいて、今回の依頼のMVPは中立組で間違いないだろう。

 B級冒険者もそうだけれど、ランク以上の働きをしたという意味だと、藤原たちに軍配が上がる。


 目立つだろうけれど、悪いようにはならなさそうだ。

 それに2人は今回の功績を盾に、国境の通行許可をもらえるように交渉するだろうし。


 コレギウムに戻ったら、グリュプスの素材たちを倉庫に持っていく。

 報酬はこの素材の金額に応じてとなるので、明日になるまでお預け。

 集まっている意味もなく、各々打ち上げに向かった。藤原たちも気のいい冒険者につかまり、連れていかれた。


 帰るときには僕も姿を見せてはいたけれど、誰からも声がかからなかったので、宿に戻って寝ることにした。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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