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「そのグリュプスって言うのを2体、どうにかしないといけないわけですね」
「討伐されるまで、南の森には入らない方がいいと言う、助言にはなりますね」
「助言ですか。この前みたいですね」
僕がにっこり笑うと、受付さんが「あはは……」と目をそらす。
今日も今日とて、コレギウムは騒がしい。
B級上位といわれるグリュプスが見つかったのだから、殺戮熊の時とは衝撃が違うのだ。
しかも2体。
ある程度安全を考えるのであれば、B級の冒険者パーティが2組は欲しいところ。
付け加える情報としては、グリュプスが子育て時期であるという事。
それから1体は目を奪われているという事。
子育て時期なので、気性が荒いグリュプスがさらに暴れやすくなっている。
1体は目を奪われているため、少しだけ難易度が下がっている。
「結局、例の2人に頼んだんですよね?
それならまた、その2人に頼めばいいと思うんですけど。僕は場所も知らないですし、使うのはただの弓矢ですよ?」
「もちろんそちらにも話は通しているんですけど、残念ながら現在コレギウムにはB級冒険者が1組いるだけなので、C級以下の方にもお願いしているんですよ」
「そこでF級に頼むのはどうかと思いますけど」
能力的にはE級判定だろうけれど、D級やC級に頼むべきだと思う。
「そうですよね……」
「いますよね? D級やC級の人なら」
動けないほどではないけれど、かなりの数の人がコレギウムに集まっているのだ、いないということはあるまい。
だけれど、受付さんの表情は明るくない。
「遠距離から攻撃できる人となると、少ないんですよ。
今回はコレギウムが主導して、グリュプスを討伐することになっています。
まず遠距離からの総攻撃で気づかれる前に1体倒してしまいます。
それから、B級パーティにもう1体を倒してもらう作戦です」
「攻撃前に気が付かれたらどうするんですか?」
「コレギウムドゥチェスとB級パーティで、1体を足止めしておいてもらいます」
いかにB級に余力を持たせて1体倒すかという話になるのか。
グリュプスの強さがいまいちピンとこないのだけれど、C級以下が束になって遠距離攻撃をしたところで、倒せるものなのだろうか。
弓矢が通ったのは、翼付近だったからだと思うのだけれど。
まあ、遠距離勢に紛れてというのであれば、目立たないだろうしE級ステータスのフィーニスとして参加するのはやぶさかではない。
「報酬と失敗時の対応はどうなっているんですか?」
「まず特別依頼にあたるので、保証金は必要ありません。またD級以下の冒険者の方は失敗時のペナルティもありません。
報酬はグリュプスを倒した時に想定される金額+素材の買取価格を、ステータスを参考に配分させていただきます。はっきりとしたことは言えませんが、フィーニスさんの場合にはE級依頼の中でも高額程度になるでしょう」
「誰が倒したとかは考慮しないんですね」
「そうなると、抜け駆けをする人が出てきますから」
これも納得は出来る。ただ当てるだけと考えると、その功績はステータスとほぼ比例するだろう。
弓に関しては、弓の性能が大きくかかわってくるけれど、ステータスによって使える弓の性能も変わってくるわけで。
僕が使っているのが果たしてどれくらいの威力の弓なのかといわれると、正直分からない。
まあ、グリュプスに対して無力ではないことは、証明済みだけれど。
「グリュプスを倒せるだけの人数は集まったんですか?」
「今のところぎりぎり倒せるだろうというのが、コレギウムの判断です。
少しでも不安要素をなくすために、フィーニスさんにお声かけさせてもらったと思ってもらって大丈夫です」
「んー……僕は無理して死にたいわけではないんですよ」
「はい、それはもちろんです」
「このまま受けたとして、仮にグリュプスを倒しきれなかった場合、僕ってかなり危ないですよね?」
「そう……ですね」
B級が相手にできるのは1体だけだという話だし、遠距離組が狙われることがあれば、E級程度のステータスしかない僕が真っ先に狙われるだろう。
というのは、建前だけれど。
「ですから条件を飲んでもらえるのであれば、参加します」
「本当ですか!?」
「条件はですね――」
こうして、僕はグリュプス討伐の依頼を受けることにした。
◇
次の日。早く行動したほうが良いということで、さっそくグリュプスの討伐が始まった。
B級の何とかって言うパーティとコレギウム長。
それから、弓や杖を持った人が20人以上といったところだろうか。
冒険者パーティとしては多すぎるくらいだ。
中には中立組の2人もいて、こちらに気が付くと文月が軽く会釈する。
これからグリュプスを倒しに行くということで、空気が緊張しているので話しかけるというのは難しい。会釈で返して、目立たないように端っこに行く。
それからコレギウム長が挨拶と昨日受付で聞いたことを再度説明してから、森の中に入る。
ここからは僕は基本的に好きに動いていい。
僕が依頼を受けるにあたって出した条件は、全力で気配を消してついて行くこと。
倒せなかった場合に逃げられるようにという建前で、いろいろ観察しようと思ったのだ。
だから、作戦中に姿が見えなくても、何も言われない。
森で狩りをして生きてきたという設定が生きた形となる。
わたしはフィーニス14歳。という自己紹介に、意味はあったのだ。
意味はあったのだ!
そういうわけで、周りを観察してみたけれど、遠距離組は結構女の人が多い。
とは言っても半分くらいか。
弓使いと魔法使いが主だろうか。銃を使う人はいないらしい。あるのかという問題もあるけれど。
中立組は場所を知っているため、一団の一番前で先導している。
B級の冒険者とも普通に話して、なんと藤原のコミュ力の高い事か。
それに比べて、たまに話を振られてあわあわと慌てている文月は、見ていて落ち着く。
殺戮熊が死んでいた場所につくまで、大人数だったのでそこそこ時間はかかった。
だけれど出てきた魔物は一瞬で倒したので、消耗としてはそんなでもないだろう。
ここで藤原と文月が、様子を見るためなのか先に2人で奥に行ってしまった。
その間、こちら側はコレギウム長の話を聞きながら、休憩らしい。
グリュプスが1体なのか、2体なのかで動きが変わってくる事。これ以降は慎重に森を進むことを念押しされる。
1体だったら、B級が引きつけて近づいてきたところを総攻撃。
2体だったら、B級が片方(目を怪我していない方)を抑えて、コレギウム長が引きつける。
攻撃のタイミングはコレギウム長が指示を出す。
全員が一息ついたところで、藤原たちが戻ってきた。





