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 グリュプスの両目を塞いだ藤原(ふじわら)は、一目散に逃げだした。

 それこそ脱兎のごとく、木から木へとぴょんぴょん跳ねる。

 鳴き声を上げているグリュプスは、追いかけていく様子もないので藤原の行動は正解だといえるだろう。

 空から来るもう1体がいなければ。


 やっぱりもう1体いたね。

 夫婦だったね。


 やってきたグリュプスは、今までいたものよりもさらに一回り大きい。

 ステータスも少し高く、敏捷が95ある。


 藤原のほうが高いとはいえ、森を走るよりも空を飛んだ方が速そうだ。

 2人を追いかけて、町の方に行くのも拙い。なんやかやで、2人が殺されるかもしれない。


 彼らが此処にいる理由の半分は僕にあるのだから、自分で蒔いた種くらいはどうにかしよう。

 理想は2人が逃げるまで、グリュプスがここから動けなくなることだろうか。

 倒すまではしてあげない。それはあの町の適正レベルの冒険者がすればいい。


 僕がいたという証拠を残さず、2体目のグリュプスをどうにかするには……また『創造』の力を使おう。

 このスキル便利すぎて頼りすぎてしまう。なんかもう『創造』と『隠密』と『万能』だけで良いと思う。


 背負いたる弓に(つが)えますは、氷の矢。

 引いて狙うは、その(つばさ)

 根元に(あた)り、釣瓶(つるべ)がごとく落ちてくる。


 さすがに真っ逆さまではなくて、バランス崩してよろよろ降りてきたので、釣瓶落としとは言えないか。

 ところで、グリュプスの翼って見た目通り(わし)のものなのだけれど、あれで飛べるのだろうか。

 やっぱり魔法使っているのだろうか。魔力もあるわけだし。


 氷の矢を使ったのは、言わずもがな証拠隠滅のため。

 グリュプスをコレギウムがどう扱うかは知らないけれど、退治するとなった時には氷は溶けているだろう。


 落ちたグリュプスは怒ったように地面を蹴るけれど、標的が見当たらないせいか、当たり散らすように木を倒し始めた。

 突進だけでバキバキと音を立てて、木が倒れる。



 しばらく眺めてみたけれど、巣から離れようとしないので、逃げた2人を追いかけることにした。





 速く走ろうと思ったら地面がえぐれた。

 それから木を何本か倒した。

 全力からは程遠いのだけれど、自分がグリュプスよりも危ないことを認識できた。


 まあ、神だもの。でも力の使い方は本当に練習しなければ。


 地面をえぐったり、木を倒したりしたせいで、結構大きな音がしたけれどグリュプスが追いかけてくることもなく、2人がコレギウムにつく前に追いつくことができた。

 2人がどんな報告をするのか、少し気になったから。


 夕方になり、人が増えたコレギウムに2人が入った直後、それに気が付いた受付に2人が連れていかれてしまった。

 これはドゥチェスのところに直通する流れだろうか。コレギウムとしても放置できない問題だろうし、場合によっては一般冒険者には聞かせられない話もあるかもしれない、という判断だと思う。


 ううむ……『隠密』がどこまで仕事をしてくれるか。

 仮にも神なので、ちょっとやそっとでは気が付かれないかもしれないけれど。

 バレたとてどうにかなるわけでもなし、付いて行こう。そして堂々と盗み聞きしよう。


 連れていかれた――付いて行った先にあったのは、予想通りドゥチェスの部屋。

 校長室みたいなノリで言えば、ドゥチェス室になる。


 ドゥチェス室には仕事用の机ともてなす用のソファが置かれているけれど、今回は冒険者が相手だからか2人は立ちっぱなし。

 一緒に入った僕には気が付いていないらしいので、部屋の隅で体操座りすることになった。


 この「地べたに両膝を立てて、それを両手で抱える」座り方だけれど、なんか学校によって呼び方が違うらしい。

 僕のところは体操座りだったけれど、体育座りと言ったり、三角座りと言ったり。

「せーの」で親指上げるゲームやじゃんけんの掛け声みたいなものか。


 閑話休題。


 ドゥチェスは眼鏡をかけたおじさん。お兄さん?

 こう……おやじって感じはしないけれど、40歳は越えているだろうなぁ……みたいな。

 見た目は理性的で、食堂のおっちゃんとはまた違うタイプ。


「さっそくで悪いが、今は情報が欲しい。調査結果を報告してくれ」

「はい。殺戮熊が殺されていた場所から、さらに奥に行ったところにある開けた場所で巨大な魔物と出くわしました」

「その魔物の特徴は?」

「えっと……」


 藤原が言いよどむ。

 まあ、僕たちの感性で言えば「(わし)の頭と翼、獅子(しし)の身体を持つ魔物です」で良いかもしれないけれど、


 この世界に鷲も獅子もいるとは限らないからね。

 頭に関しては鳥の頭でも通じそうだけれど、獅子――ライオンは見たことがない。

 いたら下手な魔物よりも強そうだ。


「グリュプス……という魔物をご存知ですか?」

「グリュプスだって! 間違いないのか!?」

「は、はい。初めて見ましたが、特徴は一致していたと思います」


 ちょっと藤原が危ない発言をしたけれど、グリュプスという単語にドゥチェスが反応したので、セーフだろう。

 B級ってそこまで驚くほどだろうか。いやS級冒険者が伝説と言われている世界か。

 だとしたら、一般に人が対応できる魔物の最大ランクがA。Bと言えばその1つ前になるから、驚くほどなのかもしれない。


 こっそりドゥチェスを『鑑定』してみたところ、大体グリュプスと同じくらいの強さだと思う。

 空を飛べるグリュプスのほうが有利な気がするけれど。


「グリュプスがいたとなると……君たちは大丈夫だったんだな?」

「見つかる前に逃げに入っていましたから。途中で気づかれましたが、両目にナイフを突き刺してきたので、なんとか……」

「あぁ、よくやった。だが、グリュプスか……。

 他に何か気になることはなかったか?」


 藤原は何かなかったかと、頭を捻るけれど、巣は見つけていなかったらしい。

 代わりに文月が声を上げた。


「え、えっと。巣みたいなのがありました。たぶん、中に卵も」

「……もう1体グリュプスを見なかったか?」

「いえ、見てないです」

「そうか……だが、(つがい)ではない保証もないな。

 1体は目をやられた状態だとして……」


 ドゥチェスがぶつぶつ呟いていたけれど、今日はここまでで2人は帰された。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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