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 Q.森の浅いところで殺戮熊が出た場合、森で何が起こっている?

 A.餌となる魔物が少なくなった、殺戮熊の個体数が多くなった、森の中の魔物全体が多くなった。


 考えられることはいろいろある。

 どれになるかで対応は変わるのだけれど、そのために調査がある。

 本来森の奥にいる魔物が浅いところで見つかった場合、考えられるのはより強い魔物がやってきた場合。

 で、中立組の2人の目の前には、獅子(しし)の胴体を持ち、(わし)の頭を持つ獣がのっしのっしと歩いていた。





 森に入ってからの2人はなかなか様になった動きをしていたと思う。

 均された地面に慣れている日本人。お城の訓練場も整備がなされていて、地面がボコボコということはなかった。

 趣味で山歩きとかでもしていないと、山道をすいすい歩くことは難しいだろう。


 実際、僕は日本の学校行事で山登りをさせられた時、両手を使わないと登りきることはできなかった。

 その時思った。なぜ人間は4足歩行を辞めてしまったのかと。

 山を歩くときとか、階段を上るときとか、結構便利なのに。


 亜神になった今、森程度なんともないけれど、前を行く2人もスムーズに森を進んでいる。

 王都から走ってきたという5日間で、慣れたのだろうか。

 勇者の対応力ならいけるのかもしれない。


 調査依頼の厄介なところは、何をやったら終わりなのかわからないこと。

 何かの足跡を見つければいいのか、何かの魔物を見つければいいのか、はたまた何も見つからないのがいいのか。

 不審なところはないかといっても、2人はあまり森に入っていなかったようだし、普段を知らなければ違和感は感じられないと思う。


 紹介したのは僕だけれど。


 あまり時間がかからなければいいなぁ……いっそ、『千里眼』的な能力があれば、殺戮熊が出てきた原因がわかりそうなものだけれど、いかんせんそんなスキルは持っていない。


 テイムでその辺の動物でも捕まえて、探させるとか?


『亜神感覚』に『世界眼』とか無いものかね? でも『世界眼』って言うと、この世界の外から覗く感じになるのか。だとしたら、この世界規模でしかない僕には無理だ。


『探知』とか『索敵』もないので『万能』を生かして、索敵の練習でもやってみようか。


 むむむっと、周囲に意識を向けてみる。


 木の裏から、枝の上から、草の間から、小さい音がしている。

 そこに虫や動物がいるのだろう。

 前を行く2人のうち、文月(ふみつき)の足音なら聞こえるけれど、藤原(ふじわら)の足音は聞こえない。

 さすがに本職のほうが上と言う事か。同じく『隠密』をもち、さらに『万能』を持っている僕の方が隠密行動に向いているけど。


 とりあえず殺戮熊を倒したところまでやってきた。

 もう死体はないけれど、目印として一本杭が打ち付けられている。


「ここが見つかったって場所だね」

「うん。思ったよりも近かったね」


 2人が一旦足を止めたので、僕も足を止める。


「変わったこと……って言っても、森についてよく知っているわけじゃないんだよね」

「ここからもう少し奥まで見に行って、どれくらい魔物がいるのか、強そうな魔物はいないかを探すんだよね?」

「殺戮熊って言うのが、どれくらい強いかはわからないけれど、倒すのにC級はいるって話だし、それよりも強いのがいるかもしれないから。

 強そうな魔物を見つけたら、すぐに逃げよう。判断は任せる」

「う、うん。分かったよ」


『鑑定』持ちの文月に判断を任せるのは悪くない。

 ステータスを見て、ヤバそうなら逃げられるし、何なら見知らぬ魔物の名前もわかるのでより正確な情報を持って帰ることができる。

 問題は珍しい魔物の名前や、魔物のステータスを教えてしまうと、『鑑定』持ちだとバレること。

 何だったら、ステータスの隠蔽ができることもバレる。


 そんなことを考えていた、さらに30分後。

 さらに森の奥に入ってきた2人の上から、バッサバッサと音が聞こえてきた。

 大きい音だったので2人にも聞こえたらしく、木の陰に隠れて上空を見上げる。


 空から森の開けた場所に降りてきたのは、獅子の胴と鷲の頭を持つ存在。

 以前の知識から引っ張り出してくれば、名前はヒッポグリフやグリフォンだろうか。

 そう思って鑑定してみたけれど、名前は「グリュプス」だった。


 ザッと見たステータスから判断するに、B級の魔物のようだ。B級でも上位の方っぽい。

 現在の2人だと正面からだと勝てないだろう。

 体力と筋力、耐久が高く、魔力もそこそこある。その代わり敏捷や抵抗は低め。

 藤原なら難なく逃げられそうだけれど、文月は見つかると追いつかれそうだ。


 地面に降り立ったグリュプスは、2人――ついでに僕も――には気が付かずに、のっしのっしと離れていく。

 グリュプスに注意を惹かれていて気が付かなかったけれど、そこらに魔物の死体が散乱していて、奥を見ると巣のようなものがある。


 と言う事は、2体いたりするのかな? それともグリュプスは単独で子育てを?

 そういうことは、コレギウムで聞けばいいか。

 うん。これで帰っても、依頼は達成だと思う。


 何かあった時のために、木の上に登って弓を構える。

 その状態で2人を観察していたら、藤原の方はなんだか見とれているようだったけれど、文月は慌てている様子だった。

 藤原の方が少し前に行っているので、文月の様子には気が付いていない。


 あ、文月の方を見た。

 文月が必死で×印を作っている。

 藤原が一旦グリュプスを見て、文月の方を見て、もう一度グリュプスを見る。


 ふむ、藤原には横断歩道が見えるらしい。この世界に車はないっぽいので、そこまで用心しなくていいと思うのだけれど。馬車が怖いのかな?


 なんて、あるわけもないことを考えていたら、2人が同時に逃げ出した。


 向こうは気が付いていないっぽいから、そんなに急がなくていいと思うのだけれど。

 焦ると文月がやらかしそうだから。

 とか考えていたら、やらかした。


 ポキッと枝を踏みつけて、グリュプスが文月に気が付いた。


「ユメちゃん、アイツの敏捷は?」

「90!」

「わかった、先に戻ってて」


 バレたので声を潜める必要がなくなったのか、逃げながら言葉を交わす。

 藤原の敏捷は116(また上がってる)。対して文月は70。

 グリュプスが90なので、藤原が足止めをしている間に文月がある程度逃げられれば、中立組の勝ち。藤原が倒されれば中立組の負け。


 そう言えば、2人は武器らしい武器を持っていない。

 どうやって戦う気だろうかと思ったら、藤原はナイフを持っていた。

 未だグリュプスは文月の方を見ていたおかげもあってか、『隠密』を使って気配を殺してから藤原が木の上に登る。


 僕が上った木の隣。弓を構えるのをやめて、こんにちはと手を振ってみたけれど、反応はなし。


 グリュプスに集中しているからか、それともグリュプス関係なく気が付かないのか。

 藤原がナイフを2本投げた。


 ビュッ……と短い風切り音がしたと思ったら、グリュプスの両の目に刺さる。


 たまらずグリュプスの動きが止まり、大きく仰け反ったけれど、ギャオオオォォと大きな鳴き声も上げた。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
だらだらした話だなぁ
[一言] 両目からナイフを生やしているデザインとかこの子中々センスいいね
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