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 学校の休み時間。クラスメイト達は好き勝手に騒いでいる中、自分の席で次の授業の準備を終えて読みかけの本を読む。

 よくクラスメイトには真面目だと言われるけれど、読んでいるのは異世界転移もの。

 アニメやゲームも好きだし、できれば一日中遊んで暮らしたい。身長は高めだけれど、スポーツは得意というわけでもなく、太ってはいないけれど、特別顔が整っているわけでもない。普通の高校生だ。

 なんて心の中で開き直りつつ、空白の目立つ文字列に目を落とした。


 その時。


 床が淡い青色に光り出した。


 クラスメイト達が騒ぎ始める。


 この状況は……!


 なんて余計なことを考えている間に、目の前が真っ白に染まった。





 目が覚めると見たことがない場所に制服のまま眠っていた。

 倒れたまま薄目を開けて辺りを見渡すと、クラスメイト達と一緒に雑魚寝をしていたことがわかる。

 男女が入り乱れていて、なんだか不健全な感じだ。


 いったい何が……というところで思いだした。

 異世界転移という拉致にあったのだ。


 まだ起きていない人もいるし、たぶん僕達を召喚した人がいるだろうから、今の体勢のままで考える。

 異世界転移と決まったわけではないけれど、集団人攫いだとしてどうやったのかの見当が付かない。

 よりもよって、自分がクラス転移に巻き込まれるとは思わなかった。


 体を起こすのはクラスメイトの大半が起きた頃にするとして、今の僕に何ができる?

 異世界転移もののパターンはいくつもあるし、場合によっては高待遇で迎えられるはず。


 でもそうじゃなかったら?


 冷静でいるつもりだけれど、思考を巡らせ続けていないとパニックになりそうだ。


 まずは自分にできることは何か。召喚条件は分からないけれど、ただの高校生を25人ばかり連れてきたところで、大して使い道はないはず。

 強制労働とか、愛玩用とか、なくはないだろうけれど、わざわざ召喚する意味はない。

 だとしたら、召喚した時に僕たちに何か特別な力が付随した可能性。

 寝相が悪いと見せかけて、体を丸める。


 ステータス。ステータスオープン。


 滑稽だなと心の中で開き直りながら、念じて見ると半透明なウインドウが目の前に現れた。

 位置調整をしているので、誰にも見られていないはずだ。


ツヤマ マコト

年齢:16 性別:男

体力:10

魔力:30(300)

筋力:10

耐久:15

知力:53

抵抗:17

敏捷:15


称号 :異世界からの旅人

スキル:翻訳 契約


 これはどうなのだろうか。

 年齢性別は良いとして、7項目ある能力については比較対象がないから、高いか低いかわからない。

 特に魔力。30(300)とは何だろう。


 それから称号によるとここは異世界で間違いないらしい。

 ステータスが表示された時点で、別世界だとはわかっていたけれど。


 最後にスキル。物語だとチートスキルを持っていて、異世界人はそれを求めて召喚をするのが鉄板。

 意識してみるとどういったものなのかが、理解できる。


「翻訳」はあらゆる言葉を翻訳してくれるもので、異世界転移における言葉の壁を無にしてくれる素敵スキル。現代社会で持っていれば、かなり有利に就職できるだろう。

 ただこれは僕にだけ特別というよりも、異世界に移動するにあたって誰にでも与えられるものだと考えられる。

 違ったらこの世界での交渉事は、すべて僕に回ってくるだろう。


 もう1つの「契約」は契約・約束に強制力を持たせるもので、無理やりにでも反故にした場合は最悪相手を死に至らしめる。天罰。

 約束は口約束でも可能。発動条件も客観的に約束を行ったと分かればそれでいい。

 つまり「○○破ったら100万円な」「わかったよ」というやり取りでも、成立する。「約束したつもりはなかったんだ」が認められない。

 また1対1の契約だけではなくて、1対多・多対多でも行える。ただし契約できるのは、そのグループのリーダーや権利を委任された人のみ。


 つまりその辺の人を捕まえて、国として契約してくれと頼んでも効果は発揮しない。


 また契約をする場合、片方は僕になるので多対多の契約で、僕がリーダーと認められていなかったら僕対多の契約になる。


 使い方次第では、なかなかにチートな能力だと思う。

 ただ効力が強すぎるのか何なのか、魔力の大多数がこのスキルに占有されている。

 30(300)というのは、本来魔力が300あるけれどスキルのせいで30まで下がっていることを表しているらしい。


 ……これって、かなり厄介なポジションを押し付けられたのでは?


 まずは能力。本来の魔力が300。次に高いのが知力の53。

 これらが特に高いのでなければ、10とか低すぎるのでは?

 物語なら迷宮の最下層に落とされるに違いない。


 ひっそりと過ごしたい、と思うのにスキルの契約がそれを許してくれそうにない。

 右も左もわからない世界で後ろ盾もない中で、安心して過ごすには、これで契約してしまうのが早いから。

 はっきり言って、スキルを使うタイミングを逸してしまうと全員奴隷コースすらありうる。


 万全を期すなら、使うタイミングは1回だけ。

 相手が国のトップであるのは確定として、ステータスを確認される前に約束をしないと有能な相手なら感づかれるかもしれない。


 こちとら所詮一般高校生だ。腹の読みあいで勝てるわけがないし、だとしたら腹を探られる前に勝負を決めないといけない。


 じっと考えていたけれど、気が付けば周りは騒めきほとんどのクラスメイトが目を覚ましていた。

 出来れば起こしてほしかったけれど、こういう時に起こしてくれるような友達もいないし、そもそもそれぞれが混乱していて他人に気を使えるほど余裕がないのだろう。

 いかにも今起きましたと言わんばかりに背伸びをして、周りを見渡す。


「あれ? ここは?」


 混乱しているふりをして、現状を確認。

 大理石のような床に触り心地の良いカーペットが敷いていあり、壁や柱に華美な装飾が施されている。イメージとしては城の一室。ゲームとかでは見た事があるけれど、実際に見るのは初めてだ。

 僕たちは部屋の中央に集められていて、その周りを10人程度の騎士? 鎧を着た人が囲っている。

 他に見慣れない存在としては、身長ほどの杖を持ち、ローブで顔を隠している魔法使いのような人が同じく10人ほど。


 魔法使い達は肩で息をしていて、今にも倒れてしまいそうだ。

 彼らが僕たちを召喚して、その反動で疲労している――魔力が尽きかけている?――のだろう。





 辺りを観察している間に、クラスメイトが全員起きたらしく、それから少ししたところで部屋に1つだけある扉が開かれた。

 入ってきたのは金髪の美しい女性と騎士っぽい人が5人ほど。騎士の鎧は、囲んでいる10人と同じに見える。

 女性は黒と白の豪華なドレスを着ていて、凛とした佇まいと少し気の強そうな目がよく似合っている。プロポーションもよく、おそらく僕たちと変わらないくらいか、少し上の年齢だろう。

 日本に居ては、直接見ることがまずありえない西欧風の美人。


 十中八九お姫様というやつだ。


 その美しさは僕だけではなくて、男子はもちろん女子の目も惹きつけている。

 中でも印象的なのが、クラスのまとめ役である市成(いちなり)隆俊(たかとし)が食い入るように見ていることだろう。

 美人が多いと言われる僕たちのクラスのまとめ役であり、女子ともそれなりに付き合いがある彼は、美人を見慣れていると思う。それなのにここまでの反応とは、もしかして一目惚れでもしたのだろうか。


「突然我が国に御呼び立てしてしまい、誠に申し訳ありません」


 やってきた美人は開口一番、僕たちに頭を下げた。

 クラスの素行がよろしくない男女が「だったら最初からするな」とか「謝るなら帰して」と抗議するが、美人の周りにいる騎士に睨まれて黙り込む。

 市成は抗議した人たちを呆れたように見るけれど、抗議した人の言っていることはもっともだろう。むしろ嬉しそうにしている人の方が、感覚がずれている。


 僕的にはなるようになれ、って感じ。


 今後のことを考えると、開き直らないと心が持たない。


 美女は騎士を手で制して後ろに下げると、申し訳なさそうな顔をして再度頭を下げる。

 騎士の中の一人が「姫様」と呼んでいるので、その身分は確定して良さそうだ。


「あなた方をお呼びしたのは、わたくし達の王国を脅かす魔王と戦ってほしいからです。

 お気づきの方もいらっしゃるようですが、ここはあなた方がいた世界とは違う世界。

 異なる世界間の移動にはとても大きな力を要します。またこの国には呼び寄せる魔法陣はあっても、返すための魔法陣がありません。

 ですが、魔王の城には帰還のための魔法陣があるとされています」

「つまり、魔王を倒すことができれば、地球に帰れるんですね」

「はい。そう言われています」


 市成が姫の言葉を繰り返し、姫がそれに頷く。

 魔王の討伐なんて言うのは、もはやありきたりな物語だといえるだろう。

 少なくとも、僕たちの年代であれば魔王を倒すゲームや物語に触れたことがない人は居ない。


 なんともわかりやすい目標であると同時に、王国側の手腕に歯噛みしたい思いだ。

 何せ魔王という単語によって、まるで物語の中に入ったようだ、と思ってしまったのだから。

 さっきまで抗議していたクラスメイトも、物語の主人公になれるかもとまんざらではない表情になっている人が増えた。


 我々高校生はどれだけ悪を気取っていたとしても、物語の主人公に憧れるものだ。

 自己顕示欲の塊だ。

 加えてこの世界にはステータスが存在する。これはテンションが上がらざるを得ない。

 でも、僕のステータスはおそらく弱いので、テンションは上がらない。むしろ下がる。


「詳しくは別室でお話ししますので、ついてきてもらっていいでしょうか?」


 疑問形だけれど、僕たちには断るという選択肢はない。

 ここに置いて行かれても、どうしようもないから。




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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[一言] プロローグの金髪ってこの姫のことかな? 魔王城にいけば帰還の魔法陣があるというご都合主義wこういうパターンって十中八九人間側の国に問題があるんだよね。
[気になる点] こういった、王国は呼ぶだけ、魔王側なら帰せるよ。って設定の初出はどの作品なんでしょうね。ずっと昔からあるものなのか、意外と最近なのか…。 本作の場合だと、 召喚者たち:帰れて嬉しい 魔…
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