後日談:最終話
電子書籍版最終巻配信記念ということで、こちらで投稿します。
「小説家になろう」内に『「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」後日談短編集』というのがあるので、読んだことがないよと言う方は、先に少しそっちを読んでからのほうが理解が深まるかもしれません。
神の一柱になって長い時が過ぎた。
「変わりませんね。この世界も」
「そうかな? だいぶ様変わりしていると思うけど」
樹海に沈んだ町を見てわたしがひとりごつと、聞いていたらしい文月がキョロキョロとあたりを見渡し、首をひねる。今回崩壊直前の世界にやってきたのは、わたしと文月の二人。ルルスにはちょっとお休みしてもらうことにした。
「何というか、空気感というか、そういったところがです」
「空気感も何もって感じだけど、神様的には違うのかな?」
「文月が感じていないと言うことは、そうなんでしょうね。何というかとても存在が馴染んでいるような感じがします。そしてこの馴染み方は危ないとも感じています」
「危険ってこと?」
文月が慣れた様子で尋ねてくるあたり、わたしの扱いが完璧だ。フィーニス検定一級をあげよう。きっと説明書を良く読んで勉強したに違いない。
「身の危険はないです。消滅はしたいです」
「その時はあたしも一緒によろしくね」
「文月の愛って重いですよね」
「これでもちゃんと考えてフィーニスちゃんの元にきたからね」
それが恋愛ではなくても、愛は愛。きっとわたしはルルスにも愛されているのだろう。わたしたちのような存在が持つものとして、愛という呼び名で正しいのかは分からないけど。
「それで、何が危ないのかな?」
「ここにいると、わたしの仕事が増えそうな気がするんですよ」
「それは大問題だね。でも帰れないよね?」
「帰れないですし、もとより帰るつもりもないです」
「あたしたちの故郷だもんね」
文月の言うとおり、やってきたのはかつて通山だったときに生まれた世界。あれからどれだけ時間が経ったのか分からないけれど、女木も磯部も寿命で死んでいる。何ならわたしの記憶にある風景なんて何一つ無い。
樹海に飲まれた町だって、燃え続けている森だって、絶えず押し寄せてくる大波だって、記憶の片隅にすらない。
廃墟と化した町だって印象的な建物はあるけれど、その建物に覚えはなく、車っぽい何かも車ではない。謎の装置の残骸もあるし、初めてみる金属で作られた箱は未だ劣化している様子もない。
「ここって、人は生き残っているのかな?」
「だいぶ前に滅びましたね。現在知的生命体と呼べる存在は居ません。動物ももういないでしょうね」
「それなのに、廃墟として残っているんだね」
しみじみ文月が言うけれど、わたしたちが生きていた頃の技術力では、石造りの建物くらいしか残っていないような時間が過ぎている。それなのに、明らかに科学文明のそれが残っているのは面白い。
文明崩壊後もしばらくは人間が生きていたから、というのもあるだろうけれど、それでも面白い。
何というか、科学文明の執念を感じる。
「ここから崩壊まで結構かかりそうだよね。見た目は」
「知的生命体が居ませんからね。表面だけ見たら、あと一億年くらい大丈夫な感じしますね。実際はあと3日とかですが」
「そんなに短いんだねぇ」
「海底を含む地上をすべて探索しきった人が、とうとう地中にすら手を出しましたから」
見ることが出来ない地下空間に思いを馳せつつ、今度は空を眺める。
「まあ、宇宙から切り離された時点で、この世界に救いはないわけです」
見上げた空には星がみえるけれど、残念ながらプラネタリウムのようなものだ。
かつては宇宙空間を持つ世界の崩壊は、宇宙そのものが消えてなくなるのだと思っていたのだけれど、そうではない。
宇宙空間に星を浮かべて、世界にするために神々が手を加える。その世界も同一宇宙上の他の世界から見ると、星の一つとして存在し、世界崩壊が近くなると宇宙から切り離され、一星寂しく崩壊する。
宇宙というのは神々が存在している場所の亜種みたいなもので、なぜ宇宙を作ったのかと言えば、世界間の移動を物理的に行えるようにしたらどうなるのかという遊びのようなもの。
同一の神の世界だけで構成された宇宙もあれば、いくつもの神が関わっている宇宙もある。
とはいえ、世界間の行き来が出来るようなところは多くなく、我が故郷もついぞ他世界にたどり着くことはなかった。
他の星にはたどり着いたようだけれど、すべての星が別の世界というわけでもないのだ。
◇
3日後。地面が割れ、その間から光りが漏れ出している。一筋、二筋だった光りは時間とともに数を増し、次第にくっつき大きな帯へと変わっていく。
わたしたちはそれを外から見守っている。
「なんかいかにもアニメで星が爆発しますよ、って感じの壊れ方だね」
「さすがにアニメほど簡単には壊れませんけどね」
文月の言葉通り、アニメと同じであれば数秒、せいぜい十数秒で終わるようなシーンだろう。だけれど目の前のそれは、数時間は経っている。世界が崩れはじめ、終わるまでで一クール終わってしまうほどの長さだ。
かつて伝説の8が放映されていた時代であっても、炎上待った無しのやらかしになるだろう。
「それはそれとして、なんかフィーニスちゃんに流れ込んでない?」
「流れ込んでいますね。この世界に来たときからですが」
「そうだったの?」「昨日までは微々たるものでしたからね。ストローで吸い上げるレベルです」
「今は?」
「世界喰イちゃんの気持ちが分かりそうな感じがします」
今回わたしがこの世界に送り込まれたのは、たぶんこのためなんだろうなーって感じ。
言うなれば、デアコンティラルフィーニスの強化イベント。下っ端神だったわたしもこれが終われば、立派な神様に。みたいな。仕事が増えそうって言うのもその辺が理由なのだ。
出来ることが増えたからと、処理能力が増したからと、あれもこれもと仕事を振られないことを祈る。この世界にもかつてあったであろう、ブラック企業。その存在に思いを馳せながら、かつての故郷の最期を見守った。
再度になりますが、電子書籍版が完結しました。
全5巻とそこまで多くないんじゃないかなと思いますので、本編面白かったよと言う方は覗いてくれると嬉しいです。加筆とかしてます。
あと前書きにもありますが、本作後日談も投稿してます。シリーズに行くか、作者ページを見ると見つかると思いますので気になったらこちらも覗いてみてください。
そして全部追ってくれているという方へ、実はこの話はちょっとだけ文字数多いです。というか、あっちの文字数を減らしてます。
あと怒られたら、たぶんこの話は消えます。





