閑話 ズィゴスとそれぞれのその後7 ※ズィゴス視点
先王と古代竜と別れた後、ひとまずは南を目指した。
ルベル国があったところで、今は火山の噴火に巻き込まれて、少数が隠れながら細々と生活したので、これを一人残らず消していった。
ルベルが終われば、あとはアクィルスとフラーウス。しかしフラーウスには、あの神がいるので手を出すつもりはない。
ズィゴス的には不満だが、危険に近づいていくつもりは毛頭ない。
僕の一つ前の召喚はフラーウスで行われたというが、幸いアクィルスにもいるようなので、フラーウスを迂回して、アクィルスに行く。
アクィルスには2人勇者がいて、どちらも同じ場所にいるようだ。
大きな町にある、大きな屋敷の中。
規模的にも大貴族のものだろうその中に2人の勇者がいる。
どうしてそうなったのかはわからないけど、とりあえず正面から向かう事にした。
……のだけれど、町に入る前に2人のうちの片方が、向こうからやってきてくれた。
どうやら少年のようで、とても存在感が薄い。ズィゴスの力がなければ、気が付けたかどうか。
違和感は覚えただろうけど、それで気が付けたかどうかは半々だと思う。
どうやら見つかっていないと思っているらしい少年は、こちらの様子を伺っている様子だ。
「君は何をしに来たのかな?」
「っく、気づかれていたのか……」
「気が付いてたよ。それでなにをしに来たのかな?」
「不審な人物の偵察ですよ。貴方は何者ですか?」
見つかったことで諦めたのか、開き直った様子で直接僕のことを聞いてくる。
良い交渉材料になりそうなので、隠さずに話そうか。どうやら彼は、腹の探り合いみたいなのは得意ではないようだし。
「僕は魔王。この世界の人を可能な限り消すために来たよ」
「それは……本当ですか?」
「その辺の人を使って証明してあげようか?」
「いや信じます」
全速力で彼の背後に回ってそう尋ねれば、彼は即座に信じてくれた。
話が早くて助かる。
「それともう一つ目的があってね。君は異世界から来たんだろう?
元の世界のもの何か持っているかい? いやはっきり言おう、元の世界の紙と何か書くものは持っているかい?」
「元の世界の……?」
突拍子もなかったのか、少年が言葉を失う。
彼そしてもう一人が何も持っていなかったら、フラーウスに行かないといけないのだけれど、それは避けたい。
フィーニスと出会ったからといって、戦いになるわけでもないと思うのだけれど、できれば会いたくない。変な苦手意識ができてしまっている。
「数枚のメモ用紙と小さくなった鉛筆ならありますけど……」
「うん、それくれないかな?」
「こんなでも元の世界とのつながりですから、簡単にはあげられません」
「じゃあどうしたらくれるかな?」
にっこり笑って尋ねれば、彼は考えるそぶりを見せる。
どんな答えを出してくれるのか、交渉がうまくいかなければ、奪うという手段がこちらにあることを分かっているのか。
こういうのは、問われる側にはなりたくないが、問う側は何かと興味深い。
「……渡す代わりに、せめてこの町の人だけでも消さないでいてくれませんか?」
「良いよ。どうせフラーウスには手を出せそうにないから、町のひとつは誤差だからね」
「それじゃあ、気が変わらないうちにお願いします」
「それは賢明な判断だね」
もしもこれ以上人を消さないでと言われたら奪いに行くところだったけれど、町一つくらいなら妥協できる。
何せすでに全ての人を消し去るなんてことはできないから。
今はズィゴスよりも、本来の僕の方が少し強めに出ているから。
言われた通り、何か柔らかい金属の輪で纏められた数枚の紙と、手の指の長さほどしかない鉛筆を渡される。
真っ白な紙は、それだけで技術力の高さがうかがえるし、金属だと思われる輪も何なのか詳しいことはわからない。
試しに大剣の刃に触れさせてみたけれど、消滅する気配はなく、本当に彼がいた世界の物だとわかる。
これでこの場の用事は終わったし、人が多い所に行こう。
「それじゃあ、これで。監視するなら監視してくれてもいいけど、巻き込まれないように注意してね」
「いえ、貴方は嘘をつかないと信じていますから、監視はしません」
「まあ好きにしたらいいよ」
勇者の少年をその場において、人が多い方へと向かった。
◇
「それでお主は人々を消し終わったのか?」
「いいや。フラーウスとかアクィルスの一部は放置してきたよ。
全員は消せなかったけれど、人はだいぶ減らしたから、魔王も落ち着いているし」
「満足ならそれでいいがな。例のものは手に入ったのか?」
「これが彼の世界の紙と筆記用具らしいね」
もらってきたメモ用紙と鉛筆を見せると、先王は「ほう……」とつぶやいて、それらを見る。
「あとは書いて終わりだね。細かく書くのは無理だけれど、重要なことくらいは書けるかな」
「そうか。それならば、この部屋を自由に使うがいい。時間はほとんど残っていないようだがな」
「助かるよ」
やることをやって、エルフの先王のもとへとやってきた。
僕にとってこの世界で落ち着ける場所はここぐらいだし、そうでなくてもここ以外だといつ自分の真下の地面が割れるかわかったものではない。
不格好とはいえ、椅子も机もあるここで書き物ができるのは助かる。
早く書いて、世界の崩壊をフラーウス辺りで迎えることにしよう。
今はあそこが人が最も多い場所になるから。
人々の叫び声が聞こえる。地面が割れ真っ暗な何かに飲み込まれていく。
人々が暗闇に落ちていく中、僕も一緒に落ちていく。
やがて僕の意識も闇に消えはじめたところで、あの少女のような神の姿が見えたような気がした。
◆
「ここは……?」
目が覚めた。どうやらベッドの上で眠っていたらしい。
魔物の王を倒して、王都に戻って、パレードが行われ、その他儀式などが一通り終了したある日。何故か着替えもせずに眠っていた。
そのこと自体は今までだってあったことで、可笑しなことではない。
しかしながら、いつもと同じなら着替えずに寝ていたという記憶くらいは残るもので、昨日の夜のことも思い出せる。だけれどどういうわけか、昨日の夜寝る前くらいの記憶が曖昧だ。
記憶がなくなるほど疲れていたわけでもない。
何せ昨日は身内でパーティをしていただけなのだから。
ようやく個人的な時間が取れたので、改めてお疲れさまと皆で集まったのだ。
たった数日前まで一緒に旅をしていたのだけれど、この数日間が濃密すぎて――それこそ魔物の王を討伐したときと同じくらいに――久しぶりに顔を合わせたような気がしていたのだ。
魔物の王を討伐した僕たちは、国の中で特別な立場にはなったものの、それなりに自由に活動をすることができる。今日がその自由な活動の初日となる。
この戦いで壊された町々の復興を手伝いつつ、亡くなった仲間たちへと花を手向ける。君たちのおかげで、世界が平和になったのだと、報告に行くのだ。
着替えずに寝たということは、水浴びもしていないのだろう。
せめてさっぱりしてから、新しい一日を始めようと服を脱ぐ。
それにしても本当に昨夜はどうしたのだろうか?
そんなことを考えながらポケットに手を入れると、そこに何かが入っていた。
金属の輪のようなもので纏められた紙と、中途半端な長さで先が尖った木の棒のようなもの。
見覚えのないそれらに、首をかしげながらも見分していく。
まずは紙。真っ白で手触りもよく、上質なものだというのがわかる。
数枚まとめられていて、そこには僕が書いたと分かる字が書かれていた。
こんなものを見たことはなく、当然文字を書いた記憶もない。
その中に書かれていることは、とても信じがたく――だけれど、無視できないようなそんな気分にさせられた。
これでズィゴス視点の話は終わりとなります。
彼が今後どうしていくのか、それはご想像にお任せします。
実は魔物の王戦あたりに戻ってきて、どうのこうのしてハッピーエンドみたいなのも考えたのですがやめました。
さてもうずっと書いてきて、耳に胼胝ができているかもしれませんが、今回の閑話は本作の電子書籍版配信記念の投稿になっています。ので、面白いなと思ってくださった方は、購入して頂けると嬉しいです。
最後にズィゴス視点はこれで終わりですが、配信記念に投稿についてはもう1話だけ、閑話ともいえない小話的な設定解説のような何かを投稿しようかなと思っています。
あと一話お付き合いいただけると嬉しいです。





