閑話 ズィゴスとそれぞれのその後4 ※ズィゴス視点
やってきたエルフの男性と獣人の女性。ちょうど良いし切り捨てようかとも思ったけれど、今までの人たちとは違うようなので様子を見ることにした。
どう出てくるかと待っていたら、エルフの方が尋ねてくる。
「貴殿が世界を終わらせる者か?」
「違うよ。世界はただ崩壊するだけ。終わらせる者は君たちこの世界の人じゃないかな?」
「ああ、そうだな。じゃあ、貴殿は何者だ?」
この世界が崩壊することを知る人か。
ズィゴスの部分がざわついていているけれど、僕個人としてはこの人たちの話は気になるところがあるので、少しだけ付き合ってもらうことにする。
それにしても、僕が何者かと来たか。勇者、魔王、ズィゴス……いろいろあるけれど、ここではあえてこれを名乗ろう。
「僕は世界が崩壊するから現れた存在。そんなところだよ」
「やはり貴様さえ現れなければ……」
「ファラナ嬢、それは違う」
獣人の方はファラナと言うらしい。僕がここに来てから不機嫌そうにこちらを伺っていたからわかっていたけれど、どうやら感情的なところがあるらしい。それでも、このエルフのことは信頼しているのか窘められると素直に引き下がった。
まあ世界の崩壊という終わりを誰かのせいにしたいのだろう。少なくとも自分たちに連なる誰かのせいではないと、そう信じたいのかもしれない。
だけれど、順番が違う。僕がいるから世界が崩壊するのではなく、世界が崩壊するから僕のような者が生み出されたのだ。
「それで僕のことを聞いてどうする気かな?」
「どうとも。オレたち……いや、我々は粛々と終わりを受け止めよう。
思っていたよりも終わりが早かったようだが、もとよりここは世界に終わりがくるまでせめて静かに生きたいと願った者たちの集落だ。争いに疲れた者たちの集落だ」
「争い……ね。あの戦っていた人たちか」
「ああ、そうだ。彼らはお互いを憎み合い、どちらかが全滅するまで戦いをやめなかっただろう。
この集落のことを知れば、戦いの後で滅ぼしにも来たに違いない。
わたしの力のなさ、情けなさの結果だ」
まとめきれなかった者たちは放っておいて、自分たちだけで逃げだし新しい集落を作ったと言うところだろうか。
目の前のエルフは自分の力が足りずに、争う者たちを止めることができなかったことを嘆いていると。
背景がわからないから何とも言えないけど、元々エルフと獣人が争っていて、ここの集落にいる人たちは分かり合うことができたわけだ。
何故わかりあえたのか。僕個人が聞きてみたいし、どうしてズィゴスがこんなにも怒っているのかも分かるかもしれない。
いや、予想ができているので、本人に確認してみよう。
「世界崩壊を前に争いが空しいと理解した人がここにいると?」
「そうだ」
「うん。そっか」
「な、何を……」
おもむろに剣を構えた僕に、ファラナが驚いた声を上げる。
そして何か言い掛けた言葉を待たずに、目の前のエルフを切り捨てた。 驚いた顔のエルフが血を吹き出しながら倒れる。それから、何かを言いたげに、何度か血を吐いて動かなくなった。
「何をする」
「いや、腹が立ったから。勝手に納得して、勝手に死を受け入れて、わかったような気になっていたようだから」
この感情はズィゴスのもの。
今の今まで好き放題やって世界のことを省みなかったくせに、勝手に反省して、罰を受けている気になっている、八つ当たりの相手ですらなくなってしまった者への怒り。
だから大剣は使わなかった。
使えばほんのわずかな苦しみも与えられるかわからないから。
「貴様ぁ」
うん。彼女――ファラナくらいがちょうど良い。
これくらい怒りを露わにしてくれた方が、八つ当たりのしがいがある。
鋭い爪でこちらをひっかいてこようとするファラナの頭を掴んで、遠くへ投げる。
獣人は体が丈夫なようなので、これくらいで死なないのは良いことだ。
そして彼女が立ち上がり、闘志に燃えた目でこちらをにらみつけてくる間に、近くで唖然としていた人を切る。
一人はエルフを、一人は獣人を。
そこでようやく集落にいた人たちが動き始めた。
三分の二程度が悲鳴を上げて逃げ始める。
逆に言えば三分の一は逃げる様子を見せない。残った者たちの多くがエルフであるのだけれど、まあそれはそれ。
残って僕と戦う気があるのかと言えば、そんな様子を見せているのはファラナ一人だけで残りはなんだか哀れんだような目で、こちらを見ていた。
放っておいても逃げそうにないので、逃げた人たちから殺しに行くことにしよう。
でもその前に、向かってきたファラナをもう一度遠くへ投げた。
◇
「何故俺たちから狙う」
逃げ出した最後の一人を追いつめたところで、そんなことを言われた。
「逃げるからだけど」
気持ちは分かるけれど、結局全員消すのだから、逃げる方から消すに決まっている。
これ以上問答する気もないので、適当に切り捨てて、集落に戻ることにした。
正直集落から離れたときに、逃げなかった人の何割かはやっぱり逃げるんじゃないかなと思ったけれど、そんなことはなくて、何故か行儀良く待っていた。
いや一人は行儀良く待てなかったらしく、こちらを睨みつけながら「皆をどうした」と威嚇してくる。
「消したよ。そのために来たからね」
煽るように言えば、我を忘れたように叫びながら向かってくるので首をはねる。
また投げ飛ばしても良かったのだけれど、こういったタイプの人は自分が死ぬまで諦めないので、もう十分だと判断した。
心を折るまでやっても良いけれど、折れなければ興ざめだし、ここにはまだ他にも人がいる。
周りで見ていた人たちは、ファラナの首が飛ぶのを見ても逃げる様子はない。
「あなた方は逃げないのかな?」
理由は最初に殺したリーダーが言っていた通りなのだろうけれど、一応聞いておく。
本当は逃げ出したいけれど、逃げれば追われるから必死でこの場にいるとかなら、ズィゴス的には満足なのだけれど、それは望み薄だろう。
僕からの問いに、年老いたエルフが前に出てきた。
「貴殿は世界を終わらせる者ではないとは言っておったな?」
「そうだね。世界を終わらせるのは、この世界の人々で僕ではないよ」
「だが世界が崩壊するから現れたものだとも言っておった。
つまり人を殺して回る貴殿は、世界が遣わせた、いわばこの世界の怒りのような存在じゃな?」
「それでどうして逃げないのかな?」
こちらの質問になかなか答えてくれないので、再度問いかける。
老エルフは遠くを見ると「どうしてじゃろうな」と思い耽るように呟いた。
それからこちらをまっすぐに見る。
「世界の怒りたる貴殿は、まことにこの世界に巻き込まれた存在じゃろう? そのわりに怒りが足りぬのは何故じゃろうな」
老エルフが話し終わるころには、大剣で彼を切り裂いていた。
ズィゴスの意志ではなく、僕自身の意志で。
それから残っていた者たちを一息に滅ぼした。
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