閑話 ズィゴスとそれぞれのその後3 ※ズィゴス視点
結局戦い始めるまでにさらに問答を必要としたけれど、僕と亜神の少女――フィーニスとの戦いは始まった。
この世界の存在に対してめっぽう強い僕は、彼女に負けることはないと思っていたし、戦いはじめてからも負けるとは少しも思わなかった。
身体能力は向こうが上でこちらの攻撃は易々と避けられるし、反撃も食らう。
だけれど、受けた攻撃はそれが魔法によるものであれ、スキルによるものであれ、物理的なものであれ、僕にダメージは与えられない。
これでもかなり強いつもりだったので、なかなか攻撃が当てられないのは悔しくもあり、楽しくもあり、それでも続けていけば遠からず一撃を当てられると思っていた。
一撃当てればいくら亜神とはいえ、この世界の存在であれば消え去る。
彼女の身体はこの世界のものではなさそうなので、消えてしまう事はないけれど、今の彼女の強さを作っているもののいっさいはなくなる。
そうなれば僕の勝ちだし、彼女にこだわる理由も消える。
以前の僕とは違い、あくどい手を使うのに躊躇いはないので、ものすごく時間がかかりそうだった勝負を一気に終わらせた。
確かに僕の大剣が彼女を両断して、一度は彼女を一介の少女に戻した。
しかしながら、彼女は紛れもない神の一柱として生まれ変わった。
だとしたら、もう少しわかりやすく変わってほしかったのだけれど。
この世界の力もなくなったし、先ほど以上の力を持っているとして――先ほどと同じだけの力であっても――勝てる未来はないので、彼女の言葉に従って、早々に勝負をやめる。
彼女がこの世界の国のお姫様を守っているので、何とか消してしまいたかったのだけれど、ここで完全に敵対して返り討ちになり他の人を消せなくなるよりも、引いてひとりでも多くを消した方がズィゴス的にも満足度が高くなるから。
それにどうやらフィーニスが姫を守っていたのは、フィーニス自身の計画の中で姫を排除したいからのようだし。
神に目を付けられて、安らかな死が訪れるとも思わないので、任せることにした。
最後に途中で見た国だったものについて聞かれた。どうやらあそこがフィーニスの主戦場らしい。
この姫はまだ国だったときの姫か。確かに連れて帰ったら、むごいことになりそうだ。
別れ際、東がおすすめだと脅されたので、おとなしく東に向かうことにした。
◇
そう言えばニゲル国に行ったけれど、そこに住む人々には会えなかったなとぼんやりと考える。
戦争をして多くが死んでいたし、生き残っている者も、姿を見せる余裕はなかっただろうから仕方がないのだけれど。
今までズィゴスの為にと働いてきた人たちを見て、果たして僕はどう思うのだろうか?
僕がというか、ズィゴスが、か。
フィーニスとの邂逅で今の僕は有って無いようなものになった。元の世界に帰れるようになったし、そのときに今の記憶はなくなるのだから。
だからズィゴスとして動くことに何の異論もないし、ズィゴス部分が殺すようにと命じればニゲルの人々だって殺しただろう。
それは同時に心の余裕にも繋がってしまった。
だからこそ考えてしまう。逸らしていたことに、目を向けてしまう。
この世界のズィゴスは魔王と呼ばれ、人々と敵対してきた。それは人々にとって良いことが、世界にとって悪い結果を及ぼしていたから。人から見ればズィゴスは悪になる。
では、僕が倒した魔物の王はどうだったのだろうか?
世界を守る側ではなかったのだろうか?
それにかつて僕の世界を救ったとされ、僕の先祖でもある救世主。
彼は元の世界に帰りたかったのではないだろうか。
僕は帰る道筋を得たけれど、見つからずに不本意なまま世界に残ったのではないだろうか?
そんなことが頭を埋め尽くし始めたころ、遠くから戦う音が聞こえてきたので、思考を振り払うようにそちらに走り出した。
◇
たどり着いた場所では、耳の長いエルフと動物の特徴を身に宿した獣人が戦っていた。
戦争はつい先日見てきたばかりだけれど、こちらの戦いはさらに過酷で、自分が傷ついても隣にいた人が殺されても、構わずに最後のひとりまで殺し尽くそうとばかりに憎しみが渦巻いている。
この世界に来たとき、僕も同じように憎しみを感じていたし、今も殺したいほどに憎いと思う。
実際、子を守る母親がいたら子から殺したし、手を引く兄妹がいたら小さい方から消した。
すべての攻撃をわざと受けることで、相手を絶望させたりもしたし、逃げまどう相手をその恐怖を長引かせるために、あえて歩いて追いかけた。
それでもどこか理性的でいられたのはきっと――――。
改めて戦いの方を見てみると綺麗だったであろう森の中は、血と肉で汚染されいた。この争いの後は草も生えないのではないだろうか、なんて考えてしまう。
実際のところはそんな訳ないのだけれど、それくらい凄惨だ。いや、草が生えるよりも先に世界が崩壊する、なんて事もあるか。
まあ、消そう。
放っておいても死にそうなものだけれど、ここより先は集落が1つある程度にしか人はいないので、先に集落をつぶしても、この戦いは終わっていないだろうから。
問答無用で消したいけれど、僕という存在に少しでも恐怖してほしいので、もっとも熾烈に争っているところに飛び込み大剣を雑に振り回す。
先ほどまでいた仲間が、敵が、一瞬の内に霧散した様子を見た人たちの動きが止まり、視線が僕に集まる。
それからなにやら罵声を浴びせてきたかと思うと、一気に集まってきてくれた。
◇
「くそ、何だってんだ……」
「何かといえば魔王だね」
「何を……」
言葉を言いきる前に、残った獣人の首をはねる。それで死体がすべて消えてくれるから、この大剣はとても便利だ。
これで逃げ出した人も最後。今回も逃さずに消し終えることができた。大変満足。
実は偵察に来ていただろう人が集落に向かっていたけれど、これから集落の方に行くので放っておいた。
それで集落の人たちが逃げ出したとしても、追いかけるのはそんなに苦じゃない。場所はわかるので、この国の中程度であれば走ればすぐに追いつく。
そうじゃなくても今から追いかければ、偵察が集落にたどり着いた直後には追いつく。
◇
さて集落に到着した。
エルフと獣人が一緒に暮らしているようで、その表情は明るいながらもどこか白々しい。まるで今の僕のようなそんな表情だ。
自分の表情は見えないけれど、きっと似たような表情をしているんだろうなと思う。
ここのエルフと獣人は仲がいいわけでもなく、さりとて悪いわけでもなく、それぞれの領分を侵さないように、最小限の関わりですませているという感じがした。
何とも歪な集落だ。
偵察のエルフが獣人とエルフそれぞれのリーダーに何かを伝えているらしいのが見える。
話を聞いた2人が逃げ出す準備でも始めるかと思ったけれど、ショックを受けたような顔をしつつも、諦めたように首を振る。
まるでそのときがきたとでも言わんばかりだ。
逃げないのなら楽で助かる。
今までと同じように正面から集落に乗り込み、手近な相手を消し飛ばそうと大剣を肩に担いだ。
そんな僕の前に2人のリーダーがこちらに走ってきた。
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