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嘆いていても始まらない。
平均約172、総計1200もステータスが上がっているわけだけれど、どうしてだろうか。
亜神の成長速度が速いからと言われたらそうかもしれないけれど、どうにも違う気がする。
と、言うわけで、OK,GODGLE.
『なんだい?』
『これでいいんですね』
『まあ、別にこっちに連絡とろうとしてくれれば、普通にできるからね。
神が暇だったら、話くらいするよ』
『一人称に不穏を感じましたが、僕のステータスってもしかして、勇者が強くなったら一緒に上昇する系ですか?』
『その通りだよ。言っていなかったかい?』
なんだか笑いをこらえているようなそんな声がする。
おじさんっぽい声のせいで、腹立たしさが割り増しだ。
『今、あえて言っていなかったって声が聞こえてきました』
『お、『読心』のスキルを手に入れたのかい?』
『くれるんですか?』
『あげないよ。あげたところで、神の考えていることは読めないしね』
さすがに無理か。
亜神と神との差というやつだろう。
『『読心』は要らないので、うまく手加減できる系のスキルください』
『そんなことしなくても、無意識下で制御できているものだよ。
そうじゃないと、フィー君がドアを開けようとするたびに、ドアが破壊されるからね。
フィー君がぶつかっただけで、人が死ぬよ』
言われてみればそうかもしれない。
一応日常生活を送るにあたって、何かしら不具合を感じたことはないし、人を殺したこともない。
ただ戦闘において、やりすぎてしまうというだけではある。
『フィー君は単純に戦い慣れていないから、戦う時の手加減が苦手なんじゃないかな?』
『あー……そうですね。もっといろいろやってみるべきでしたね』
『そこまでステータスが高いと、上がったところで上限が増えるみたいなものだから、一度手加減を覚えると感覚は変わらないよ』
『それじゃあ、折を見てやってみます』
『では、頑張って……頑張らなくていいか。ほどほどに、適当にで良いからね』
ガチャ……ツーツーツー……と電話が切れるような音がする。
だんだん神様が面白おじさんに思えてきた。
まあ、情報も有用だったので良しとしよう。
んー、勇者が強くなるほどに、僕も同じだけ強くなるとすれば、最終的にステータス平均が4000とか5000とかになりそうなのだけれど。
平均250もあれば伝説の勇者としてあがめられるこの世界において、果たしてそこまでの力が必要なのだろうか。
『勇者』スキルには、ステータス倍化の能力はある。やろうと思えば、一時的に素ステータスの10倍の能力値を得ることができるだろう。
つまり市成が頑張れば、平均ステータス2500まではいける。
さらにスキルをうまく使えば、5000に届くかもしれない。でも、おそらく10秒も持たないだろう。
人の身体の限界だ。使った後は、市成が使い物にならなくなるに違いない。
まあステータスが上がるだけ、死ににくくなるということだし、上がること自体は大歓迎だ。
武器も少なくともこの町にいる間は変えないほうが良いかな。
やることもなくなったし、コレギウムで情報収集でもしていよう。
◇
情報収集とはすなわち『隠密』を使って、堂々とコレギウムにある休憩スペースに居座り続けることである。
何と言うか、本当に便利。
誰かが近くを通っても気が付かないので、盗み聞きし放題だ。
今日知ったのは奴隷の事。やっぱりと言うか、奴隷自体は存在しているらしい。
冒険者の中にも、荷物持ちとか肉壁とかのために購入している人もいる。
奴隷は首輪や両腕輪、両足枷をしているため、この世界ではあまり腕輪は好まれない。
それら奴隷を示すものは、隷属の魔法なるものが付与されていて、とりあえず持ち主に危害を加えられなくなる。これは直接間接両方で、間接の場合意図して持ち主を貶めようとすることができなくなる。
要するに僕の『契約』みたいなものだ。
他にもいろいろオプションはあるらしいけれど、詳しい事までは話の中に出てこない。
と言うか、奴隷の購入の話なんて、表面的なところしかできないのが普通か。
金額は安い奴隷が大銀貨で買える。高い奴隷だと大金貨レベルになってくる。
買うなら安いほうが良いかといわれると、そうでもないらしい。
と言うか、安い奴隷を買って失敗した、というのが話の主題だった。
で、それを聞いていた、元クラスメイト組が顔をしかめていた。
うん、実に日本人していると思う。
でもそこで食って掛からなかったのは、正解だ。
二人は受付に行くと何か話を聞かされて、深く考えているらしい。
話が聞こえる位置まで移動して、二人がどうするかを確認する。
「どうしようか」
「許可が下りるのに大きく近づくって、具体的にどれくらいなんです?」
思案気な文月を横に置いて、藤原が尋ねる。うんうん、そういうのの確認は大切だ。
受付さんはたぶん、藤原たちと同い年か少し上――17歳か、だけど敬語使うのか。
接客業を相手に、怒鳴り散らす人よりも何倍も良いね。
「コレギウム・ドゥチェスも貴方がたを気に入っているようで、この依頼を成功させた後、魔物討伐の依頼を受けてもらい、最後にドゥチェスに確認してもらってですね」
「……闇雲に依頼をこなすよりも確実かな?」
「そうだね。魔物討伐は、ちゃんとこなせるようになっておかないと、今後困るだろうし」
「分かりました。その依頼引き受けます」
「ありがとうございます。ですが、無理はなさらないよう、危険を感じたらすぐに戻ってきてください。それで、ドゥチェスからの評価が下がることはありませんから」
お、引き受けた。
それにしてもコレギウム長、本当に二人を気に入っているらしい。
死なないように最低限のことをさせてから、許可を出すっぽい。
それに失敗した場合、コレギウムからの評価が下がり少しだけ昇格から遠のくけれど、国境を超える許可はあくまでもコレギウム長の判断だから、そちらの評価が下がらなければ問題ない。
だから無理をして死ぬ事は、ほぼなくなった。
「それじゃあ、俺が先行するから、ユメちゃんは後からついてきて」
「うん。足引っ張らないように頑張るね」
「それから、逃げる時には合図するから」
町を出た二人はそう確認すると、周りに人眼がないことを確認してから走り出す。
直後、二人の存在感が一気に霧散した。
藤原に至っては、そこにいることを意識していないと僕でも見失ってしまいそうだ。





