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「ただいま戻りました」
「はい、お疲れさま。まさか精霊を全員助けてくれるとは思ってなかったよ」
通山が死んだときに連れてこられた空間。そこで神様との再会を果たす。とは言っても、何度も話していたので再会感はないけれど。
いや本当に久しぶりの会話だったとしても、神様相手に思うところはなにもなさそうだ。
何せ飄々とそんなことを言うのだから。
「思ってなかったのに行かせたんですか」
「でも1人でも助ければいいって約束だったからね」
「確かにそうでしたけれど、時間が有り余っていましたから」
「そこで助けるところあたりが、性質って奴じゃないかい?」
ほめられているんだか、何なのだか分からない。
個人的にあまりほめられている気がしないから、ほめられていないと言うことにしよう。
「まあ、いいです。世界の崩壊を見ることはできましたし。
願いの方どうなってます?」
「とりあえず、全員それぞれの選択をしたよ」
「そうですか。僕の願いって後いくつ残っていましたっけ?」
精霊は6人。中立組をどうにかするのに1つ、文月達の願いを叶えるのに1つ、ズィゴスさんの願いで1つ、僕が神になったので1つ。
「後2つかな」
「じゃあ、1つはいつでも好きなときに恐怖を覚えることなく消滅できる権利、1つは永遠の微睡みでお願いします」
永遠の微睡みに飽きたら、死ぬのではなくて消滅する。
それが僕の願いだ。前々から言っていたような気もするけれど。
とにかくにニートのように何処かに引きこもり、延々微睡んでいたい。
眠りと覚醒の間をうようよと漂っていたい。
あの幸せな時間を永遠にほしい。
だけれど、どうにも僕の願いは叶いそうにないらしい。
神様の表情が優れない。
「それは難しいかな」
「どっちがですか?」
「どっちも」
「さいですか」
早くも未来図が崩壊したのだけれど。でも、こんなことで諦めてなるものか。僕の平穏は必ずつかみ取ってみせるのだ。
何て考えながら、ぐっと手を握ったら神様に変な顔をされた。
「何ですか? 変なものでも見るかのような顔をして」
「いや、急になにを始めたのかと思ってね」
「……そう言えば、心読めなくなってます?」
「仮にも神が相手だからね。簡単じゃないよ」
なるほどなるほど。神様のバーカ、バーカ。
「いや、さすがにそんな顔をされたら推測できるよ」
「そうですね。では、交渉と行きましょう。
なんで願いを叶えてくれないんですか?」
「終末神なんてべん……珍しい神が全く働かないと言うのは、ほかの神から苦情がくるんだよ」
「それは神様が苦情を受ければいいだけではないですか?」
僕には関係ないはずだ。関係ないのだ。
「同格くらいなら突っぱねるけど、上位の神から要請されるとちょっとね……」
「契約神の方はどうなんですか?」
「そっちはほとんどなにもしなくていいよ。フィー君の名前に誓って契約して破ったら、神罰が下るって言うのがメインだから。
何となくやり方分かるんじゃない?」
言われてみると、分からなくもない。
適当に魔力――神力? をたれ流していたら、後は勝手に作用するっぽい。
これくらいなら、微睡みながらでも出来るだろう。
「つまりネックなのは終末神ですね。
願いの1つで辞めさせてください」
「自分の存在を切り取るようなものだから、たぶん神でもすっごく痛いけど良いかい?」
「考え直します!」
神が痛がるとか頭おかしい。
「じゃあ、そうですね。働くのは100年に1回。それ以外は微睡み続けるってことでどうですか?」
「100年ね。うん、いいよ。願いを正しく叶えられなかったお詫びにフィー君が休むための場所も作ってあげよう」
さすが神様気前がいい。ではない。これはやらかした気がする。
もしかして、神様界隈の100年って短い? ルルスと世紀末の話をしたから口にでたのだけれど、世界崩壊が不可逆になったタイミングだって、もうかなり昔のことだ。
それこそ、1000年以上も前の話。ニゲルがあったから、延命していたのはちがいないけれど、神様がそれを気にしている様子はなかった。
つまりそう言うことか。
スケールを間違えた。織り姫と彦星が1年に1回しかあえないのは可哀想と思っているのは、人の感覚だからで、星を基準に考えると年1というのはかなりの頻度であっているみたいなものだ。
「神様質問いいですか?」
「いいけど、契約の神のフィー君が前言を撤回するとか言わないよね?」
「100年経った時に仕事がなかったら、どうなります?」
「そのときは働けないから、お休みだね」
「わかりました」
それならまだ。うん。今崩壊しそうな世界っていくつありますか? と聞くのは止めておこう。
知らなければ幸せなことは絶対にあるはずだから。
一人後悔していると、神様が思い出したように話し出す。
「この世界から救い出した人たちについて、どうなったのか聞かないのかな?」
「聞かないです。聞いてもどうなるわけでもないですから」
「んー、まあ気になれば彼女が教えてくれるか」
「何のことか分かりませんが、最後の願いを言っていいですか?」
「何だい?」
何か不穏なことを言っていた気がするが、まあ別にいいか。
「目覚まし役はルルスにさせてください。知らない人に起こされるとか嫌なので。神様に起こされるのも何か嫌なので」
「結構な物言いだね。だけれど承ったよ。うん、面倒な仕事が一つ増えた」
「それはお疲れさまです」
どこに仕事が増える要素があったのか知らないけれど、とりあえず今から100年は微睡んで良いはずだ。最初の仕事は終わったのだから。
「フィー君が眠る場所は既に作ってあるから。それじゃあ、おやすみ」
「はいおやすみなさい」
今話でとりあえず終わりのつもりでしたが、中立組がどうなったのか気になる人向けに蛇足的にもう一話あります。
ということで、次話で完結です。





