145 ※トパーシオン視点
「そもそもですが、何故世界は崩壊するのでしょうか?」
「……各国が精霊を解放しなかったから、神託を無視したからよね」
「それだと半分正解ってところでしょうか。
わたしは世界を作ったわけではないのでよく分かりませんが、少なくともそれだけならこの世界が崩壊するのはもっと先のこととなっていたでしょう」
そう言われても、わたくしが知っているのはそれだけ。
これで半分とはいったいどういうことなのか。
「亜神としてこの世界を巡っているときに、王族と呼ばれる人たちと話す機会があったのですが、どうにも精霊を使って正しく世界を運営していたと思っているみたいなんですよね」
「だけれどそうではなかった。精霊は弱り、消滅の危機にあった。違うかしら?」
「それだけだとやはり半分です」
なにが違うというのだろうか。
精霊が弱ったからこそ世界が崩壊するのではないのか?
精霊を解放しないことで、精霊が弱り、世界の崩壊につながったということではないのか?
「おそらくですが、精霊が弱っていたことと世界崩壊は直接関係はしません。精霊の消滅がイコールで世界崩壊には結びつきません。
そうでないと今世界が崩壊するのはおかしいですからね」
「確かにそうね」
世界崩壊の兆候が出始めたとき、少なくともこの世界にニゲルの精霊はいたはず。加えて魔王が連れていた精霊もいた。
そして精霊が全ていなくなった今もまだ世界は存在している。
フィーニスが連れていた精霊がいるけれど、そもそもフィーニスへの指令は世界が崩壊するから精霊を回収すること。
精霊の回収≒精霊の消失が世界崩壊に関係ないと言うことになる。
「ですので、本当に世界の調整を行えていたので有れば、精霊が弱ろうと世界崩壊にはなりません」
「わたくし達は誰一人として正しく行えていなかったということかしら?」
「そうです。たかが人ごときが出来ると思っている方が烏滸がましいですね」
反論したいが、言い返す言葉がない。
表面上は世界を管理してきたはずだ。だけれど、人では気づかない部分で何かが進行していたとすれば、すくなくともフラーウスでは行えていなかったと言える。
「それに世界崩壊が確定したのは、遙か昔。最後の神託が行われた少し後です。以降はいかにその時間をのばせるのか、と言う話でした。
思ったよりもこの世界が保っていたのは、たぶんニゲルがあったからなんでしょうね。
そして本来はもうしばらく保つはずでした。人にとっては長い時間も世界からすれば瞬く間。それこそ1000年規模で考えても世界にとっては短い時間です。
具体的に言えば、人族だと後何世代かは保ったんじゃないでしょうか?」
「なにが言いたいのかしら?」
世界が今滅ぶわけではなかった。
だけれど、何かがあったからこそ、早まった。
フィーニスはすぐには結論を話さず、会話を楽しむようにもしくは暇をつぶすように、回りくどく話す。
「この世界には魔王と呼ばれる存在が、たびたび現れていましたよね?
そもそも魔王って何でしょうか?」
「人に仇なす人々共通の敵よ」
「人目線だとそれで間違いないでしょう。特にこの世界だとそのようにしか存在していなかったですからね」
「つまり、神目線だと違うのかしら?」
「神というか、世界ですね。神目線でも違いますけど」
魔王は人の敵。それは子供でも知っていることで、長い歴史の中で代わらず続いてきている常識のはずだ。
だけれど、フィーニスはその常識を壊しにかかる。
「魔王は神々の間では、ズィゴスと言うそうです。その役割は世界を壊しかねない存在の排除、と言ったところでしょうか。
この世界では、それが人だった。それだけの話です」
だとすれば、その理由はやはり精霊を捕らえていたことになると思うのだけれど。
「ですから、正確には魔王の目的は、精霊を解放することでした。
今回はもう解放しても意味がないと言うか、世界の八つ当たりのようなものですから違っていますが」
「魔王を倒したことが世界の崩壊につながったとでも言いたいのかしら?」
「いえ。倒すこと自体が悪かったとは言いません。問題はそのやり方です」
「まさか!」
ここまで言われて気がつかないほど鈍くはない。
だけれど、理解することを頭が拒否している。
知りたくない、聞きたくない。そう言う前に、無慈悲にもフィーニスの声が聞こえた。
「勇者召喚。他の世界の存在を無理矢理連れてくるなんてことをしておいて、世界に負担がかからないと思いますか?
勇者召喚を行うことで、世界にダメージが蓄積していきます。
ですが、それをどうにか出来る精霊は誰かさん達が捕らえてしまっていました。
そうして世界崩壊の足音が近づいてきたわけです。
最後の神託の時に不可逆のところまで来てしまったわけですね。
わたしは創造神ではありませんから、細かいところまでは分かりませんが、無理矢理精霊から力を引き出して世界に使っていたことも負担になっていたのかもしれません。
ともかくそんな状況の中で25人も召喚してしまえば、どうなるかは言わずもがなですね」
言外にわたくしが世界崩壊を早めたのだと言っているのがわかる。
だけれどそれは、さっき気がついてしまったこと。
わたくしの判断、わたくしの行動のせいで民達を死に追いやろうとしている。
大を助けるための小ではなく、全て、全て、全て。
今日まで積み上げてきたフラーウスの民の功績から、今を生きる民の命まで。
わたくしのせいで死に追いやろうとしている。
後の世ではなく、おそらくはそう遠くない未来。
わたくしはわたくしの行いの果てを見る。いえ、きっと果てを見る前に死んでしまうのだろう。
「ここまで早まったのは、その後でカエルレウスも召喚したのもありますが、それが無くても季節が20回巡るかどうかって感じだったみたいですね」
フィーニスの言葉が右から左へと流れていく。
どうであったにしても、この世界の終わりにわたくしが関与してしまったのだから。
だけれど、ならばこそ、わたくしの心は決まった。





