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143 ※トパーシオン視点

 どれほどの時間が過ぎたのだろう。

 なにもないこの牢では、時間の流れが分からない。

 牢番はいるが、食事が運ばれてくることはない。


 それともまだ、食事が運ばれてくるような時間ではないのか。


 牢番もやる気がないと言うことはなく、わたくしが逃げ出さないようにしっかりと目を光らせているので逃げられそうにはない。

 そしてやはり、声をかけても反応してくれない。

 せめて、せめて。フラーウスの状況だけは聞きたかったのに。


 結構な時間が過ぎた気がするけれど、不思議と空腹にはならないし、眠くもならない。

 牢番は休憩のためか、既に何度か代わっている。

 牢屋での時間は、ただ王族として、取り乱さないことだけを要求されているようだった。


 そう思っていたら、不意に牢番がバタリと倒れた。

 何事かと思ったら、なにもなかったはずの場所から、人の形をしたモノが現れる。

 その造形が神を思わせるほどに整っている少女。いえ本当に神になったと言っていたわね。


「惨めなわたくしを笑いにきたのかしら?」

「いえいえ、最期になるでしょうからお話でもしようと思いまして。

 明日以降はどうも、話せそうにない様なんですよ」


 突然現れたフィーニスは、事も無げにそんなことを言う。

 マコトが死ぬ原因を作ったはずの人物であり、平和に暮らしていただろう世界から無理矢理連れてきた元凶であるはずのわたくしが、こうやって捕まっているのに、本音でそんなことを言っているらしい。


 それはそれで思うこともある。


 いっそ、指を差されて笑われた方が、マシだとさえ思う。

 だけれど、彼女はおそらくこの国で唯一わたくしとまともに会話してくれる存在だと言うことも想像に難くない。

 だから邪険にはできない。


「わたくしが話せることなんてなにも無いわ」

「でしょうね。今の貴女は流されるままに捕まっただけの人ですから。

 このままだと、本当になにも知らずに殺されてしまうでしょうから、答えられる限り何でも話してあげようかと思いまして。

 という、建前ですが、単に暇つぶしにきただけです」

「本当……みたいね」


 ひまつぶしにこんなところまで来るなんて、なにを考えているのだと思わなくもないけれど、相手は既に人ではない。

 神であることを今更疑うことはしない。

 いえ、神であろうと無かろうと、もう彼女以外から真実を聞く術はないのだから、業腹でも利用しない手はないのだ。


「さて、なにから聞きますか?

 時間が許す限り何でも答えてあげますよ。ですが、何でも話してしまいそうなので、尋ね方は気をつけた方が良いかもしれません。

 聞かなかった方が良かったモノまで、聞いてしまうかもしれませんからね」


 冗談でも言うかのごとくフィーニスが言うけれど、今のわたくしに聞かない方が良かったなんてことはないと思う。

 世界の崩壊の確実性、王族の死、無くなったフラーウス、話すらさせてくれない国民達。

 これ以上になにを聞かなければ良かったというのだろうか。


「そうね。まずは貴女について教えてくれるかしら?」

「そうですね。何故わたしが()()()()()になったのか、どういう経緯があるのかってのは知らないでしょうからね。


 ですが、そんなに複雑なことはないですよ。市成に殺されて、一緒にきた人たちがフラーウス王国の奴隷となることが確定しました。

 死ぬ直前でしたが、それを確信したと言い換えることも出来ます」

「そうね。それはわかるわ」


 マコトが死ぬ直前に察したのは、もしかしたらわたくしの表情のせいかもしれない。あのときには気を抜いていたとはっきり言うことが出来る。

 だけれど、あのタイミングでマコトに知られたとして、どうにかなるものではない。普通であれば。


「それで復讐はできたかなと、満足して死んだんですが、そのせいで神様に拾われたんですよ。

 世界が崩壊する前に精霊を回収して来いって感じです。

 わたしが選ばれた理由は、この世界に対して執着していないから、変なことしないだろうってところらしいです。強大な力を与えるのに、私欲に走られたら困るとかなんですかね?


 と、言うわけで、曲がりなりにも満足して死んだわけですので、わたしも本当は生き返りたくなかったんですよ。

 その点お互い災難でしたね」


 本音で言っているのだと分かる当たり、何とも言えない感情がわき上がってくる。


「散々邪魔をしておいて、どの口が言うのかしらね」

「それは単純にそちらの目的とわたしの目的が競合したからですよ。

 精霊を狙わなければ、ぶつかることはなかった。違いますか?」


 そんなこと言われずとも分かっている。

 ただやるせない思いを誤魔化したかっただけだ。

 マコトがフィーニスとして蘇った時点で、わたくしの計画は破綻していた。

 いえ世界の崩壊を考えると、わたくしが生まれたときから破綻していたと言っていいかもしれない。


 それに普通人が超常的存在として蘇ることを加味して、計画を立てるなんてことはしない。

 ここにいたっては、運が悪かったと諦めるしかないだろう。


「まあ、勇者達には思うところの1つくらいありましたので、遊んだのは否定しませんけどね。

 今のこの状況も、わたしはなにもしていません。なるべくしてなったと言って良いでしょう」


 聞かなければ良かったこと。つまりは今のわたくしの状況は、超常であるフィーニスの仕業ではなく、わたくしの自業自得であると言うことか。

 確かにフィーニスのせいだと言われたのであれば、多少の諦めがついたのかもしれない。


 だけれど、フィーニスのせいだとは元々考えていなかった。

 だから痛くもかゆくもない。


「本当にわたくしは災難だったようね。

 それで今のフラーウスはどうなっているのかしら?」


 フィーニスが何者か、これ自体は興味本位であり、彼女がどれだけ真実を話す気なのかを探る目的だったのだけれど、おそらくフィーニスはすべてを嘘偽り無く答えるつもりなのが分かった。

 どうせ死ぬわたくしになにを言っても同じと言うことなのだろう。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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