表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/197

138

 虫の鳴き声、もとい市成の狂ったような笑い声が聞こえる。

 何故? とは思ったけれど、そう言えば市成は強さに固執しているところがあった。

 戦いの中で強くなって、強さこそが自分のアイデンティティーとでも認識していたのだろう。


 実際強さで見れば、通常時なら誰も市成に勝てなかっただろうし。


 それなのにステータスによる補強がなくなり、スキルも消え、残ったのは一般男子高校生。

 一般と呼ぶにはその手は血にまみれているけれど。

 何だったら、僕よりも人を殺しているので、まだ僕の方が一般男子高校生に戻れそうだ。


 ……。いや、もう女子高生になるのだろうか?


「あれ良いの?」

「原因はそちらにあると思うんですが、別にいいんじゃないですか?」


 狂ったような、悲鳴のような笑い声を喉が潰れんばかりに出し続けている市成をみたズィゴスさんが、困ったような顔で尋ねてくる。

 だけれど、僕としてはこのまま放って置いて良いかなと思うのだ。

 何せここは魔族の王都のど真ん中。フラーウス軍が常勝していた要因の勇者達は実質全滅した。


 その状況で全滅は無理だろうし、魔族の生き残りがいるだろう。市成の処遇はその人達に任せるのが良いと思う。女王を殺した相手なのだから。


 それはそれとして、世界もかなり無茶をしてくれたようだ。

 自分の因子を破壊する能力を作り出すなんて、自分で自分を壊しているようなものではないか。

 それだけ追いつめられたというか、あきらめがついたというか、開き直ったのだろうけれど。


 そもそも世界がそこまで意識を持っているのか知らないけれど。


 でもまあ、そんなことをすれば世界の寿命が一気に減るのもうなずける。

 世界が自殺を図っていたのだから。

 自分が死ぬことよりも、復讐することを優先した結果だろう。まるで何処かの誰かのようだ。


 そんなことをすると、妙な上司に捕まって、良いように使われるようになるぞ。

 神様はわりと待遇はいいと思うけれど。基本は自由にしているし。


「そうかい。じゃあ、放置しておこう。僕としても、彼の中の因子が消えたから別になにかするつもりもないし」

「じゃあ、帰ってくれませんか? それとも世界が崩壊するまで戦い続けますか? それでも決着が付かないと思いますが」


 こちらは素手で殴り続けて、攻撃を避け続けるだけ。

 今の僕であれば、10年とか戦っていても、その精度が下がることはないだろう。

 でも素殴りだと、倒すのに年単位かかるのは間違いなく、それだと世界は崩壊している。


「それよりも早く、僕の剣が届くと思うけどね」

「それは否定できないですね」

「あと今の僕は、あくまで魔王だから。正々堂々戦うとは思わないことだよ」


 そう言ってズィゴスさんが見る方向を変えた。

 それから、間を入れずに飛び出す。

 狙いはルルスか、女王達か。

 んー、ルルスは簡単に倒せない、と印象づけたかったのだけれどばればれだったらしい。


 ルルスはたぶん、もう一撃もズィゴスの攻撃には耐えられない。

 この世界特効の大剣は受け付けずとも、通常攻撃ではダメージが入るし、ルルスの強さはスキルを使っていない市成よりも少し下くらいだと思う。

 つまりズィゴスさんが普通に強い。


 精霊だから怪我で死ぬとかいうわけでもないし、分かりにくいから困りものだ。

 だから一応護衛という名目で休ませていたのだけれど、参ったね。


 僕はズィゴスさんの通常攻撃なら受け止められるけれど、この世界特効大剣は無理。間違いなくステータスとスキルが消えるだろう。

 ルルスとの間に割り込んで、普通の大剣だけ弾いて、能力付きの方は避ける。理屈としてはこうだけれど、果たしてできるだろうか。


 やるしかないのだけれど。


 なんだかんだ、ルルスには助けられているし、最初の一撃でルルスがかばってくれなかったら、すでに切られていただろうし。

 保険はあるし。その後は分からないけれど。

 創造神だけは嫌だなぁ……。


『予定外ではありますが、よろしくお願いしますね』

『はいはい。今日までお疲れ。話はまた後で』


 神様とそんな感じでやりとりをして、ズィゴスさんの攻撃に割り込みに行く。

 そんな僕を見たズィゴスさんが、ニヤリと笑った。

 何もいっていないけれど、台詞があるとしたら「来ると思っていたよ」とかだろうか。


 そうしてルルスは驚いている。

 何故来たんだと非難の目を向けられているような気がする。


 割り込んだ段階でルルスに押されたけれど、残念。ルルス程度に押されてかばわれるほど、僕は柔ではないのでだ。

 これ相手がズィゴスさんだったら、押されていたのかね?


 なんて考えつつ、ルルスを狙った一撃目を弾く。

 能力の乗っていないこの剣は、本当にただの剣だったらしく、簡単に砕けてしまった。


 次いで二撃目。よくもまあ、そんな体勢から動けるものだと感心するけれど、これは「勇者」を使えば簡単に避けられるだろうと思っていた。

 思っていたのだけれど、二撃目は寸分の狂いもなくトパーシオン王女の方に向かっていた。


 うへぇ……。器用すぎない?

 これ、僕が受けるしかなくない?

 ズィゴスさんを見たらなんだか良い笑顔だし。してやったりって感じ?


 なんてわるいやつなんだ。


 はいはい。ここは負けにしておいてあげますよ。

 水精霊を送った時点で、僕の仕事は終わっているし。そこから先は蛇足と言えば蛇足だし。


 大剣の前に再び躍り出る。

 悪足掻きもかねて、適当に堅い盾で受けてみたけれど、豆腐でも切るかのように意味がなかった。

 蒟蒻にしておけば良かったかな?


 その程度で勢いが落ちることもなく、世界の怒りが僕を切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
mgfn4kzzfs7y4migblzdwd2gt6w_1cq8_hm_ow_58iu.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ