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14

 二人はなぜか、イノシシ肉を勢いよく食べていた。

 お城でもっと良いものを食べさせてもらっていただろうに。

 もしかして、お金ないのだろうか。まぁ、良いか。


「で、ここのおじさんと仲がいいって話ですが、ここで出している肉を狩っているのが僕ってだけです」

「狩りできるのかい?」

「二人の方ができるのでは? コレギウムで聞きましたよ。年齢の割にステータスが高い男女が冒険者になったって」

「倒せなくはないけど、解体がね」

「そうですか。大変ですね」


 確かにこの間まで日本で高校生していた二人に、動物の解体は難易度が高いかもしれない。

 僕も高校生だったけど。


「では、話を戻しましょう。僕は誰かという話でしたね」


 うむ。この二人ならわかってくれるかもしれない。

 僕の女児向けアニメ風自己紹介を。

 しつこいと思われそうだけれど、こっちにだって意地があるのだ。


「わたしはフィーニス。14歳……」





 意地の張りどころは考えなくてはいけない。

 そもそも、そのことは意地を通すだけの意味があるのかを、考えないといけない。

 目の前でぽかんとしている藤原を見ていると、そんなことが頭をよぎった。


 あ、でも、文月はなんだか笑いそうな顔して耐えている。


「えっと」

「と、言うわけです。そういうことになっています」


 こちらは詮索をしないのだから、そちらも詮索をするなと言う意思を込めてちょっとだけ迫力を出して伝えると、藤原が額に汗をためて「はい」とうなずいた。


「ま、邪魔しなければ、こちらも何かするつもりはありませんから」

「フィーニスちゃんは……」

「フィーニス」

「なんで? お店の人ちゃん付けしてたよね?」

「ミチヒサにちゃん付けされるとどう言うわけか、鳥肌が立ちます」


 うん。これは嘘じゃない。だからがっくりとうなだれられても困る。

 何なら藤原もたいして仲良くなかった男子のクラスメイトに、道久ちゃんと呼ばれればいい。

 いっそ頭の中では呼んでやろうか、道久ちゃん。


 面倒臭いからやめておこう。


「あ、あ、あの。フィーニスちゃんは、ずっとこの町にいるの?」

「とりあえず、フラーウスの王都にいこうかなと思ってますよ。

 どう行ったらいいのかわかりませんけど」

「どうして、王都なんかに?」

「どうしても、こうしても、王都が一番栄えているからに決まっているじゃないですか。一般町娘の憧れですよ?」


 特に何かしたいわけじゃないけれど、都会に行ってみたいと思う人は多いと思う。

 特にこの世界は、精霊の力で中心部の方が栄えているのだ。


 むしろ文月みたいなことを言う方がマイノリティ。


「そ、そうだよね。よかったら、道教えてあげようか?」

「二人は王都から来たんですね」

「うん。だいたい5日くらいかかったよ」


 5日というと……移動方法にもよるのか。

 1日の移動時間とかもあるし。途中に町とか有るのかもわからない。


「5日……確かに5日か、ははは、うん、そうだね、……くふふ」


 なぜか藤原が笑い出した。

 そして何を思い出したのか、文月が顔を真っ赤に染める。


「5日なのは間違いないよ。ちょっと、走り続けていただけで……」

「そろそろ話を戻してもらって良いですか?」


 何かしら突飛な方法を使ってきたのはわかった。


「あ、うん。ごめんね。王都はここから東の方。東門を出て、道にそっていけばつくよ。

 えっと、町には寄らずに、あたし達の足で毎日走って5日くらいなんだけど……」

「まあ、参考くらいにはさせてもらいます」


 何やっているのだろう、この二人。

 城から抜け出してきたなら、一文無しだから町に入れなかったとしてもだ。

 食べ物とかどうしたんだろうか。


「町に寄らずにってお金なかったんですか?

 それなら、王都で冒険者になって、ランクを上げてから移動すればよかったと思うんですけど」

「俺たちは急いでこの国から出たくてね。というか、王都から少しでも早く離れたくてね。国境近くのこの町までやって来たんだ」

「で、越えられなかったんですね、国境」

「冒険者になるのが、一般人には近道みたいだからね。

 ここで冒険者になって、今はギル……コレギウム・どぅちぇす? に認めてもらえるように、活動しようとしているんだよ」


 言いにくいよね。コレギウム・ドゥチェス。コレギウム・ヴェナトもなかなか。

 まあ、嘘は言っていないかなって感じ。

 食料は文月の『鑑定』があれば、食べられる木の実とか野草とかわかりそうだし、薬草なんかも簡単にてにはいりそうだから、門番と交渉して先に町の中に入れてもらって換金っていうこともできるだろう。


 で、噂によれば実戦を経験する前に、訓練しているのだとか。


 訓練場有るしね。職員の元冒険者が喜んで相手をしているらしいよ。

 新人が訓練を蔑ろにするらしいから、貴重な存在だって。


「どこか行きたい国でもあるんですか?」

「とりあえず、国境を越えたアクィルスにいこうかなって。

 その後、アクィルスの南にあるカエルレウスに船で行って、そこからフラーウスの南の海を渡って、東にあるルベル。ルベルの北にあるウィリディスまでいけたらなって思ってるよ」

「世界一周するんですね」

「うん。武者修行って奴かな」


 世界一周なんてそれこそ、道楽か武者修行くらいなものだろう。

 あくまでも、この世界基準で考えればだけれど。

 でも勇者である2人には、別の理由があるかもしれない。僕と敵対しないことを祈っておこう。


 それにしても、良い話は聞けた。

 精霊を中心に国が6つ。フラーウスのほかに、4つも出てきた上に、ある程度位置関係もわかった。

 この世界には、地図がない――少なくとも一般には――ので、そもそも国名すら日常会話に出てこない。


 正直会話の流れ次第では、何か地名らしきものが出たときに、それが町の名前なのか、国の名前なのかわからない。

 ということで、思いがけない遭遇ではあったけれど、想像以上にリターンは大きかった。


 一国のお城ともなれば、地図くらいあるのかもしれないし、藤原は『隠密』だしで、結構いろいろ知っているのかもしれない。

 今後、また何かあれば教えてもらおう。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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