132 ※トパーシオン視点
何とか出来る可能性に賭けて、タカトシが回復するための時間稼ぎをするためにフィーニスとの会話に臨んだのだけれど、その会話内容にわたくしは表情を見せないだけで精一杯だった。
最初は否定材料が多かったからよかったものの、追加されていく情報に彼女がマコトであり、本当に神の使いであるのではないかという可能性がわたくしの中で高まっていく。
先日の未曽有の災害。最強であるはずのタカトシよりも高い戦闘力を有した少女。
世界崩壊の可能性、それはわたくしが生まれるよりも前からずっと言われ続けていることではある。
そのため陳腐化され、ただの虚言だと父王含め各国の王族ですら認めていたことだろう。
そもそも世界崩壊が騒がれたのは、神がそのように神託を下したからだ。
だけれど、それは遠い遠い昔の話。本当に世界が崩壊するのであれば、すでに世界はないのだろうと言われていた。
しかし、近年の精霊の衰弱や先の災害。緩やかに衰退している世界の様子は、世界崩壊に向かっていたのではないかと言われると否定はできない。
それを認めることはできないけれど。
世界が崩壊するという事は、守るべき国を失うことが確定したという事。
それを認めてしまえば、国あってこその王族。それを失う前提で行動することはできない。
わたくし達は、今後も国が続いていくことを信じて行動するしかない。
思うところはすべて飲み込み、王族として、毅然とした態度で居なければならない。
加えてフィーニスは勇者達の寿命の話まで始めた。
知られたところで、奴隷として命令すればいいだけの話なのだけれど、自主的に動いてくれる人がいなくなると都度こちらが命令しないといけなくなる。
それを避けるために否定はしたけれど、動揺があるのは間違いない。
全ての話が嘘だとしても、精霊を手に入れるには彼女を倒す以外の方法はないだろう。
彼女の相手をしながら、精霊だけ掠め取るのは現実的ではない。
あり得ないほどの強さをどうにかする方法なら思いついた。
だけれど、それを実行するにはリスクが高すぎる。
上手く行けばいいが、行かなかった場合には再起を図ることもできなくなりそうだ。
どうするべきかと、無意識に奥歯をかみしめていたら、背後で悲鳴が上がった。
何事かと視線を移すと、タカトシがヒカリを切って捨てていた。
何が起こったのかわからなかった。
勇者同士の殺しはご法度。奴隷への命令として徹底していたはずなのだ。
それなのに、タカトシがヒカリを殺している。
確かにフィーニスを倒す方法としては、勇者の数を減らしたうえで、ステータスを上げられるタカトシが戦う事が最も可能性が高いと言える。
分かってはいるけれど、それを実行するように命令はしていない。
そうしている間に、勇者達が減っていく。
悲鳴が聞こえ、血しぶきが舞う。
勇者達の表情は恐怖で固まり、逃げまどう。
しかし、逃げてもタカトシの速度には勝てずに、背中を切られる。
即死出来ればまだましな方。
背中を切られ、足を切られ、それでも生きているのであれば、そのまま放置され呻き続ける。
まるで戦場。いえ、間違いなくここは戦場ではあったのだけれど。
今更だけれど、止めるべきだろうか?
いや、止めたところでどうなる問題でもない、ここで失敗すれば次回があるかもわからないのだ。
だとしたら、タカトシにフィーニスを倒してもらったほうが良い。
問題はなぜタカトシが命令を無視して、勇者達を殺しているのかという事。
それから、フィーニスが動こうとしない事。
この惨劇を退屈な劇でも見るかのように、白けた視線を送っている。
後者に関してはともかく、前者についてはすぐに答えが出る。
「タカトシ、止めなさい」
命令をしてみるが、タカトシの動きは止まらない。
つまり、何らかの方法で指輪の呪縛から逃れたか。
考えられるのは、フィーニスに対してタカトシがスキルを使った時。上昇したステータスに、指輪が耐えられなかったのかもしれない。
そんな話を聞いたことはないけれど、可能性は十分にある。
タカトシの強さは今までの勇者の中でも最高クラス。そのレベルに奴隷の指輪をしたことはないのだから。
ここにきて、思い通りにならないことが多すぎる。
今のタカトシを操るには、相応の待遇を与えなければならないだろう。
少し前までのタカトシならともかく、今のタカトシなら乗っかってくるはず。
わたくしの命が欲しいのであれば、差し出すのも構わない。
最後の一人が無残に殺されたところで、ようやくタカトシの動きが止まった。
それから、ニィ……と邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、わたくしをその視界に捉える。
目が合い、嫌な汗が背中を流れる。
この可能性を考えていなかったと言えば嘘になる。
わたくしが勇者達に恨まれていることは想像に難くはなく、はるかに格上の彼らに命令を下すことができていたのは奴隷としていたから。
その呪縛が解かれたら、彼がわたくしに牙をむく可能性はあった。
だけれど、これもまた王族の務め。わたくしを殺しそれでその力がフラーウスに向けられなくなるのであれば、わたくしの命くらいは軽い。
せめてソテルがわたくしをかばうことがなければいいのだけれど、避けられない速度でタカトシが迫りわたくしもここまでかと目を瞑ったけれど、わたくしの身体がその狂刃に貫かれることはなかった。
何かと思い目を開けると、なぜだかフィーニスがわたくしを守るようにタカトシの剣を受け止めていた。





