131 ※市成視点
「作り話が上手みたいね」
「それなら、わたしの強さはどう説明するつもりですか?」
「何かカラクリがあるに違いないわ」
それだ。オレが通山に後れを取ったのは、何かしらカラクリがあったからに違いない。
正面から戦って、オレが負けるわけがないのだから。
ここで通山の――フィーニスの強さの秘密を探り出すことができれば、弱点を知ることができれば、フィーニスを殺すのはたやすくなるだろう。
聞き出す役目は王女に任せたほうが良い。頼りすぎるのは癪だが、こういったときに王女の方がオレよりも有能なことは分かっている。
とりあえず今は大人しく従っておくことにする。
今は憎き通山を殺すことが何より大事なのだから。
「カラクリ……まあ、カラクリと言えばカラクリですね。
わたしのステータスは、わたしと一緒にこの世界に召喚された勇者達のステータスを合計したものになっています。つまり貴方達24人+αのステータスと言ったところでしょうか。
加えて勇者達が成長すると、同じようにわたしも成長します。
わたしと戦うという事は、勇者全員と同時に戦うようなものだと思ってください……と言いたいところですが、それよりも上でしょうね」
待て、待て、待て。
だとしたら、今のオレとどれだけ差がある?
幸いオレは勇者の中で最もステータスが高い。圧倒的だといっていいだろう。
だから奴が言っていることが事実だとしても、オレのステータスの25倍ということはない。
クラスメイトのステータスを全て知っているわけではないが、まだ平均150に達していないのも居るはずだ。
だとして、ステータスはオレの10倍程度と考えて良い。
だが……待てよ?
奴は何と言った? オレ達のステータスを合計したものだといったよな?
何か突破口が開けそうだと思っていたところで、奴が声を少し大きくして、おそらくオレ達の後ろにいるクラスメイト達にも聞こえるように話を続ける。
「寿命を削ってまで伸ばしたステータスをわたしにも譲っていただき、ありがとうございます」
「適当なことを言わないでくれるかしら?」
王女がフィーニスの言葉にかぶせるように、苛立った声を出す。
が、どういうことだ?
寿命を削って伸ばしたステータス?
ふとクラスメイト達を見ると、ポカンとしている奴もいるが、月原なんか察しが良い奴らは顔を青くしてフィーニスを見ていた。
……オレも思い当たる節くらいある。
磔馬の死に際だ。
原因不明の死は、得体のしれない死は、寿命が来たという事だったのではないだろうか?
だが気になる点もある。今のオレはあの時の磔馬の数倍は強い。
それなのに、何の兆候もない。
だとしたら、本当に王女の言う通り適当なことを言っているのだろうか?
万が一、フィーニスの言っていることが本当なら、オレはあとどれだけ生きられる?
そもそもこの強さ無しに今のオレはあり得ない。通山の言うことを信じるのも癪だ。
「とは言っても、世界が崩壊する方が早いと思いますから、そんなに気にしなくていいと思いますよ」
そう言って、フィーニスがクスクスと笑う。
これが通山だと思うと、非常にムカつく。
耳障りだ。いろいろ言って、こちらを混乱させたいだけなんじゃないか?
いいや、もうそれでいい。殺してしまえば問題ないのだ。
奴を攻略する算段も付いている。
それを実行することもできる。
今はもう王女の命令も聞く必要はない。
これ以上、あいつの戯言を聞かないためだ、皆許してくれるだろう。
オレが最強であるためだ、皆分かってくれるだろう。
身体もだいぶ動くようになってきた。
それなら後は動くだけだ。
皆がフィーニスにくぎ付けになっている今しかない。
勇者のステータスの合計になるというのであれば、勇者の数を減らせばいい。
そうしたらきっと、連動して奴のステータスも下がるだろう。
あとはスキルを使って、ボロボロにしてやろう。
ああ、そうだ。オレが"勇者"なのだから、文句を言うやつはいないはずだ。
いや、文句を言うやつがいたら、それは強者に、"勇者"に、逆らう愚か者だ。
オレは背後にいるクラスメイト達に目を向ける。
最初に狙うのは月原か?
いや、回復役を潰すのが定石か。
ならば狙うのは山辺だ。
まだ軋む身体に鞭打って、走り出す。
全力とは言えないけれど、十分な速さで山辺の首を切り落とそうと剣を振り切ろうとした瞬間、オレと山辺の間に何かが割り込んできた。
いったい誰だと思ったら、月原が山辺をかばっていた。
憎々しげにオレを見て、自分の身体を見て、深い切り口に自分が助からないと悟るともごもごと月原の口が動いた。
何かを言おうとしたらしいけれど、声が出なかったらしい。
最後に指輪のないオレの指を見て何か納得したような顔をして力尽きた。





