128 ※トパーシオン視点
わたくし達が先行するタカトシに追いついた時、想定されていた魔王との決戦はすでに終わっていた。魔王――魔族の王の強さは並ではなく、勇者が数人でようやく倒せるものと思っていたので、思わぬ計算違いは、思わぬ勇者の成長はそれを支配するわたくし達にとっては追い風だろう。
「良くやってくれたわ」
「魔王はオレが倒した。それがどういうことか、わかるよな? 王女様よ」
労いの言葉に対して、タカトシが以前にもましてなっていない言葉遣いで返す。
魔族の王を単独で倒す戦力に対して、王族も下手なことができないことを知っているのだろう。
だからと言って、こちらも何もできないわけではない。
最悪その内側を壊して、外側のみを使うという事もできるのだ。
しかしわたくしは有能な道具は嫌いではない。
だから今回と同じ働きをするのであれば、多少の無礼は許しましょう。
どう足掻いても、王族に逆らうことはできないのだから。
「ええ、フラーウスに戻ったら待遇の改善を約束するわ。
今後も積極的に戦力となるつもりがあるのであれば、だけれど」
「話が分かるな」
これだけで満足であるのならば、タカトシも所詮その程度という事だ。
それともこちらの怒りを買わないラインを探っているのだろうか?
そんなことよりも、フラーウスの一応の勝利を伝えなければならない。
ニゲル軍――というより、民全体――の士気を下げることもできるし、こちらの士気を上げることもできる。
その首を掲げていけば、虚言だと取り合わないこともないだろう。
「小隊長。この首を持ち全軍に報告を。我らフラーウス軍はニゲル女王を打倒し、この戦争に勝利したわ。
あとは残った憎き魔族を狩りつくしなさい」
「はっ!」
「それから、王を討ったのがタカトシという事も忘れずに伝えて頂戴」
「かしこまりました」
護衛として勇者の一部と一緒に来ていた小隊に命令を出し、この場に勇者とソテル以外誰もいない状態にする。
タカトシの様子を見る限り、下手なことを口走りかねない。
民の前では、あくまでも勇者として扱わなければ、いらぬ不興を買うかもしれない。
「わたくしとソテル、あとは「勇者」とお供、それからトウキチは今からニゲル城に入るわ。残るもの達は、城に誰も入れないように警護なさい」
命令を出してソテルを含めた数人を連れて城に入る。
外見はそれなりだったが、内装についてはフラーウスと比べると一枚も二枚も落ちる。
所詮は魔族の城と言うわけだ。
ついてきた勇者達には無駄口を叩かないように命じて、とにかく不測の事態に備えさせる。
城というのは全く同じというわけではなくても、だいたいが同じになるものだ。
ニゲルの城も根っこのところは変わらない。
だから歩き回れば、不自然なところが見えてくる。
広い城の中心部に、入ることの出来ない空間が存在していた。
と言うことは、このあたりに何か魔法具が存在しているのだろう。
「トウキチ、このあたりに魔法具はあるかしら?」
「そ、それです」
廊下にかけられた顔のない人物が書かれた絵。いくつもの装飾品を身につけているが、その指輪にはなぜかあるはずの宝石が無かった。
その隣に置かれた、1つの宝石。見たことがないこれは、おそらく精霊の間への鍵だろう。
「あけられるわね?」
「やってみます」
トウキチが宝石を手に取り、絵の指輪に併せて宝石をくっつける。
そうしている間に、勇者達を盾に出来るように、わたくしは距離をとる。
さすがにこれだけ怪しいのに無邪気に待つなんて出来ない。
怪しすぎる。トウキチが動いた以上、魔法具に何か細工がなされていることはないだろう。
だとしたら、道が開いた瞬間に何かがあるか、是非招き入れたい何かがあるのか。
女王が気を利かせておいておいたという事はないだろう。
しかし、トウキチの手の宝石が絵に吸い込まれ、廊下の壁だったものが横にずれて道が現れても、何も起こらなかった。
奥に何かが待っているという事か。
「行くわよ」
タカトシを先行させ、その後ろを明かりをつけてついて行く。
現れた道は真っ暗で、魔法で明かりを作らなければ、自分の手すら見えないだろう。
おそらくここにいるのは闇の精霊。そのためにはこの暗闇が必要というわけか。厄介ね。
道は一本だけ。迷うことなく歩くと、すぐに最奥に到着した。
フラーウスにもあった精霊を入れておく為の魔法具。その中には精霊が居て、淡い光を放っているはずなのだけれど……。
わたくし達がたどり着いたとき、その魔法具の中には何も居なかった。
代わりに魔法具の前に一人の少女が立っている。
そして、その少女の傍らには、精霊とおぼしき輝きがふわふわと浮いていた。
「ようやく……いえ、思ったよりも早くきましたね。
キャフィクス女王はそれなりに強かったと思うんですが」
魔法具の前の少女は、わたくし達の来訪を知っていたかのように平坦に高い少女の声で話しかけてくる。
言葉から察するに、わたくし達を招き入れたのも彼女と言うことになるだろう。
光に照らされた彼女の種族はエルフのように見える。
少なくとも魔族らしい特徴はない。
それなのに、どうしてここにいるのか。
なぜ精霊を奪おうとしているのか。確かウィリディスも精霊を無くしたと言う情報があった。だとしたら、エルフ国からの送られてきた盗人か。
でも……そうだとしたら、招き入れる理由がない。
「貴女は何者かしら?」
「わたしはフィーニス。神の使いであり、神の力の一端を持つものです」
フィーニスを名乗る少女は、そういうと頭を下げた。





