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127 ※市成視点

 迫る、迫る。全方位から黒い魔法が迫ってくる。

 それを全て手に持った光の剣で薙ぎ払っていく。

 最初は調子が良かった。一振りで何十もの魔法を無効化している手ごたえがあった。

 それなのに、今は一振りで十数程度しか無効化できていないような気がする。


 見れば剣の光が、だいぶ陰っているのが分かった。


 ッチ、考えが外れていたらしい。

 光は闇に強い。だが逆に闇も光に強いのだ。

 いかに「光の使者」のスキルを使って作り上げた光の剣でも、こうも闇魔法を受け続ければ陰りが生まれる。

 このままでは剣は役立たずになってしまうだろう。


 だとすれば、障壁を作るしかない。

 障壁で身を守るなんて、勇者っぽくないが仕方がない。

 剣を振り回しながら、自分の周りに光の障壁を展開する。


 出来た障壁は、闇魔法をことごとく無効化していくが、その数が多くなるごとにやはり陰っていく。

 結構な魔力を消費してしまうが、次に備えて光の剣の再準備もしておこう。

 埋め尽くしていた魔法の密度はだいぶ下がっているので、上手く行けば障壁で耐えきれるだろうけれど。


 だからそれなりに余裕だった。


 時間にして数分程度の弾幕を光の障壁が耐えきった瞬間。

 足元で大爆発が起こった。

 爆発により障壁は突破され、それに飲み込まれたオレは間もなく意識を失った――。


 ――なんてことはない。

 体中少し傷が出来てしまったが、どれも浅くダメージは少ない。

 とっさに「勇者」でステータスを倍化して耐久を上げたのが良かった。


 これがあるから様子見をしながら戦っていたのだけれど、まさか本当に使わされるとは思っていなかった。


「やった……と思ったのじゃが。流石は歴代の魔王様を倒してきた勇者という存在じゃのう」


 爆発による砂煙が晴れるころ、魔王が未だ立ち続けるオレを見て呆れたような声を出す。

 確かに危なかった。オレが「勇者」でなければ、今の一撃で殺されていたことだろう。

 間違いなく今まで戦ってきた中で最も強い敵だ。


 強くなったオレでも、負けるかもしれない。

 そんな敵。


「これは少し本気を出してもよさそうだな」

「これまで手加減でもしておったというつもりか?」

「いいや。だが、本気は出していなかった。奥の手は使っていなかったと言えばいいか?」

「そうか、つまりそれを耐えきれば余の勝ちじゃな?」

「そうなるな」


「勇者」のスキルは気軽に使えるものではない。ステータス上昇を2倍にするくらいなら今は30分以上持つだろうが、倍率を上げることで使える時間は加速度的に短くなる。

 今だと最大で7~8倍。だが時間制限は2分程度。

 制限時間を超えると、全身が筋肉痛のように痛み、まともに動けなくなる。


 だから耐えられれば負ける。


 しかし魔王程度であればステータス上昇は2倍で充分。

 倒すのにかかるのは数分でいけるだろう。


 光の剣を携え、「いくぞ」という掛け声とともに走り出す。

 魔王が黙ってみていてくれればいいのだが、さすがにそんなことはなく、走るオレに向かって様々な属性の槍を投擲してくる。

 先ほどまでのオレであれば、見つけられなかった隙間もやすやすと見つけ、飛んでくる槍を縫うように魔王に接近する。


 こうやって近づくのは2度目。今にして思うのは1度目は、魔王が望むコースを進まされていたのだと思う。

 だからこそ、近づけたと思ったところで反撃を受けた。

 だから今回はあえて難しい道を。今の状態ではないと通れないところを。


 こちらの事を目で追えなくなっている魔王の元へ。


 残り三歩、二歩……一歩。


 光の剣が魔王の胸を突き刺す。

 刺し口から血が噴き出し、目を見開いた魔王が吐血する。

 ああ、この感じが懐かしい。


 この世界に来て、最初に全能感を感じた瞬間と同じだ。

 周りの人たちがオレを讃えた瞬間だ。

 違うのは今は周りに誰もいない事。それから、確かに心臓を抉ったはずの魔王の表情が絶望に沈んでいることはなく、なぜがクククと笑っている事。


「何がおかしい?」

「いやな。お主こうやって人を殺したことは初めてではないじゃろ?」


 笑っているとはいえ、ほぼ死んでいるようなもの。

 たったそれだけ話したかと思うと、ゴホゴホと血とともに咳をする。

 戦争の終結。敵の大ボスだ。どうせ死ぬのだから、話に付き合ってやってもいいかと思い「それがどうした?」と返す。


「なあに。ちょっとした同情じゃ」

「悪の親玉が何言ってんだか」

「悪の親玉……のぅ。同情だけじゃ足りんようじゃ」


 魔王はそう言うと、やはりというべきか、なぜかというべきかクククと低い声で、だけれど確かに愉快そうな声で笑い、そして動かなくなった。

 何が言いたかったんだ? オレは魔王を倒した。

 これを兵たちに知らしめれば、王族と言えどもオレを軽く扱うことなどできなくなる。


 同情などされる謂れはない。それとも何か? 同じようにオレに殺された相手――通山にでも同情しているのだろうか?

 それならあり得る。何せもう一度オレに出会った時が、奴の終わりなのだから。

 せっかく生き返ったのに、またオレに殺されるのが決まっているのは確かに同情に値するかもしれない。


 何故それを魔王が知っているのかという疑問は残るが。


 気になることも多いが、ようやく勇者達がオレに追いついてきたので、余裕綽々で出迎えてやることにした。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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