126 ※市成視点
「王だというなら、なぜこんなところにいるんだ? 普通王座にいるんじゃないのか?」
「異な事を言う。余らが城で戦えば、城が崩れるじゃろ?」
「ここで戦っても一緒だと思うけど?」
オレの問いにニゲル女王は声を上げて笑う。
それが何だか気に食わなくて、鼻白む。
「そうかそうか。そんなに城を気にかけてくれるか。
魔族は好き放題殺しておいて、面白い奴じゃな」
「そうじゃない」
「分かっておるわ。余は生き埋めになるのはごめんなだけじゃ」
まぁ……確かに。生き埋めになって死ぬことはなくても、興がそがれるのは間違いない。
魔王と言えば玉座の間でのバトルだと思っていたけれど、仕方がないか。
「じゃあ、やろうか」
「こちらは質問に答えたのじゃ、そちらも答える義理があろう?」
「何を聞きたい?」
「お主はフラーウスで召喚された勇者じゃろう? お主が最も強いということで良いのかの?」
「ああ、間違いなくそうだ」
「そうか……それなら思いっきりやってよさそうじゃな」
そう言ってニゲル女王がどこからともなく真っ赤な槍を持ち出す。
それから間髪入れずにこちらに飛び掛かってくると、その槍で薙いで来る。
速さはそれなり。今のオレと同じくらいだろうか?
流石は魔王。他の奴らとは違う。
きっとこいつを倒せば、オレはもっと強くなれるだろう。
そう思うとワクワクしてしまう。
国から渡された剣を構え、槍を受け止めた……はずだった。
しかしその槍は剣を無視してオレの身体に迫る。
「……ッチ」
「勇者」のスキルを使い、ステータスを底上げして後ろに飛びのく。
ビュン……と風を切る音が聞こえ、オレの胸をかすめて槍が通り抜けていった。
「いけると思ったんじゃが……スキルか」
距離を取り、魔王がこちらを観察してくる。
よくもまぁ、あの服装であんなに動けるものだ。
さて、確かにガードしたはずなのに、どうして攻撃が届いたのか。
何の仕掛けがあるのかと思ったけれど、剣を見ればすぐにその答えが分かった。
持っていた剣の半分から上が無くなっている。その断面は何だかドロドロしていて、溶けたと表現するのが正しいだろう。
「その槍。魔法で作ったのか」
「別に珍しくは無かろう? だからこんな使い方もできる」
そう言ったかと思うと、手に持っていた槍を手放し、それが宙に浮いたかと思うと飛ばしてきた。
先ほどの魔王の動きよりも速い。
剣があれば弾くが、あったとしてもまた溶かされるのが落ちだろう。
とは言え、一度見せられたのなら、やり方は分かる。
何せオレは「光の使者」のスキルも持っているのだ。光属性の魔法であれば、一流の魔法使い程度には使うことができる。
しかし1から作り出すのはぶっつけ本番では難しいので、今しがた溶けた剣をもとに光の刃を作り出す。
試しにそれで飛んできた槍を弾けば、簡単に軌道がそれた。
なるほどなるほど、これは使いやすい。
感心している間に、魔王の周りにたくさんの弓が浮かんでいる。
それがひとつ残らずこちらを向いている。
気になるところは、つがえられている矢の色がそれぞれ違うところだろうか。
考察をしている間に魔王が手をこちらに向けると同時に、矢が射られる。
特に詠唱している様子もないし、「詠唱破棄」に近いスキルを持っているのだろうか?
だとしたら、だいぶ厄介だ。
なんて考えているわけではないか。
やられっぱなしもアレなので、今度はこちらも仕掛けに行く。
飛んでくる矢をよく見て、かわしながら前進する。
何発も撃てるらしくまるで雨だけれど、今のオレなら雨を避けながら動くなんて造作もない。
どうしても避けられないものは剣で払いつつ、魔王をこちらの間合いに入れる直前。
矢の雨が止んだところで、嫌な感じがして急停止する。
直後目の前を槍が一線通り抜けていった。
間一髪。冷汗が流れるのを感じつつ、改めて踏み込み相手の懐に入る。
相手は攻撃の直後。守ることもままならないだろうと、光の剣を振り下ろしたが、槍を捨てた魔王は簡単に剣の軌道から逃げていた。
武器が使い放題というのはなかなか厄介らしい。
「さて、そろそろ本気で行かせてもらうかの」
「ふーん。今までは手を抜いていたと?」
「思った以上に反応が良いみたいじゃからな」
ふんと魔王が鼻を鳴らすと、その魔力が辺り一帯に渦巻き始め、形を取り始める。
形自体は何の面白みもなければ、目新しさもない槍と弓。
だけれど、先ほどの正面だけとは違い、全方位から狙われている。その密度も先ほどまでとは比較にならない。
それから、全ての武器が黒に近い紫っぽい色をしていた。
「これを耐えられるかの」
魔王はにやりと笑うと、顔の前で上向きに広げた手を握り締めた。
一斉に飛んでくる攻撃。
まるで全方位から壁が迫ってくるかのような圧力に我武者羅に剣を振り回す。
すると剣が通った場所全ての魔法が溶けるように消えた。
なるほど。周りのこれはすべて、闇属性の魔法なのか。
光は闇に強い。ゲームや物語では、度々聞く話だ。
だとしたら、魔王は選択を誤った。
「光の使者」であるオレに闇魔法で挑むなんてな。
そうだとわかれば、相手の魔力も無限ではないのだから、全て叩ききればいい。
耐えきったらオレの勝ち、攻めきられればオレの負け。
それじゃあ、耐久戦を始めようか。





